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断片

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短編
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#短編

二月

二月

もうずっと、前髪が伸びたままである。美容院にはあまり行けないから、ひと月おきくらいに自分で切っている。いつもがたがたになってしまうが、誰に見せるわけでもないのでそれでいい。でもそれも最近はめっきりしなくなった。はさみをもつことがなくなってしまった。料理は元々ほとんどしないが包丁をもつこともできず、先日危険ゴミの日にぐちゃぐちゃの紙の皺を伸ばし何枚か重ねてぐるぐる巻きにして捨てた。
刃物が怖くなった

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地獄じゃあるまいし

地獄じゃあるまいし

年末、今年最後のゴミの日。日が昇るのを待って、パジャマのままでクロックスをひっかける。片手に燃えるゴミ、もう片手に生ゴミの袋を持って団地内のゴミ置き場を目指した。これから一週間くらいゴミの日がない。念入りに部屋の中をうろつきまわって確認したけど、おもったよりゴミは少なく1袋の3分の2くらいしか埋まらなかった。鼻がむずむずしてたわけでもないのに無意味に鼻をかんでティッシュを袋に入れてそのまま封をした

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前髪切ったことにもきづいてほしかった

前髪切ったことにもきづいてほしかった

じぶんの名前を呼ばれていることに気付くまで数秒かかった。声は聞こえていたのに、ことばは聞こえていたのに、その単語の意味を理解するのにぼくの頭のなかにあるグーグルで検索してから検索結果がでるまでがやけに遅かった。この速度を単純にぼくの持っている脳内のノートパソコンのスペックだと仮定すると、とりあえずデータの整理すらせずに電気屋に走るな、と思った。
一度失敗したらおわりなのだろうか? もうがんばるこ

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