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シフト終わりに廃棄間近のカフェ・オ・レを買って店舗から出ると、むわ、と熱気が顔に押し寄…
安全な恋を終へた日蹴りあつた爪先ぜんぶ巻き爪だつた 角砂糖いくつ入れても珈琲にならないふ…
職場にかかってきた電話で、息子が亡くなったから講座のメール配信をとめてほしい、とその子…
花筏 言葉は意味を為してゆく私道にずつとある水溜まり 死ななくていい日の口に放りこむパチ…
目をとじたまま歩くみたいに不安で不安定で躰をぐらつかせる昏い性器のなかを通って産まれてき…
どこかでD.S.に引っかかってセーニョに連れ戻されるみたいに二〇二〇年の夏と二〇二一年の夏…
夏の終わりの、夕方に吹く風だとか、夜の冷えたにおいだとかを儚いと呼んで、暑い季節を惜しむのがすきだった。そうしてじきに誕生日がきて、一日ごとに秋がすこしずつ進んで夫も同じ歳になり、長袖を着るようになって、肌が痛いと感じるほど寒くなって、仕事納めをして、一年が終わる。ひととせを、いつもどおり、とルーティンとして過ごすのは面白味に欠けて、ひょっとしたら惰性になってしまうのかもしれないけれど、平穏だからできることだともおもう。
コイという名前、珍しいなとおもって注文票をよくよく見たらアイだったし漢字も愛だった。あ…
うつ伏せの眠りにくさや半夏雨 一室を閉づる雨月にふたりかな
イヤホンの右側預けさみだるる 泣きにゆく夜のため空けておく露台
朝目がさめると、人間に戻れたような気がして安心する。 裸身に擦れるシーツに籠った平熱…
絡まらない髪を梳かした指の、爪の、白いところ1mmに来た夏が愚かしく静かで見ていられず――…
もう一度出会えたら抱きしめたいと恋焦がれるような熱い感情ではなく、けれどただすれ違うだ…
電車は空席が多いようにみえて窓がわの席がすべて埋まっているから満席で、安曇とわたしはドア付近に立ったままでいることにした。恋人のように手を繋いで、震えていた。わたしと安曇のどちらが震えているのかはわからなかったけれど、どちらかの身震いにつられて心臓の音を速くした。ど、ど、と鼓膜を直に打ち鳴らしているかのような音だった。