直治

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表現者/人間 https://lit.link/naoji00 ショートショートや雑記をメインに載せていきます。音声配信アプリstand.fmにて『物語るラジオ』(公式承認)『ちいさなものがたり』(コラボチャンネル)を運営中です。

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創作大賞2024応募作品『七月の踏切を渡る』

どこまでも続く原始そのままの蒼い空を見たとき、彼は真夏の球児たちを思った。青空の下、白球を追いかけるそのまっすぐな視線を想像した。視線の先には夢があった。夢には果てがなかった。そこには嘘がなかった。かつての彼もまた、球児だった。手のひらに豆をつくりながらバットを振った。自分の投げる白球の先にはグローブがあった。受け止めてくれる誰かの手があった。彼が声を出せば仲間も声で応えてくれた。白球でも言葉でも、キャッチボールが出来た。 7月23日。彼の腕時計は19時を回っていた。 彼は

    • おかげ様でフォロワー様が100名になりました!これからも楽しんで書いていきます!ありがとう。 先日の空 グラデーションの中に一筋の光が 2024年 夏

      • 『音がきこえる』

        真夏 おれはロックンロールで死んで 夜更けのブルースで再生した 明け方に届いたハウスが もういちどあそこへ誘えば ジェントルマンのジャズが おれをやさしく抱きしめた 喪失と再生の 音がきこえる 真夏 おれは青空の下で白球を追いかけた その放物線は素直な言葉のように正しかった 赤い縫い目が間近に迫ってくる おれは見当違いの方向に手を伸ばした 白球がおれを横切り裏切り地面に叩きつけられた 太陽はギラリと光っていた 落胆と歓喜の 声がきこえる 真夏 おれは大勢の人に受け入れ

        • 『生活』

          生活 眼鏡をかけるということ ぼんやりとした 世界の輪郭を知るということ そしてまた 眼鏡を外すということ 生活 イヤホンをつけるということ ぼうぼうとした世界の音を遮断するということ そしてまた イヤホンを外すということ 生活 人の優しさに泣くということ 気づいてしまった悪に怒るということ 正義の顔をした自分の狡さに気づくということ 生活 浴槽に浸かるということ ちいさな浴槽が大きな浴槽になるということ 気を抜けば ちいさな浴槽に戻ってしまうということ 生活 蛇口を

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        創作大賞2024応募作品『七月の踏切を渡る』

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          創作大賞2024応募作品『白い花』

          静かな夜だ。霧のような雨が朝から降り続いている。 私のアパートの向かいにある5階建てのマンション、204号室で男と女が口論をしている。もう1時間は口論をしているだろう。内容はわからないが、どうも心中穏やかではない感じだ。 突然、女が泣き出した。その場に力なく座り込んだ。男は女の前で立ち尽くしている。女はすぐに泣くのをやめた。男が床に転がっていたボックスティッシュを女に手渡した。女はティッシュを受け取り鼻をかんだ。男も女も黙っている。散々口論した後だ。お互い疲れ切っているに違い

          創作大賞2024応募作品『白い花』

          創作大賞2024応募作品『銀の糸』

          男は線を引くことに取り憑かれていた。 内容はなんでもよかった。その日の気分次第。簡単な絵を描くこともあれば、日記やエッセイ、ショートショートを書くこともあった。真白な紙にどれだけの細い線を引くことができるか。その線をどこで繋げ、重ね合わせることができるのか。毎日が実験だった。男にとってそれだけが重大な任務であった。 まず一冊のノートを用意する。無地が好ましい。次に愛用のメカニカルペンシルを持つ。一度ノックをすれば芯が切れるまで自動で出続けるものだ。芯計は0.2㎜、濃度は2B

          創作大賞2024応募作品『銀の糸』

          『Hermitage』言葉について

          私には詩というものがわからない。 知ろうとも思わない。「詩とは言葉の束である」と誰かが言っていた。たしかに不思議なものだ。言葉には結束という作用がある。 彼が放つちいさな言葉があるとする。彼はそこにもうひとつのちいさな言葉を放つ。彼の言葉は手と手を繋ぐ。手を繋いだ言葉は強大である。その場の空気を一変させる。聞き手の「今」を変える。大袈裟ではなく、その世界を変えてしまう。耳から吸収された言葉という振動は、脳に、心に、胎に染み渡る。彼の放ったひとつの言葉という振動によって、人間が

          『Hermitage』言葉について

          『作品48』独白

          女の眠っている顔がいつもとはまるで違って見える。今にも何かを語り出しそうだ。男は眠れない。ベッドから起き上がり、部屋中を歩き回る。どうすれば、自分でも聞こえないような声で。どうしたい、自分でもはっきりと聞こえる声で。男は独りごちる。 壁掛けの時計は午前三時を回っている。秒針が焦り始めている。一秒を一秒以内に。後戻りはしない。何かが壊れていく。一秒ごとにひとつずつ。その響きが男の部屋をひどく空虚なものにしてゆく。男は世界から孤立させられる。静寂だけが男と向き合い此処に固定させる

          『作品48』独白

          『作品48 』 おれは夢を見ていたのか

          机の前の壁に出来た、顔のようなシミ。 男は長い間その存在に気づかなかった。 シミはヤニ色に染まった壁の中で息をひそめ、そのときをじっとうかがっているようだった。奥行きのある瞳、薄い唇、薄茶色のそれは微笑でもなく、泣きべそでもない、表情というものをまったく感じさせなかった。ただ一途に、男をみつめているだけであった。 男は何時間もシミをみつめた。睨めっこなら自信があったのだ。おれはそう簡単には笑わない、おまえなんかに負けてたまるか、ん、むむ……ぷはっ。よしもう一度。むむむ……むむ

          『作品48 』 おれは夢を見ていたのか

          『作品48』

          「私のレクイエムは、特定の人物や事柄を意識して書いたものではありません。……あえていえば、楽しみのためでしょうか」 ガブリエル・フォーレ         (Wikipediaより抜粋) リピート設定された曲が再び流れ始める。 管弦楽の斉唱が低音を鳴り響かせ、宗教的な合唱が歌う。テノールは甘く透明な声で祈り、やがてボーイソプラノが受け継ぐ。最後に、四部合唱が再び歌い出す。「永遠の安息を、僕の上に、永遠の光を、照らしたまえ」 椅子に座った男がひとり。スピーカーから流れる薄い音に

          『作品48』

          創作大賞2024応募作品『四月。』

          まだ四月だというのに、車内は窓を開けないと耐えられないほど暑かった。男は信号待ちの間、煙草に火をつけようか迷ったが、結局つけなかった。チクチクと胃の辺りが痛むからだ。ここのところ物事が上手くいかず、気分もすぐれなかった。不惑という言葉が男の脳裏をかすめた。「こんなものか」男はハンドルを握りながら独りごちた。遠くの方でクラクションを鳴らす音がした。一瞬、それが何処から聞こえてきて誰に向けられた合図なのかわからなかったが、後方の車が自分に向けた音だとわかり、男は急いでアクセルを踏

          創作大賞2024応募作品『四月。』

          創作大賞2024応募作品『KOKUEN』

          彼は鉛筆を13時間削り続けていた。 別段珍しいことではなかったが、今までのそれとは何かが違った。何かが違う、といっても私にはわからない。本来ならば、作者は書かない設定こそ大切にしておくべきだろうが、私にはわからないのだ。彼は私をすでに通り過ぎている。私の手から離れ、どこか遠い、ふるさとのような場所に行ってしまっている。坂口安吾はそれを「文学のふるさと」と表現した。が、ここでいう私のふるさとは違う、もっと低俗で、悪臭すら漂う、それでいてなんだか楽観的な場所だ。安吾の書く「ふるさ

          創作大賞2024応募作品『KOKUEN』

          『天使みたいな子のはなし』

          書きかけのメモ  転がった鉛筆    積み重ねられた本  固まったカップ麺 浮かび上がった油分       飲みかけの水 浮かんだ藻    くすんだコカ・コーラ 蒸発した二酸化炭素        濃度を増したコーヒーはゴムの味     食い散らかしたパン屑 星屑 スターダスト            否          ゴミ屑たち     床を這う虫        懸命に食事を運ぶ         生きなくっちゃ            生きなくっちゃ        せっせ、せ

          『天使みたいな子のはなし』

          『春の夜のはなし』

          きょう、ぼくはぼくをころした。 ないぞうをえぐりだして、みんなにみせてやった。 みんなはへいきなかおしてた。 こんなにてがまっかなのに、こんなにいたいのに。 みんなはへいきなかおしてた。 しょうじき、これにはおどろいた。 と、ここまで書いて彼はペンを置いた。 時刻は午前2時をまわっていた。いったいどれくらい机に向かっていたのだろう。喉がカラカラだった。腰が鈍く痛んだ。頭の中は空っぽで、もう何も考えることが出来なかった。しかしもう少し書きたい。思考という果汁を、最後の一滴まで

          『春の夜のはなし』

          『或るデラシネの一生』

          カタチがない。 それが彼にとって最後の事実だった。 彼の最初の行動はペンケースを選ぶことだった。散らかし放題の机上を引っかきまわした。どこにも目当てのものはない。いや、あるにはあった。しかしどのペンケースも違った。缶のペン立て、プラスチックケース、帆布の袋もしっくりこなかった。さんざ悩んだ挙句、彼は革製のちいさなペンケースを選んだ。それは焦げ茶色の、使い古されたシンプルなものだった。これだ、これだ。彼は革の匂いにいくらかの安心をおぼえた。次に取る行動は簡単だった。真鍮のペンシ

          『或るデラシネの一生』

          『自省録』

          私から私へ 1 書けないときはノートに「書けない」とだけ書き続ける。それを笑う者は書く喜びを知らない者である。 2 手の感覚を大事にせよ。今触れているものがすべてである。 3 近くに疲れたら遠くを見よ。 4 自分の毒を見逃すな。逃げるな。宝である。 5 書きつぶせ。己のくだらぬ思想などいらない。恥部のみを書け。 6 誰かの批評をするな。いつまでも批評される者であれ。 7 線をひけ。周りは止めるであろう。「その線から先へ行ってはいけない」と。行くなら行け。そのかわ

          『自省録』