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美術予備校の講師バイトを辞めました。

つい先日、講師バイトとして約3年半勤めた美術予備校を退職しました。

受験生の時に1年間生徒として通っていたので、約4年半の付き合いになりますね。大学生活より長いじゃねえか。


せっかくなんで思い出を振り返ったり、内情を暴露したりしていこうかなと思います。美術予備校の講師っつーのはこんな感じですよ。

上司から連絡が来るメッセージアプリはさっきアンストしといたし、そもそももう辞めてるから怖いモンないね。





どんなところに勤めてた?


都内の大手美術予備校でした。全体的に実績が非常に高く、特に東京藝大の合格者数がやたら多くて、なんか逆にキモいなとよく思ってました。SAPIXみたいなもん。

中学生コース、高1・高2コース、高3・浪人生コースなどに分かれています。僕が勤めていたのは、高1・高2コースですね。

高校1年生、2年生は話しやすいし比較的素直だし、非常にやりやすかったです。これが浪人生相手だったらおれのメンタルの方がやられていたかもしれない。



体験者向け課題のデモンストレーション。ちょっと布が固いな。

こんな感じで、生徒の前で実技のデモンストレーション(デモスト)を行うこともありました。毎回緊張したなあ。





始めた理由は?

誘われたからですね。

約3年半前、大学に合格した日に、当時予備校でお世話になっていた先生から「うちの、高1・高2コースで講師をやらない?」と声をかけられました。

なんで合否発表当日にそんな話すんねん、やっぱ美術予備校ってヤベェなと思ったけど、合格した直後で動揺していた僕は「え、あ、うす」といつの間にか承諾していました。あとはまあ、受験生の時に学費75%免除してもらってた恩もあったし。


ちなみに僕みたいなヤツをうっかり雇ってしまった反省からか、翌年からは、講師を採用する際に普通に面接とかするようになったみたいです。



辞めた理由は?

単純に契約満了を迎えたからです。クビになったとか、トラブルがあって辞めたとかじゃないです。辛うじて。


給料は?

時給1,600円くらいでした。学生のバイトとしては悪くない額ではある。

ちなみに授業後に生徒が質問に来ることがよくあるんですが、残業代は発生していません。でも少なくとも僕は質問されるのが嫌だったことは一度もないし、生徒は変に気を遣わず、たくさん質問すればいいと思う。恋愛相談とかしたらいいと思う。

職場の制度としては、残業代出ないのは問題だと思うけどな。払ってくれ。



初めての絵の具でのデモスト。綺麗に描けたと思う。




じゃあ、これまで辞めなかった・・・・・・理由は?

楽だったからですね。これに尽きます。生徒を教える喜びとかそんな高尚なモンじゃないぜ。

僕は割と浪人期に色んなバイトをしたんですが、どれと比較しても、ここの予備校は仕事がかなり楽で、給料も悪くなくて、遅刻・欠勤とかにもゆるくて、非常に優良なバイトでした。同じ大学の美大生が多い分、課題や制作の忙しさとかにも理解があるしね。

あまりにゆるくて不安なので、もうちょっと厳しくした方がいいんじゃないかと思います。もう僕いないんで、好きなだけ厳しくしてあげてください。



仕事内容は?

「実技指導」「講評」「面談」の3つが主な仕事ですね。

美術予備校では基本的に授業らしい授業はなく、アトリエで生徒がずっと制作してるだけです。
そこを僕ら講師がうろつきながら、「いまどう?」とか「うんうん一回離れてみよっか」とか「ちょっと頭でかくね?」などと、ナンパ師さながらに声をかけるのが「実技指導」です。


制作が終わったら作品を壁に並べて、講師が1枚ずつ「講評」していきます。講評中の生徒の顔見るとみんなイヤ〜な顔してる。わかるよ〜〜。君たちのその顔けっこう好き。欲を出してけ。


そんで、僕が勤めてた高1・高2コースは、美術の初心者向けなので、新たに入学する生徒、体験をしに訪れる生徒が毎週のようにいました。あと夏期講習とかのシーズンになると、地方からも生徒が来たりしますしね。

そういう生徒たちとは全員一対一で「面談」をしていました。
「どの大学行きたいの〜?」とか「美大進学について親御さんってどう思ってんの〜?」とか、ホストさながらに優しくねっとりと尋ねていました。


他にも細かいとこで言えば、指導のための資料作りとか、保護者の方へ渡すめちゃくちゃ気を遣った書類作りとかもありました。





どんなことを意識してた?

色々考えた結果、最終的には優しく接しようと心がけていました。めっちゃ普通。


もちろん、こういう教育的な場においては、優しくすることが必ずしも優しさではなく、時に厳しいこと言ったり、あるいはボコボコに泣かせたりするのも大事なことではあるのですが。

でもまあみんなまだ高1・高2だし。高校生活を朝から夕方までおこなって、そのあと予備校に来て絵を描いている時点でめちゃくちゃすげえし、そのことをまずは尊重したかったのです。絵を描くこと、何かを作ることを、嫌いになって欲しくないし。



あとは、僕はたぶん高校生からすると、どちらかというと怖い寄りの見た目をしているので、できる限り優しげ〜な態度でバランスを取ろうみたいな意識もありました。怖そうなヤツの中身が実際に怖かったところでなんも面白くないからね。

あえて悪い言い方をすれば、ボコボコに言う役目を高3・浪人コースの先生たちに任せてたとも言えるかもしれません。まあでもそこんところは、上手くやってくれただろ?



僕は受験期は「構成デッサン」と呼ばれる種類のデッサンに取り組んでいたのですが、高1・高2コースではあまりやらなかったため、どちらかというと石膏デッサンをたくさん描いていました。



あと、僕が大事にしてたのは「面談」ですね。

ぶっちゃけ僕はバイトに対して熱量がそんなにあるわけではなく。
生徒と関わるのは面白かったし、責任感もあったけど、できる限りは楽したいし、7割くらいのエネルギーでこなせるんならそっちの方がいいよな〜と思っていました。全然トイレの個室で休んだりしてました。



でも、面談だけは超大事にしてた。

多くの先生が30分くらいで終わらせるところを、僕は1時間くらいザラにやってたし、長い時は2時間くらい話すこともありました。別に長けりゃ良いってわけじゃないですけどね。

僕ら講師にとって面談は毎日のように行う通常業務のひとつですが、生徒にとっては、憧れの美大生と話す初めての機会だったりします。そんで大抵は不安と緊張でいっぱいです。地方から来た人とかであれば尚更。

そういう人たちにとって、僕ら講師の一言というのは、ものすごく重い。僕の発言ひとつで、僕の怪訝な表情ひとつで、「やっぱ無理だわ!」つって美術に来なくなるかもしれない。



だから、少なくとも僕が面談する生徒は、可能な限り抱えている不安や悩みを払拭してあげたい。もし勇気が出ないのであれば、その背中を押したいし、判断できないのであれば、正しい知識をできるだけ多く伝えたい。



素直に思いを言葉にできない人でも、表情や間から汲み取って、「やっぱり美術やりたいんじゃないの?」って聞いてみたり。

緊張してる雰囲気だったら積極的に冗談を言って和ませたり、僕が面接で落ちた話したり、好きなゲームについて語ったり。

両親に反対されているという生徒がいたら、どう説得するか、あるいはすり抜けるか、一緒に考えたり。

「ここは君が来ていい場所だぜ」と、全ての手段を用いて伝えたかったです。どれくらい届いたんだろうか。



朝、いつものように海岸を散歩していると、ひとりの少年が何やら、海に向かって投げている。
「何してるんだい?」
「ヒトデを投げているのさ」
見ると、見渡す限り無数のヒトデが打ち上げられている。やがて死んでしまうだろう。
「こんなにたくさんいるのに、何の足しにもならないよ」

少年は、ヒトデをもうひとつ拾いあげた。
「でもこのヒトデには、大きな違いだと思うよ」

ローレン・アイズリー「星投げ人」


クリスマスに描いた色彩構成。クリスマスバイト、おれは結構好き。





やりがいは?

生徒のみんなの、美術の入口になれることかな。

僕たちと出会わなかったら美術を始めなかったかもしれない人が、僕たちと出会ったから美術を始めたかもしれない。そいつはおもしれーだろ。


あとは、0→1の基礎学習に携われるというのは、僕の気質に非常に合っていました。



まだ美術を始めたての頃、予備校の授業に参加したんですが、初心者の僕に対して道具や用語の説明とかがほとんど無く、すげー驚いた記憶があります。

「エスキース」とか「明度計画」とかワケわかんねえ単語が普通にたくさん飛び出して、めちゃくちゃ置いてきぼりになって、寂しかったです。

僕が正しい鉛筆の削り方を知ったのは美術を初めて2年後くらいでした。それも友達に聞いた。




「優しくない!」と思った。知らないことを学ぶために予備校に来たのに、知ってる前提で進むのなんなんだよと。

(まあこれは、初心者の僕がいきなり昼間部[浪人生のコース]に入っちゃったのが良くなかったんだろうけど)



でもそういう苦い記憶があるから、同じ体験をなるべく生徒にはさせたくないな、基礎段階こそ丁寧に教えなきゃなと常々思っており、それはこのバイトの仕事と合っていたし、大きなやりがいでした。

僕の中には基本的に、「俺たちが受けたクソみたいな教育を変えてやる」という闇の教育学部生マインドがあるのでね。ちなみに僕が一回教育学部に進んだのもそういう理由です。


教育学部にいたとき、周りには「勉強が好きだから」「子供が好きだから」「いい先生になりたいから」という光の学生と、「安定した職業だから」というまあそれはそれでという普通の学生と、「ヤツらから受けたクソみたいな教育の連鎖を俺が断ち切る」という闇の学生がいました。



初心者向けの絵の具の使い方のレクチャー



あと美術予備校というビジネスは、比較的、会社側(予備校)と顧客側(生徒や保護者)の利害がちゃんと一致していて良いな、と思います。

具体的には、生徒側には「なるべく良い大学に受かりたい」という思いがあるし、予備校側には「良い大学に生徒をたくさん受からせることで、実績を伸ばしたい」という思いがあり、これらはちゃんと噛み合っていますね。だから講師として仕事をしていても、後ろめたくならない。


当たり前のことって思うかもしれませんね。でも利害が実は噛み合ってないビジネスって意外とあるぜ。お前に言ってるんだ就活エージェント。




高1・高2コースだと、デモストが途中で終わることもよくある。




逆に、仕事に対する不満は?


不満というか、やっぱりどうしても残念なことは、生徒の合格まで見届けられないことですね。生徒が高3に上がると、当然高1・高2コースから離れてしまうから。もどかしい。


生徒が本格的に上手くなるのはやはり高3・浪人コースに入ってからなんですが、その成長を近くで目の当たりにすることはできないし、かつて見ていた生徒が志望大学に受かったとしても、それは僕らの手柄ではない。

そういう意味では、大きな達成感を得る瞬間が少ない仕事だなと思います。それゆえ、高3・浪人コースの先生ほど責任感が大きくなく、気楽にやれていいなとは思うけど。




なので僕は、個人的な感覚ですが、誰か生徒を「教えた」「育てた」という実感を全く持ってません。「教え子」なんて思ってない。「関わった生徒」くらいの認識です。



生徒たちと関わるとき、楽しいし嬉しいけど、「どうせ忘れるんだろ??」と思ってました。どうせ関われるのはほんの一瞬だし、高3になったらすぐに僕のことなんか忘れて、高3・浪人コースの先生と絆を深めたりするんだろ?ってね。

いやこんなメンヘラみたいな感じ方を実際してるわけじゃねえけどさ。でもやっぱ寂しいんだよ。




バイト期に唯一描いた構成デッサン。せめて終わらせて欲しい。




あとは、これは高1・高2コースに限った話じゃないけど、塾講師バイトはコンフォートゾーンすぎるってのはあるかも。

要は、たかだか大学生の身分で、高校生に「先生」って言われて慕われたり頼られたりするのって、ちょっと危ういかもなと思うわけです。"教える"って行為には自己陶酔の危険性があるよね。



つーか思うんだけどさ、塾講師バイトって簡単に「先生」って呼ばれすぎじゃね?

僕が教育学部出身で、友達が必死に教員免許取って教採受けて、大変な思いしながらいま「先生」をやってる姿をたくさん見てるから感じることかもしれないですが、先生ってそんな気軽な肩書きじゃないよなと。

「先生」って呼ばれる仕事は教師以外にも、医者、弁護士、作家、政治家、など色々あるけど、どれも大変な苦労をしないとなれない仕事ですよね。


でも塾講師バイトの場合、大学生がちょっと面接受けただけで(おれの場合は面接さえしてないけど)、それで「先生」になっちゃうって、簡単すぎないか?って思います。

別にこれはなにか具体的な批判をしているわけではなくて、なんか違和感あるなって話。実際最初の頃は、生徒に「先生」って呼ばれるのがクソむず痒かったです。でも悪い気はしなかったよ。呼んでくれてありがとうな。



色彩構成2枚目。個人的には全然嫌いじゃないけど、あんまり完成度は高くないかもしれんね。



同僚との関係について

結局バイトの楽しさなんて9割方人間関係で決まるわけですが、それはそれは楽しい人間関係でした。


ほぼ全員が同じ大学出身という、非常に偏った職場でもあったけれど、それゆえお互いがお互いを価値観を理解しやすかったですね。みんな制作が一番大事だから。
異文化交流しづらいってのはデメリットだけど。

あとはやっぱり、みな予備校講師として採用されている人たちなので、基本的にコミュニケーション能力が高かったですね。美大の中でもすごく話しやすい側の人たち。社会性のある美大生。こういうヤツらがたぶん良いデザイナーとかになるんだよ。


ただ、最初から仲が良かったわけではなかったです。バイト始めたての頃はむしろ、誰かと一緒に飯食うのが煩わしかったり、一人で帰る方が楽だったりと、壁を作りがちな方でした。今もそういうところはあるにはあるけど。

先輩と話す時は、生意気なヤツだと思われないか不安になり、後輩と話す時は、偉そうで馴れ馴れしいヤツだと思われないか不安になり、同級生と話す時は、それはそれで不安になりました。


だけど、うっかり話しかけてみると、笑って返してくれるようなことがありました。そういうことが何故か連続して起こりました。ひょっとしたら、もしかしたら、僕は怯えなくてもいいのかもしれないな、という予感を貰いました。

僕の性格をもうちょっと明るくしてくれた、大事な場所と仲間です。どうもありがとう。
これから先あんまり会えなくなるのかな。寂しいなあ。




講師室でイチャついてる様子。




Q&A

さて、このnoteを書く少し前に、インスタやツイッターで美術予備校講師の仕事について質問を募集していまして、それについて少し答えてみます。送ってくれた人ありがとう。

幸いかなり多く集まったんですが、長くなりすぎても読みづらいので、10問だけピックアップしました。質問の文面も短くしたりしてます。

それでも割と長いので、適当に読み流してください。下で会おう。



Q1. 生徒のことをどれくらい覚えていますか?

僕は正直、半分も覚えてないかもしれないです。

コースによって、また先生によって違うと思う。デザイン科志望の人は割と多いから把握しきれなかったりもするんだけど、彫刻科志望の人は比較的少ないから、彫刻科の先生はよく覚えてる、とかはある。

高1・高2コースだと新しい生徒がどんどん増えてくるから、なかなか覚えきれないんだよな。高3・浪人コースだと、ある程度メンバーが固定されてるから、もうちょっと覚えられてるんじゃないかと思う。



Q2. どんな生徒が印象に残りやすいですか?

長く在籍している生徒ですかね。

それと、あんまり良くないんだろうけど、やっぱり上手い人はどうしても印象に残りやすい。あとはまあ、髪やファッションが派手な人とか?

でもだからって、印象の強い人、弱い人で指導量とか態度は変わらない。意識的に変えないようにしてるまである。なので別に、講師に覚えてもらうことは生徒にとって特にプラスにならないから、気にしなくていいと思うな。



Q3. 講師もやはり人間ですし、生徒によって態度を変えたりしますか?

変えてるつもりはないけど、やっぱり変わってるかもしれませんね。

別に、好きな生徒や嫌いな生徒がいるわけではないけどもな。たとえば、めっちゃ無愛想な生徒だとこちらもちょっと話しかけづらい、みたいなのは多少ある。



Q4. 生徒に人気な講師って、なんとなく講師の間でもわかるものなんですか?

見当もつかないです。誰が人気だったんですか?




静物デッサンのデモスト。



Q5. 実技の成長率が大きかった生徒の共通点について、見解を知りたいです。

自立していて、かつ素直な人ですかね。

大前提自分ひとりで、課題や自分の弱点、特徴、勝ち方について考えることができ、その上で講師の講評や意見も反発せずに一旦受け入れることができる人、という印象。

柔軟であるともいえるし、戦略家であるともいえるし、頭が良いとも言える。勉強の成績とは別にね。




Q6. 制作中に、無言で講師が後ろに数十秒立って、何も言わずに去っていくのが怖いです。そういう時ってどんなことを考えているんですか?

「この子あんまり声かけてないからそろそろなんか言った方がいいかな〜。でも現状そこまで問題なさそうだし、一旦自分で進めてもらうか〜〜」

「顔の傾きちょっと違うな〜〜、でもさっき別の先生にも声かけられてたよな〜〜、でも言っといた方がいい気もするな〜〜どうしようかな〜〜」

「あ〜〜なんか気になるとこある……気がするけど……なんだろ? うまく言語化できねーな〜〜ちょっとあとで考えよ」

色々ある。怖がらせてごめんな。




Q7. 他の講師と絵や指導について意見が分かれたときどうしてましたか? 講師同士で揉めることもあるのですか?


あんま揉めないですね。

個人的には講師同士で、揉めるじゃなくても、もっとディスカッションしてもいいよなと思う。ただやっぱり講師同士にも先輩後輩の関係があったりするし、なかなか反対意見は出しづらい。

たま〜に意見が分かれる時もあるけど、そういう時はまあ上手く妥協点を探ったり、あるいは対立してる意見を両方生徒に伝えたりもしますね。美術の正解はひとつじゃないから。ちなみにそういう対立は、生徒に見えないとこでやるよ。



黒マスキングテープでクロッキーする課題。




Q8. 学生講師の立場で、予備校の方針や制度に闇を感じた瞬間はありますか?

正直あんまりないです。

強いて言うならそうだなあ。うちの予備校は特に、東京藝大の合格者を増やしたがっているので、高1・高2のうちから藝大志望者を増やすよう言われている、みたいなことはある。でもそれはやり方として理解できるし、闇ってほどには思わない。

夏期講習の費用高すぎるだろとか、結局お金をかけられるヤツが有利になるゲームじゃねえかと講師からしても思うけど、可視化されてるし闇じゃないよね。

もっと強いて言うなら、藝大受験って闇かもしれないな。何浪もしちゃうことあるし、病んだりもするし。そういう道に生徒を引き込むことは、本当に良いことなんだろうか?と不安になることはある。



Q9. 美術予備校の講師は、職場がかつて通っていた予備校で、同僚も同じ大学の顔見知りということもあり、世界やコミュニティが狭くなりそうな気もします。将来美術やデザイン系の業界に行く人は、広い世界を見てみたいとは思わないんでしょうか?

思わない人もいるだろうし、別の場所で世界を広げてる人もいるのでしょう。

ぶっちゃけ言う通りで、見える世界が狭くなりやすいというのは美術予備校バイトのデメリットだと思う。

でも個人的には、自分の世界を広げるのはもちろん良いことだけど、広げないことが良くないこととは思わないんだよな。マイルドヤンキーは幸福度が高い話みたいな。美大生には比較的、「広く」より「深く」を重んじる人が多いしね。

あとはもちろん、バイトとは別に色んなコミュニティに参加して、自分なりの新たな世界を見つけてる人も沢山いる。あるいは、一般的な世界に馴染めず逃げ込んだ場所が"美術"だった人もいるだろう。



Q10. 講師になりたくて講師になりましたか? なんとなく、講師になりたい人って「教えたがり」というか、自分の知識や技術の凄さを見せつけたいのかなという印象があります。実際そのような理由で講師になった知人もいるのですが、怖いなと思いました。

まあ一定数そういう人もいるかもしれないですね。

僕が講師になった理由は最初に書いた通りで、僕自身は「凄さを見せつけたい」とは全然思わないな。デモストとか極力したくないし。そもそも自分を凄いと思わないし。

ただ「情報を伝えたい」とは思っている。先に生まれた者として、次の時代の人たちになるべく多くの情報を残し、(大袈裟に言えば)世界を良くしていきたいと思っている。そういう意味じゃ「教えたがり」かもな?

でもやっぱり、見せつけたいって人は少数派じゃないかなあ。心のどっかにそういう欲は少しくらいあるかもしれないけどね。男子なんて特にね。「凄い」って思われるのは気持ちいいしね。でも全然、それだけじゃないよ。



質問は一旦以上です。ここで答えられなかったものは、また別の機会にインスタやツイッターで回答しようかなと思います。



割と最近描いた、ラストデッサン。上手く描けたと思う。




じゃあここから質問ではなく、送ってもらったありがた〜いメッセージをいくつか紹介、及び軽く返信していきます。

おれの講師としての仕事っぷりを「講評」してもらってるような気持ちだ。


少し個人的な内容にはなってきてるんだけど、まあこれも、あまり語られない美術予備校の講師の姿を可視化する一環としてね。引き続きかるーく読み流してください。


おれそんな講評したの?? すげーな。

講評中ってのは案外こっちも必死でさ。間が空きすぎないよう、頭フル回転して良いとこと改善点を探して、どんな言葉選びをすれば伝わるだろうかと文章構築して、まあ意外と余裕がないんですよ。

でもそうかー、なんか伝わったんなら良かったな。とても嬉しい。話し方を褒めてくれるのも嬉しい。どうもありがとう。引き続き友達と「よかったよね」って言い合っといてください。



初見の印象ってか見た目の情報全部だろそれ。怯えさせてごめんね。

「情に厚い」ってのは嬉しいな、情に厚いヤツになりたいよ、いつでも。地方から美大を目指す人には、僕は並々ならぬ共感があるので、今後とも少しでも力になれるといいな。話しかけてくれても嬉しいしな。ありがとう。また会おう。


いやあ、ありがたいですねえ。同僚のみんな聞いたかい?

高1・高2コースの講師の仕事は"繋ぐ"ことで、僕たちだけで完結することが決してできません。受験コースの先生方の日々の指導のおかげで、安心して託すことができています。
僕たちの生徒を、なんて偉そうに言えるもんでもないけれど、今後もどうぞよろしくお願いします。1を10に、100にしてやってください。バチボコに泣かせてやってください。



なんかそんなこともあった気がする。全体講評とか割と大雑把にやってたりするからね。あんま良くないけどもね。気にしすぎない方がいいよな。

生徒側がどう思ってるかは分からないけど、僕の視点だと、デザイン科志望でも他科志望でも、思い入れなどが変わるわけでは全然ない。関わりの量が多少違うだけでね。みんな応援している。ありがとうね。


1年も前なのに、こうやって伝えてくれてありがとうなあ。色彩構成も、そんなふうに役立ててもらえるなら、こんなに嬉しいことはないな。

ぜひ合格して報告して欲しいな。でも、その気持ちを削ぐつもりは全然ないんだけど、仮にどんな結果になろうと、また話せたらいいなと思う。同じ大学の後輩になってくれたら嬉しいけど、別にそうならなくたって何もダメじゃないんだ。でも合格してほしいとはちゃんと思ってるんだよ。このニュアンスは分かるだろ?

本当にどうもありがとう。お互い頑張ろう。







さいごに、生徒たちへ


3年半分関わってくれた生徒たち。今頃、どこで何をしているんだろうか。



もちろん普通に予備校に通い続けてる人はたくさんいるだろうけど、それも東京だったり地方だったりするだろう。

もう大学生になってる人もいるだろうし、浪人している人もきっといるよね。

あるいは美術を辞めちゃった人もいるだろうし、なんかもうどうしようもなくなって、廃人みたいになってる人もいるかもな。




申し訳ないというかなんというか、僕はやっぱりどうしても、全員のことを覚えているわけではない。つーか大半忘れてる。大切だったって実感まで忘れてるつもりはないんだけどさ。

だからたとえばいつの日か、かつて生徒だった君が僕に話しかけてくれたとして、僕がそれを思い出せないことも、まぁあると思うんだ。


だけどそれでも、他人になったなんて思わない。

ほんのわずかだったとしても、一緒に過ごした時間があるとすれば、それは記憶以上に、事実だ。記憶は消えても事実は消えない。思い出せないなんて些細なことなんだ。

だからいつかまた会おう。大学でも、大学の外でも。美術でも、美術の外でも。現実でも、現実の外でも。また話せたらおれはすごく嬉しいよ。



若干の余談なんだけど、僕は普通に君たちが、今、これから先、どんな作品を作るのかとても興味がある。だから君が作品を載せてるアカウントなんかがあれば、僕は割とフォローしたい。DMなんかで教えてくれたら是非フォローしたい。よろしくな。

そういや辞める前に生徒に、DMで作品送ったら講評してくれるんですかと訊かれたんだけど、別にそれくらいは全然するよ。別に生徒じゃなくたってね。





さて、本当にさいごに。

正直なことを言うと、僕は君たちをずっと応援しているけど、君がどんな大学に進学するかといったことについては、さほど興味がない。浪人するとかしないとか、そういうことも、あんまり気にしてない。

予備校の講師がこういうこと言うのどうかと思うけどね。まあもう辞めたし。怖いモンないし。


僕たちにとって大切なのは、どこにいるかよりも、世界をどう捉え、いかに心を震わせ、そして何をつくるかだ。場所は、大して関係ないと思う。でも応援しているよ。お互い、負けずに生き抜こう。


それじゃあ講評を終わります。気をつけて帰ってね。




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