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【読書記録】神さまの貨物

そう、ただ一つ存在に値するもの――実際の人生でも物語のなかでも、ほんとうにあってほしいもの、それは、愛だ。愛、子どもたちにそそがれる愛。自分の子にも、他人の子にも。たとえどんなことがあっても、どんなことがなくても、その愛があればこそ、人間は、生きてゆける。

ジャン=クロード・グランベール/河野万里子・訳『神さまの貨物』ポプラ社
エピローグより

愛の物語だ。間違いなく愛の物語だと思う。あまりにも過酷で、あまりにも残酷な環境の中、それでも愛のために生かされる人々の物語だ。

どこか寂しく呆然と立ち尽くしているような、でも強い意志を感じる後ろ姿が描かれた装丁が魅力的でずっと前に買って本棚に眠っていた1冊。調べてみると、2021年の本屋大賞翻訳小説部門で2位を獲得している。確か買ったときは本屋の一番目立つ棚に平積みになっていたので、4年も自宅の本棚で眠らせてしまった。本の中には挿絵は一切ないのに文章を追うと、まるで絵本でも読んでいるようにありありと情景が浮かぶ。深い森、きっと厳しい寒さに耐えられる針葉樹でできた森だ。そこに降り積もる雪は周りの音を吸収して、きんと張りつめた静けさが広がる。静かな森の中で淡々と進む物語の中で次々と降りかかる試練に、愛を伝えるためだけなら、こんなに厳しい環境に登場人物たちを置くだろうかと苦しくなってしまう。間違いなく愛の物語だ。でも、これではあまりにも――。
最後まで読み進めると苦しく悲しい展開は、著者の出自に裏付けられる。読んでいる間じゅう、まさに胸が締め付けられるような思いになるのに、読み終えると静かで確かなエネルギーをもらう。

戦争下の環境ではなくても、生きている上で厳しい環境や状況にさらされることはままある。自分を守るために、自分を自分で満たすための方法や努力は必要不可欠だけれど、自分のためだけにはどうしても頑張り切れない。最後の最後の踏ん張りがきかない。けれどそんな自分自身がぎりぎりの状態でも、他の人のために手を差し伸べたくなったり、それによってなぜか自分の方が救われたりすることがある。苦しくも温かい物語を読んで、なんだか人はそういう風にできているのかもしれないなと思うし、そうだったらいいなとも思う。
これまでに受けた愛を、もしくはこれからも受けるかもしれない愛を正しい形で次の世代に贈るために、人は踏ん張るのかもしれない。

こんな世界を、どうして愛なしに生きていけようか。

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乃々果
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