five realities 〜嫉妬〜 (3)
入道雲が鱗雲にかわり空が高く感じる
リゾートを楽しむ客足も減り
いつもの町にもどろうとしていた
季節の移り変わりがはやいこの町では
これから急に雨量が増え
外出もままならない日々が続く
そして
あっという間に冬景色に包まれる
店を閉め三人で夕食をとりながら
明日は街の市場に行ってくるわ
ここではそろそろ冬支度が必要になるの
明朝までに書き出してくれたら
調達してくるわ
マリアが一人で行くの
心配そうにアンナが聞く
もちろん
マリアは荷馬車も乗りこなせるの
一人で生きていると
何でもできるようになるのよ
頼れる人がいるアンナが羨ましい反面
なんでも自分で決め行動できるという
自由に優越を感じた
アンナが不意に
サム 一緒に行ったらどう
マリアは心臓が飛び出すくらい驚いた
私たちもここで暮らしていくのだから
頼ってばかりではいられないわ
マリアごめんなさい
私は長時間の移動はかえって
迷惑をかけてしまうと思うの
サムどうかしら
そうだな マリア
明日一緒に行ってくれるかい
もちろんよ 私も助かるわ
動揺が伝わらなかったか心配で二人を見た
マリアをみて嬉しそうに笑う二人に安心し
明日はサムとふたりで過ごせる
喜びが湧き上がってきた
明朝
見送るアンナに手を振り
街への道を進んでゆく
荷馬車の助手席に座り
風景を眺めながら街まで行くのは
どれくらいぶりだろう
道を間違えないように注意し
小川のせせらぎも
風の囁きにも気づかず
一人で街までの往復をしてきた
さわやかな秋風を感じ
キラキラした風景を見る
そして
隣にはサムがいる
すべてがマリアの気持ちを満たしていく
他愛もない会話に笑い
陽の光に心地よさを感じ
雲の流れに感動した
木々や道端の花たちが
ふたりが通り過ぎるのを
嬉しそうに見送っていた
この瞬間を止めてしまいたいと
心の底から願っていた
昼前には市場に着いた
サム おつかれさま
こんなに早く着いたのははじめてよ
市場はたくさんの人で賑わい
新鮮な野菜や肉に魚貝類が並び
日常雑貨が所狭しと並べられていた
色々な素材に刺しゅうやビーズで
装飾した衣類に目を奪われていった
おや旦那かい
馴染みの行商たちがサムと歩くマリアに
声をかけてくる
最初は恥ずかしく
説明をくりかえしていたが
横で笑っているサムの顔を見ているうちに
素敵な旦那さんでしょ
マリアの言葉に驚きながらも
大きな声で笑うサムを見て嬉しかった
買い忘れはないかい
荷馬車いっぱいに荷を積みながらサムが言う
ええ 大丈夫よ
では まいりましょうか
その前に腹ごしらえだな
嬉しそうに笑うサムと港一大きな食堂に入り
パエリアとパスタを注文した
テーブルに届いた料理は
新鮮な魚介が宝石のように散りばめられ
キラキラ輝いていた
こんな素敵な料理が作れるなってすごいわ
料理に目を奪われているマリアのかわりに
取りわけすかさず口に運ぶ
マリアのパエリアの方が美味い
マリアのパスタの方が美味い
コロコロ笑うマリアを見て
サムが微笑む
料理を堪能し荷馬車に乗り込む
帰路はとても早く感じられた
次第に言葉数が少なくなっていく
うつ向きがちに助手席に座っていると
マリア
雲行きがおかしくなってきた
その言葉に空を見上げると
黒い雲が迫ってきていた
少し飛ばすよ
しっかりつかまって
馬を急がせ峠に差し掛かった時
大粒の雨が額にあたり周囲が暗くなった
次々に響き渡る雷鳴に馬が暴れだした
これ以上は無理だ
馬を引いてから
マリアは真ん中に座ってくれ
私も引くわ
馬車から降りようとするマリアに
危ないから言うことを聞いてくれ
サムの言葉に手綱を握り
数メートル先も見えない
雷雨の中を進んで行く
下り坂に差し掛かった時
家がある
サムが見つめる方向に民家があった
少し休ませてもらおう
馬をなだめながらゆっくりと進んで行く
ぬかるんだ道に足を奪われながらも
家の前に着いた
そこは人が住んでいない廃墟だった
さあ早く中に入って
ごめん 寒かっただろ
暖炉は使えそうだ
もう少しだから
震える身体を両手で抱きしめながら
必死に火をおこすサムの背中を見ていた
ついた直ぐ温かくなるから
こっちにおいで
振り返ったサムは慌てて目をそらした
雨に濡れた服は
成熟した女であることを示し
身体のラインを浮き彫りにしていた
暖炉の火がパチパチと音を立て
かたちを大きくしていく
一歩ずつ近づくマリアに
サムが一瞬たじろいだ
サムへの気持ちを逸らせない
すべてから目を逸らさない
真っすぐ見つめ前に立つ
サムの髪から流れ落ちる雫
額に
耳に
頬に
ゆっくり流れる雫を指先で追いかける
唇に伝う雫を受け止めた指を離し
唇を重ねた
震える唇を軽くあて
温もりを感じ
強く深く重ね合わせていった
感触を味わいつくした
サムの唇が
マリアの首筋におりていく
互いの服を脱がし
震える唇と指先で
ゆっくりと肉体を確かめ合っていく
サムの唇が
サムの手が
触れたところに
じわじわと水が集まり
身体に小さな雫ができあがっていく
水玉は全身を潤し
サムの指が花弁に触れた瞬間
子宮に集まりだした
そして泉となり
ゆっくりと温められ子宮から溢れ出す
これから全てを受け入れる
長い年月待ち焦がれていた
ふたつが一つに戻る
溢れ出した泉の水は全身を駆け巡り
サムを迎え入れた瞬間
子宮に戻り一気に爆発した
何度も求めあう
それが当たり前のことのように
身体が欲していた
心と肉体に宿っていた孤独という闇を
暖かい光が満たしていく
今だけでいい
それだけでいい
どれだけの時間が過ぎたのだろう
押し寄せる快楽と
朦朧とする意識のなか
サムが切ない顔をし
身体を離した
ゆっくりとマリアから自身を抜き出し
乾草の上に放射した
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