日向

小説を書くことにしました。音に敏感です。              なるべくそっとして…

日向

小説を書くことにしました。音に敏感です。              なるべくそっとしてほしいです。

最近の記事

【小説】すいようび

眠りから覚めたくても覚められない平日の朝。 眠りたくて眠りたくてどうしようもない平日の昼。 眠りたいのに眠れない泣き出しそうな平日の夜。  わたしは旅に出た。  古いビルの地下にあるレトロな喫茶店。 オレンジ色のまあるい電球と、ミントブルーのベロア生地の椅子。店内には常連客のおばあちゃんがカウンターに座っている。  店員さんに案内されるがまま、いちばん奥の二人がけの椅子に座り、490円の珈琲を注文する。 おしぼりを袋から出し、においを嗅ぐ。  わたしには癖がふたつが

    • 【小説】大丈夫じゃないよ

      「ええ?プリウス?しかも赤の? 明日、雨だから、コーティングできないよお」  車にまったく興味のないわたしは、プリウスという車はどんなものなのかわからない。 でも、きっと、わたしの乗ってきた車なんかより、ずっとハイテクでスマートで、燃費ばっかりいいんだろうなと思う。  わたしの車は、まあるい目をした、イエベ秋のような、深みのあるきいろの車。 ドライブマイカーで西島さんが乗っていた、あの車ほど、古くはないけど、もうかれこれ数十年は乗っている。 何事も経験だ、とか言うけれど

      • おひさま

        母は、太陽のような人だ。 朝早くに弁当を作り、仕事にでて、服を売る。 母は、気持ちのいい人だ。 これは、よく常連客に言われるらしい。 母は、一日の終わりに、今日もよく頑張った!、と笑顔で言う。 それに比べて、わたしは、今日も疲れた、とため息をつきながら言ってしまう。 今日は、母の50歳の誕生日。 ついでにわたしの25歳の誕生日。 25年前、ようやく産まれたわたし。 わたしを抱いている母は、今のわたしにそっくりで、ちょっぴり涙が出た。 お日様のような人になっ

        • 【小説】年下の男の子 下

          「千夏さん、そろそろ休憩行こっか。」 上司にそう言われ、休憩室に向かった。 休憩室には、長机とパイプ椅子が4脚、それとどこかの国のゾウの置物がたくさん置いてある。  休憩室の扉を開けると、いつもと同じようなダメージまみれのネイビーブルーのTシャツに、寝癖いっぱいの彼が座っていた。 「おつかれ様です。久しぶりですね。」 「穂高くんおつかれ様。爪、すごい色だね。」 穂高くんは、近くの美術学校に通っている学生で、いつも何かの塗料で指先を染めている。  わたしは穂高くんと寝たこと

        【小説】すいようび

          【小説】年下の男の子 上

           太陽が燦々と、太陽が似合わないわたしを照らしてる。わたしの目の前にあるのは、重くて、硬い、蜘蛛の巣まみれになっている扉。  どのくらいの時間が経ったのだろうか。 手のひらはべたつき、こめかみに汗が垂れる。 わたしは思い切り息を吸う。外の空気は思っている以上にあつく、わたしは思わず咳き込む。いつぶりだろうか。久しぶりの外だった。  わたしは数ヶ月に一回、仕事に行けなくなる。 外に出れなくなる。何もできなくなる。精神科に行ったほうがいいと、周りには言われるが、行こうとすると、

          【小説】年下の男の子 上

          【小説】真っ青な恋人

          明日、動物園に行こう なんで? ヒョウ柄のチンパンジーが生まれなんだって すごい混んでて整理券配ってるんだけどね その整理券朝の8時半から配ってるんだけど、どうかな 動物園っていくらかかんの? 1000円くらいかな そのチンパンジーもうニュースで見たし、 24時間動物監視してるYouTube知ってる? それ見たらもう動物園だよ あ、そうだよねごめんね。 そんなことより、今読んでる漫画の展示会やるんだけど一緒に行かない? いいけど、それはいくらかかるの? 入場料は2500円。

          【小説】真っ青な恋人

          【小説】恋々と。

           明日で三十七になる。独身。 恋人とは、2年前に別れ、この2年間で私はひと回り大きくなった。  ある本で読んだことがある。猫と女は、構わないと太り続ける。確かにそうだ。    男というのは馬鹿なもので、以前の恋人とは、7年ほど交際していた。結婚を視野に入れ、ふたりで貯金を頑張っていたのにも関わらず、彼は他の女に、毎月20万円渡していたのだ。馬鹿だな。  その女は美術系の大学に通っているそうで、その学費を彼は免除していたらしい。  私はもっぱら、美術なんて興味がなく、彼は高

          【小説】恋々と。

          【小説】散りぬるを

          「窓、あけてもいい?」 彼にそう聞いても返事はない。返事なんか返ってこないのに、いつも私は彼に話しかけてしまう。 窓を開けると、暖かい風と桜の花びらが部屋の中に舞い込んできた。 彼は今、真っ白で清潔な部屋で気持ちよさそうに眠っている。  彼は半年前、彼女の部屋から海に飛び込んだ。 幸い、崖の下には人がいて、運良く一命を取り留めたのだ。  最初の頃は、彼は酸素マスクと無数の管と包帯で、痛々しく、無理に生かされているように見えた。部屋で眠っていた彼女を追いかけていったのに、自

          【小説】散りぬるを

          【小説】さいはて

           僕は女の子に人気があるらしい。 ある漫画にでてくる男の子に似ているみたいだ。服飾の学校に通っているから、周りはほとんど女の子だし、顔は小さい方だし、脚は意外と長い。自分でも、フレアパンツがよく似合っていると思う。  そんな僕に彼女は嫉妬する。あたしなんかより、学校の若い女の子のほうがいいんでしょとか、30歳になりたくないとか、最近よく言っている。そんなことないよ、はるちゃんが一番だよと、僕は言うが、かなり面倒くさい。面倒くさいの先に、可愛いがあるからいいんだけどね。  僕と

          【小説】さいはて

          【小説】ねこの子

           職場に変わったオンナがいる。 名前は、『剛力祈子』祈る子と書いてねこだ。 ねこだと、、、親の顔が見てみたい。 このご時世、多様性だとか、なんとかかんとかだとかで、コンプライアンス的につっこみづらい。 でもねこだぞ。名前が珍しいだけだと最初は思った。けれど違った。彼女の語尾が、「にゃん」なのだ。にゃん。彼女は自分の名前を気に入っているのだ。 「剛力さん。」 私は彼女を呼ぶ。反応がない。3回くらい呼ぶ。 やっぱり反応がない。私は小さなため息をつく。 「祈子さん。」 「はあい。

          【小説】ねこの子

          【小説】スイカのにおい

           今日はひどくつかれた。 同級生の結婚式に参加したのだ。履き慣れないヒールを履いたせいで、靴擦れができ、脚が棒のようになっている。  急いで電車に乗り込み、一番端の席に座る。時刻はお昼過ぎで、車内はすいている。  わたしは電車が好きだ。ただの移動手段で利用してるだけでなく、揺られながら、景色を見たり人を観察したりしている。目を閉じると、自分の鼓動と電車の鼓動が交わり、少しどきどきする。同棲している彼に話すと理解できないみたいで、君が楽しいならそれでいいよと、苦笑いしながら答

          【小説】スイカのにおい

          ご挨拶

          noteをご利用の皆様 はじめまして、日向と申します。 読み方は秘密です。今年で25歳になります。 もう25歳。まだ25歳。周りの友だちは安定した職に就いたり、結婚出産したり、、、。 足踏みばかりしているわたしですが、何だってできるし、何にだってなれる気がします。 ここでは短篇小説を書こうと思います。 季節の変化や体調等で、掲載は不定期になりますが、 色々な方に読んでいただけたら嬉しいです。                      日向