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2023年も映画が面白くてよかった!!(今年観た映画振り返り)

この映画まとめ4年目にして初めて年末にまとめて書いてないです、褒めて欲しい。

※ここに年間ベスト10入れる



↑はい、ここまでです!↑

今年もここまでを2月に書いた後、1本ずつ観た後に感想書くことも無く年末まで放置してました。
殴りたい!俺を!

というわけで今年もまとめて書きます2023年観た新作公開映画を振り返り、全部やると長いんである程度絞り込んで!では行きましょう。

↓今年のベスト10はこちら



キラーカブトガニ

「キモい裏側してたんだね 知らなかったよ」と思わずJAY WALKも歌い出しそうなくらい、世界一「カブトガニの腹(上の画像)が出てくる映画」なんですが、これが信じられないくらい面白い!!
ルンバより速く、テキーラを飲むカブトガニが街を襲う!終盤、「嘘だろ!お前らカブトガニだぞ!?」と絶叫してしまいそうな超展開も待ってる最高映画でした。「正月から俺は何を観ようと・・?」と映画館で本気で悩んだけどマジで観てよかった。
この映画が素晴らしいのが、主人公=ハンデを抱えた車椅子の高校生を中心に、主人公の恋人、兄、そしてIQに難ありで空気を読む発言が一切できない友人、との高校生活と人間ドラマが最高で、若者の成長を描くいわゆる「カミング・オブ・エイジ・ムービー」としても抜群の映画なんですよね、ほんとだって。中盤のプロムシーンとかマジでアメリカ青春映画史上に残る名シーン、だからマジでほんとなんだって!!
そしてラスト、『パシフィックリム』『アクアマン』などのVFXスタッフがなぜか集まった豪華製作陣の謎が解けた時、あなたは間違いなくこういうはずです。「嘘だろ・・面白いじゃん」

誰にも信じてもらえないんだけど4歳の頃近所のスーパーにカブトガニ売ってた


エンドロールのつづき

貧しいインド農村のチャイ売り少年サマイが映画と出会い映画に恋し、映画を観るためフィルム盗んだはいいけど映写機なんて無いわけで、なんと映写機の仕組みを目で覚え廃材で作ってしまう!という前半パートは「インド版ニューシネマ・パラダイス(の少年時代)」と言うべき内容で、中でも拾った割れガラスを通して見る世界から映画への憧れが生まれたり、貨物列車の中でピンホールカメラの原理を体験したり、映画見たさにフィルム盗みだしたりひたすらワクワクする映画への憧憬。そして、この映画は「インド庶民グルメ」が凄くて、主人公サマラに良くしてくれる映写技師に「映画を見せてもらう交換条件」として渡される母の手作り弁当が、見たことないインド庶民料理の連続で超うまそう。「お弁当の彩り」にこだわる文化って日本だけじゃないんですね。
さらにこの映画が凄いのは映画後半、時代の波にのまれ消えゆく「フィルム映画への愛」を少年が大人になっていく思春期の痛みと共に体感します。

少年の情熱と監督のフィルム映画への愛と感謝が炸裂する傑作映画、ほぼ実話!おススメ!

フィルムを透かして映画を想像する少年たちとか最高すぎるじゃないですか


パーフェクト・ドライバー

ポスターがダサい!オブ・ザ・イヤー受賞おめでとうございます!
「私は絶対失敗しない」なんてポスターに書く時点で失敗じゃないですか。おまけにタイトルもダサい!今気づいたけど「成功確率100%の女」なんてサブタイトルだったんですね。もれなくダサい、ダサさの総合デパートや~。

だけど本編は最高で、社会生活不適合女性な女運び屋ウナは人・モノ・カネなんでも時間内に届ける超凄腕のドライバー。だがある日の依頼「息子を送り届けて欲しい」の最中に依頼人の父はマフィアに殺され、ウナはソウォン少年と大金の眠る貸金庫の鍵を乗せマフィアから逃げる羽目に─
子どもに興味のないクールな運び屋ウナと、身寄りのない生意気なソウォン少年の逃避行、ウナを雇うスクラップ工場社長(裏では運び屋稼業のボス)など人情溢れる名脇役、カーアクション+サスペンス+人情ドラマの王道展開でちょうど良いエンタメ具合。アクション映画って「どこか1つアイデアあるアクション」あるのが映画の評価ポイントだと思うんだけど、立体駐車場でのカーアクションが素晴らしいしおススメ!
本編以外の全てがダサいけど!!!!

『パラサイト 半地下の家族』の家庭教師と教え子コンビです、激アツ


イニシェリン島の精霊

大傑作です。舞台は1920年ごろのアイルランドの離島。住民全員が顔見知りのこの島で暮らすパードリックは、長年の友人コルムから絶縁を言い渡されてしまう。ところから始まるオッサン2人のケンカと周囲の人間模様。

コリンファレル演じるパードリックも周囲の人間も、だいたいみんなちょっと足りなくて、コルムはそんな教養や知性の足りないパードリックを内心ちょっと見下している。残り少ない人生を考えた時に「もうお前と付きあってる時間はない」とコルムは宣言するんだけど、パードリックはそれが理解できない。「明日は機嫌が直ってるだろう」「俺のどこが悪いんだ言ってくれよ」 しかしインテリで教養あるコルムは長い時間を経て、知性のレベルが違うパードリックに理解されることを諦めてる。かみ合わない論点、理解されない心情、自分の事しか主張しない島民。
お気づきでしょうか?1920年代のこの島を舞台に描かれているのは、現代社会やSNSで起きていることだと。この映画が凄いのは、コルムに馬鹿にされているパードリックも他の島民を見下し、見下されたその人物もまた別の誰かを見下す、弱い者がさらに弱い者を叩く連鎖。全員が「自分は賢く、もしくは平均かもしれないが少なくともアイツよりはマシ」と思っている島、まんまSNSでしょ?
本作の島民たちにはハッキリと知性と教養の差があり、「同じ知性の者にしか同じ景色は見えない」しかし「知性の高さが幸せを生むわけではない(むしろ不幸になり得る)」ことが描かれる。物語中盤、ある知性の持ち主が島外への移住を決めるんだけど、それも暗に「新しい世界では別の知性に見下される(=見下していたものが見下される側に回る)」皮肉を描く。

いやーーとんでもないブラックコメディの大傑作!
劇中でパードリックがロバ(愚鈍の象徴)、コルムがボーダーコリー(知性の象徴)を愛す描写の通り全編ド皮肉にまみれた一本で、さすがは『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督!
ちなみにだいぶ足りないドミニク青年を演じるバリー・コーガンの演技が白眉、今後のキャリアが心配になるくらいのポンコツっぷりでした。さすがこのマクドナー監督に志願してきただけのことはある。↓右の青年です。

こんなに切実そうなシーンなのにこの2人どちらもポンコツなんです、凄くないですか?


フェイブルマンズ

やりやがったなこのジジイ!!
「スピルバーグの自伝的作品」って宣伝文句に、ついにスピルバーグも自伝作るようなくだらんジジイになったんだなーと思いながら観に行ったんだけど、とんでもなかった。
スピルバーグの少年時代=サミー少年のフィルムとの出会い、カメラ・撮影との出会い、いじめ、映画への情熱、という自身を描きながら同時に母の不倫、両親の不仲を正面から描く家族の物語。劇中で、映画撮影のセオリーを無視するくらいの光源の移動や強調、特に時折スポットライトくらいに強調される光で、これが「作り物の映画」だと観客に強調し、真実の物語なのかフィクションなのか途中から迷わせる、フェイブルマン=「作り話、寓話を語る男」の名の通りの一本。ラストのメタ演出含め、情熱も挫折も身内の醜聞もひっくるめて自分の人生を完全に「作り物の映画」に仕上げるスピルバーグ、やっぱりとんでもないジジイで映画の怪物だった。

このジジイ、たぶん150歳くらいまで撮ってる。


コンペティション

ハリウッドの欺瞞、映画界の嘘を真っ向から皮肉と当てこすりで小馬鹿にし続ける160km剛速球ブラックコメディ!
ただし馬鹿にするのはハリウッドだけでなくヨーロッパ映画界も皮肉にしまくる全方位爆撃のとんでもないバーサーカー映画で、120分映画界と業界人をいじり続けるのにめちゃくちゃ面白いという皮肉/当て擦り芸のワールドクラス!コンペティション(=賞レース)に踊らされる者もそれを馬鹿にしてるものも漏れなく全員いじります!大丈夫なのかこの監督!
悪意20000%の本作、映画を高尚に考察する観客をハメる罠も張り巡らされていて、ラストシーンまでほとばしる悪意に最後まで爆笑した。おススメ!

ラストシーン、あまりの性格の悪さに爆笑してしまった笑


ベイビ―わるきゅーれ 2ベイビー

社会生活不適合元女子校生殺し屋2人のゆるふわ日常パート2!
インディー傑作だった前作より大幅に予算が増え、相変わらず邦画アクション映画の最先端を突っ走ってます。シリーズ物を「前作から見て!」と言わない方だけど、これは1から観ることを激おススメ。
ゆるい日常+シスターフッドな2人にめちゃくちゃ笑えるのに、特にラストバトルのアイデアは世界のアクション映画でも出色の出来。ジョン・ウィックチームも唸ったラストバトルをぜひ見て欲しい(主演・伊澤彩織はジョンウィック4にスタント出演)
『花束みたいな恋をした』を観てると10倍笑えるので予習映画にぜひ、死ぬほどいじり倒してます 笑

世界一キレのある着ぐるみバトルもあります


エンパイア・オブ・ライト

1980年代のイギリス、寂れてゆく映画館に勤める中年女性ヒラリーと青年スティーヴンの出会いと恋。
躁鬱持ちの孤独なアラフィフ女性が若い男に恋し、のめり込み、情事を重ね、恋に傷付き号泣する。こんな痛々しい話がとんでもなく素敵な映画になる奇跡!映画館の閉鎖された展望レストランでの逢瀬、海へのデート、どれも眩しすぎない熱量が、寂れた英国の海辺の町と絶妙に合う素晴らしさ。後半、寂れゆく劇場と劇場再生を夢見る姿を80年代以降の英国に重ねるノスタルジックが染みる。しみじみと名作。

恋は、遠い日の花火ではない


マッシブ・タレント

致死量のニコラス・ケイジ!
ニコラスケイジが本人役で主演。富豪の誕生日パーティに行くだけで100万ドル、というオファーを金のため引き受けしぶしぶ富豪の所有する孤島にいったところ、待っていた富豪は超絶ニコケイファンのマフィアボスだった!という、企画する方もする方だし出る方も出る方だよ、という謎映画です。富豪のオッサンが「いつニコケイに大ファンだと打ち明けるか」モジモジする恋愛パートや、色々あってスパイになったり脱出アクション映画になっていくんですが予想の10倍くらいユルいのでビール飲みながら観るのがちょうど良いです。意を決したマフィアボスがニコケイだらけ(等身大フィギュアとか)のオタ部屋にニコケイを招待するくだりとか、わりと笑えるけど劇中たびたび頭をよぎる「俺は一体何を見せられているんだ・・?」という疑問は封印してください。考えたら負けだぞ。

ニコケイだらけのオタ部屋に案内されドン引くニコケイ


レッド・ロケット

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のショーン・ベイカー監督最新作。
出る奴全員ホワイトトラッシュ!!
地元テキサスへ戻った、落ちぶれたポルノスターのマイキー。別居中の妻の実家に転がりこむ厚かましさを発揮しつつ、周囲の人間すべてを利用し再起を図り、遂に町で出会った女子高生をポルノ界に売り込み一獲千金を狙う。

さすが貧困と格差を描かせたらアメリカNo1ショーン・ベイカー監督、本作はさらに輪をかけてクズしか出ない。
ダメ人間が栄光を目指し、また転落…ヒロインの黄色いドレスがさながらクズのララランド! 映画の名誉のために言っておくと「愛」「友情」「努力」「勝利」「大逆転」みたいな感動要素は一切ないです、ありのままのクズ。それなのになぜこんなにも良い映画なのか、クズにはクズにしか出せない感動がある。

完全にクズの『ラ・ラ・ランド』


TAR/ター

ケイト・ブランシェット史上最高傑作にして、10年に一度の大傑作!
天才クラシック指揮者ターに降りかかったパワハラ疑惑。職を追われたターは家庭でもトラブルを抱えつつ、復帰を模索する─
パワハラ問題、キャンセルカルチャー、天才の傲慢、同性愛、サイコスリラー、様々な切り口で語られるけどそれはすべて表層で、全てのシーン、セリフに意味があり、全てが伏線とミスリード。その表層を紐解いていくと「芸術への愛と再生」というテーマが浮かび上がってくるとんでもない映画。
エンドロールから始まるオープニング、初見ではほぼ内容が理解しきれない多層構造、クラシックの技法で第1・第2楽章に分けられた構成。
人生で一番、劇場で何回も観た映画になった。すんごいよ。

↓『TAR』について語るとあまりに長いのでよかったら過去ツイートのツリー見て


EO/イーオー

主演:ロバ!!サーカス団で飼われていたロバのEOが、サーカスを追い出されたことで始まる放浪の旅。
人語を話すわけでなく、本当にただのロバが旅するんだけど途中で出会うというかEOが巻き込まれる人間のトラブルや事情がロバの目を通すことで、人間の醜悪さが浮かび上がる聖書の旅のような映画。それをまぁぶっ飛んだ色調の画面で構成するサイケデリック・ロードムービー。
EOが出会う何組かの人間のうち、金持ちのドラ息子と出会うくだりが最高に映画でクール!でも人間がだいぶ嫌いになるよ!

ごめんねEO


怪物

誰かにとっての善き人は誰かにとっての悪人であり、誰かの嘘は別の誰かの真実である。社会から見落とされる者たちを描いてきた是枝裕和監督最新作。小学生の性自認を扱った映画のように語られることがあるけど全然そんな映画じゃないです。揺れる人間の描写が秀逸、映画冒頭で母親が運転する自動車からドアを開け飛び降りるシーンが完全にグレタ・ガーウィグ監督『レディ・バード』冒頭シーンのオマージュで、そこからもわかるように10代が「自分を発見し自分自身になる」成長の物語だと思う。ラストが『フロリダ・プロジェクト』ラストシーンと重なるのは、フロリダ~の先を描いた希望だと思いたい。傑作。

息を吞むくらい美しいシーンがあるんですよ


aftersun/アフターサン

2人で過ごした夏、プールサイドの熱、けだるい午後、夜の散歩、見上げた空、何もしなかった日、海の匂い、一緒に観た映画、嫌いなものを交換し合った夕食、なんとなく綺麗だった夕陽、そこにいることが当たり前で何も思わなかった父の気持ち、あの時言えばよかった言葉──
他愛もない夏休みを記録したビデオテープは、何も起こらない夏の日が何も起こらないまま終わる。
映画内で映る記憶が、観客の記憶も再生させる。
誰かとの時間を必死に思い出すのは、もう増えることはないその人との記憶を脳裏に焼き付けるためなのだ。ヒリヒリとした記憶にaftersun(日焼け跡に塗るローション)のように染みる。
大傑作。

映画ってこんなに余白で語れるの


ザ・ホエール

超すげ~~~と語彙力0になった!
死期の迫った引きこもり独身巨漢男性チャーリーと、彼の部屋を訪れる彼が捨てた娘エリーと妻、友人の妹リズ、宗教勧誘の男トーマスの会話劇。

メルヴィルの『白鯨』をベースにそれぞれの白鯨(=憎悪)が描かれる会話劇 、エイハブ船長=余命わずかなチャーリーにとっての白鯨は恋人を救えなかった自身、娘にとっての白鯨は自分を捨てた父。それぞれの人物たちに存在するそれぞれの白鯨。『白鯨』の舞台ピークォド号をチャーリーの部屋に再構築しそれぞれにとっての白鯨が何か、明らかにされていく。
室内劇である本作で外界との接点である玄関ドアが象徴的に使われたり演出も巧みだった。 真の救済は何処からもたらされるのか?玄関ドアは、原作『白鯨』のピークォド号と同じく、海を漂う船のように孤立したチャーリーの引きこもる部屋と外界を繋ぐ唯一の装置で、そこから様々なものが飛び込んでくる。次にドアを叩くのは災厄か救済か?ドアが開くとき来訪者の後ろに見える世界が嵐や大雨、または穏やかな天候かで訪れたものが災厄なのか導きなのか示されている。 登場人物たちはそれぞれの白鯨(人に言えない罪や傷)を抱え、このピークォド号に集まり、白鯨と対峙しそして船を降りる。ドアを開け外の世界へ戻る時、ドアの外に見える世界は?原作『白鯨』の神殺しと同じく自分の囚われているものからの解放、救済。メルヴィルの『白鯨』を解体・再構築し、全員がエイハブ船長である室内劇を作り上げた脚本、マジで凄いな…本当に凄いもんを観た。

年頃の娘を持つお父さんは吐く準備してから見てください
致死量の「パパなんて死ねばいいのに」があります


リバー、流れないでよ

はい大天才の仕事来ました! タイムループ映画に必ず発生する転換点「ループ世界に気付く瞬間」を2周目開始10秒で終わらせる世界最速記録!「えっこんなに早く気付いてこの映画ここから時間持つの?」と思わせてからの怒涛の2分ワンカットの最高コメディ!タイムループの仕組みを理解した 全員で「次のターンの動きこれね!」と協力するループ世界脱出RTAに死ぬほど笑った。年末年始、とりあえず笑いたい人に超おススメ。

最高かよ!今年イチ映画館で笑った


ソフト/クワイエット

保育士のエミリーは「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義女性サークルを立ち上げる。何となく社会に不満を持つ、日常を変えたい、人の役に立ちたい、生活に疲れた女性たちはエコーチェンバーと仲間内の競争意識から思想がエスカレートし──
人種差別を拗らせた白人女性4人が憎悪犯罪に至る様は、恐ろしくリアルなSNS風刺。社会と人生に満たされない者が傷を舐め合うことで連帯し「攻撃してよい相手」認定した途端、足りない知性に反比例し増す加虐性。90分ワンショット風の現代寓話、完全にツイッターだこれ!
「私を"見下してよい人種"だと思ってるのね」ってセリフがどこまでも強烈。

人は善意と良心から差別と排除をおこなうのです。

女子会で登場するホームメイドカギ十字パイ。手作りのぬくもりがあればいいってもんじゃないぞ


Pearl/パール

この顔が凄い2023女性部門優勝!!!!!ラストにお見舞いされるミア・ゴスの、映画史に残る顔面芸を見るだけで価値がある。(※ジャンルとしてはスラッシャー/ホラーだけど怖くはないです)
前作『X』の殺人ババア:パールはいかにして誕生したのかという前日譚で続編ですがXはぜんぜん観てなくてオッケーですマジで。
女優を目指す若きパールが夢破れて狂気に落ちていく様子を描いているんだけど最初からだいぶ狂ってるので夢破れたのは関係ないなこれ。
アメリカ映画の超古典にして国民的ミュージカル『オズの魔法使い』をダークサイドオマージュし、ドロシーと同じような歩みでドロシーとは逆に光のない世界へ落ちていくパールを描く「足りない者たちによるオズの魔法使い」は、現代につづくアメリカ映画産業の闇も描くものっすごい皮肉の一本。『NOPE』もそうだったけど現代映画の歴史と構造の闇を描くのにホラー/スラッシャーって相性良いのかな。そういう意味で前作『X』もスターになりたい女性がポルノ産業に利用される映画だったな。

↓『Pearl』も大好きでネタバレで語ってるので観た方はどうぞ


To Leslie/トゥ・レスリー

ロトで大金当ててしまい定職に付かず酒に溺れた結果、息子と離れざるを得ず人生のどん底にいる女性レスリー。自暴自棄に酒におぼれ、何度も人生をやり直そうとするがまた酒に負け・・を繰り返す。遂には家も失い、なんとか連絡を取り転がり込んだ先の息子の家でも酒で失敗する。
まぁ一言で言えばクズなんだけど、人間ってそんなに強いものじゃない。僕やあなたもいくつかの幸運と巡りあわせでこうしているだけで、誰でもいくつかの不幸と油断でレスリーになれるのだ。
底辺無限ルーレットに陥るレスリーがどこまでも悲しいが息子のため、自身のため人生を取り戻そうとするレスリーと周囲の人々に泣いた。どんなに辛く惨めでも、それでも、それでも世界は捨てたもんじゃない。

レスリーに手を差し伸べるロイヤル。世界一感動的なパンイチを見せる男。マジで。


CLOSE/クロース

『Girl』のルーカス・ドン監督による12歳少年の1年。進学し、新しい人間関係が出来る中で急にそれまでの親友が色褪せつまらなく見えたり、疎ましくなったりって誰でもありますよね。失って初めて気付いた、輝いていた日々への悔恨と追憶。 そんな誰もが通過する日々を描く本作は、誰にも落ち度はなく、とても悲しくとても美しい。主人公レオの家業、綿花畑の花がレオと親友レミーの関係性と心象を表していて満開、つまり友情の一番美しい瞬間から始まりやがて花が落ち、枯れ朽ち土に還り、そしてまた芽吹く。一瞬の捨てシーンもない大傑作。超オススメ。監督の前作『Girl』も激オススメです。

主人公と親友、2人の子役が素晴らしいんですよこれが。


658km、陽子の旅

はい菊地凛子最高傑作きました!
「普通」を選べないまま42歳氷河期独身フリーターの陽子が父の葬儀のため故郷青森を目指すヒッチハイク・ロードムービー。挫折を繰り返し、人と話せなくなった引きこもりの「こんなはずじゃなかった」がひたすら胸を抉る。
いつからか「普通」から外れ、「その気になればやり直せる」を気付いたらとっくに過ぎ、目を背け積み上げてきてしまった時間。
その後悔とやるせなさと、焦燥と悔恨が画面からにじみ出るような一本で、菊地凛子だからこそ成立した奇跡のような映画です。昨今幅を利かせるクソみたいな自己責任論とも地続きの本作、陽子は僕やあなた自身なのです。
身につまされる、どころじゃない井上尚弥の右より重い一撃をぜひくらってください。

見て!この視線の合わせなさ!


バービー

「私は何にでもなれる、でも私になれるのは私だけ」を描いてきたグレタ・ガーウィグの最高傑作!
見てない外野から「フェミ映画」とか叩かれてたけど、この映画は女性も男性も等しく人間社会全てを皮肉ってるので大丈夫!理想に見えるバービー世界を通しフェミニズムもホモソーシャルも多様性も全ての矛盾と欺瞞を暴くディストピア・ブラックコメディ、で終わらない人間讃歌と愛!
そうなんですよ、この映画は皮肉るだけでなく、最後は超ド直球、超無敵の人間賛歌なのです。九回最後を160kmストレートで締める大谷翔平くらいストレート、マジおススメ。一連の騒動で食わず嫌いの人、ぜひ一度フラットに観てみてよ、めっちゃ笑えるから。

バービーの永遠の恋人ケンを演じる、ライアン・金森健志・ゴズリング



クライムズ・オブ・ザ・フューチャー

人類が痛みを失い公開手術で身体の内側を見せるアートが成立する近未来─何を言ってるのか全然わからないと思いますが大丈夫です、観てても全然わかりません。奇妙な生物としか言いようのない立体チェア(しかも食事の時にしか使わない)、手術と遺伝子操作で増えた身体の部位、おおおお何を見せられてるんだ俺は、が延々続く108分! 進化と罪と美と臓器をひたすら見せられ、意識があるまま臓器を直接触るアートパフォーマンス、おかしいのは俺かお前か!?と観てるこちらまでよくわからなくなる映画体験。
たぶん、結構な数の国でこれ上映できないのでは・・とにかく凄い映画を観たいな、って時に自信を持っておススメします。※面白いです。

これが何かと問われると私も「さあ・・?」としか言えないんですが


アステロイド・シティ

50年代砂漠の町で入れ子構造の3つの物語が進行する劇中劇! 前作で雑誌文化愛を炸裂させたウェス・アンダーソン先生、今回は舞台劇の制作過程がテーマ。作家性に振り切った監督なので、この画面作りが性に合うか合わないかがすべてといっても良い、ここ最近のWA先生。
特に本作は、過去イチわけわかんないと思う、俺は好きだけど!!

最近、好きな人だけ見て!な感じが強いかな、俺は好きなんだけど


ほつれる

門脇麦の不倫を通じ、布地が切り口からほつれるように終わりゆく男女関係を描く 男女が終わるあの空気がひたすら描かれる地獄のような映画なのでぜひ恋人・夫婦で行って微妙な空気に!不倫旅行の解像度が高すぎてオススメ!
不倫を扱ってるからレビューサイトのスコアが軒並み低いけど、ひたすら自然に空気がなじむまで各シーン100回くらいリハーサルして撮ったらしい撮影のおかげで凄い映画になってます。門脇麦の夫役:田村健太郎の「完全に終わったとわかってる関係を悪あがきして取り繕う男」の描写、死ぬほどリアル 笑 数的不利で押し込まれ、何とか最終ラインを押し上げないといけないのにそれも出来ずロングボールを蹴り出しては回収されサンドバッグにされ続ける後半ラスト10分のような気持が味わえます。映画館で吐くかと思った笑 

この映画を観た人と田村健太郎について語りたい


SAND LAND/サンドランド

勇気、冒険、最高のジュブナイル!
悪魔王子と老保安官が渇きに苦しむ人々のため幻の泉を探しの旅に出る冒険譚!
「信頼を得るにはまず誠実であれ」と全力で語る、全ての子どもに見てほしい作品と同時に、大人に対しては「現世代の不始末は現世代が責任を取り次世代に託せ」と問いかける。「大人も楽しめる」じゃなく、大人に対しても真正面からぶつかってくる超本気の一本。
アニメに詳しくないけど実力派スタッフが揃ってるんでしょう、ストーリーとキャラの説明を過不足なく行いつつ無駄のない場面転換、各シーンごとに登場キャラ数を計算し子どもでも完全に理解苦労せず画面に集中できるエンタメのお手本のような構成。
そして最高の鳥山アクション!!
超オススメ。

この画にワクワクしない人、いる?



コカイン・ベア

コカイン食ってハイになったラリックマが人を襲うハートフル動物映画!
熊の動きがめちゃキレキレ、立って良し走って良し立ち技最強のオールラウンダー!
かなりたくさん人が死ぬけど、安心してください!クマ含め基本的にみんなアホなので特に心は痛みません!タイトルが出オチな映画なのでこれ以上もこれ以下も無い!

末端価格1億円くらいのコカインシャワー



キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

1920年代、石油利権を巡る先住民謀殺の歴史。
実話ベースなので大きな仕掛けもなく平板な話をデ・ニーロとディカプリオの顔面芸だけで全編押し通す今年一の力技!この顔が凄い2023! この2人じゃなかったら地獄の3時間半だったぞ、超おもしろかった!

ディカプリオが演じるアーネストは小悪党で自分を大きく見せたい小者だけど頭のキレはちょっと足りず…という男なんだけど劇中、口をへの字に曲げるシーンがあって、それはもうあのシーンのために観て欲しいというくらい世界一のへの字口なのでマジで見て。
この顔だけで来年のアカデミー賞獲るのではないでしょうか。

この顔が凄い2023優勝です、おめでとうございます



ザ・クリエイター 創造者

AI陣営と反AI陣営が戦う近未来、最新兵器と呼ばれる少女と出会う男。2人の逃避行の結末は─

名作のSF映画・コミックの要素を集めて作られたどこかで見たようなSF映画、金曜ロードショーでめっちゃ見たい75点のちょうど良いSF映画(※褒めてます)
いや、いいと思うんですよ映画って。オリジナリティにこだわりすぎず「誰が見ても楽しい、敷居は低いけど作り込みは一定水準」で。既視感のあるようなシーンが多い本作、ベースは『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』あたりの未開の惑星でのバトル、機動戦艦とのバトルでめっちゃワクワクするし。ベトナム戦争もベースにある本作、白眉は『地獄の黙示録』でのワルキューレの騎行をRadioheadの"Everything in Its Right Place"に置き換えてのヘリ飛行オマージュ!!絶対これやりたいだけでこの映画作っただろ!

なんかスゴイ威力、みたいなざっくりした扱いで好感が持てる兵器



さよなら ほやマン

宮城県の離島で暮らす漁師のアキラとちょっと足りない弟シゲル。二人暮らしに転がり込む東京から来た漫画家の女性美晴との日々。
地元、家族、仕事、お金、愛情、様々なものに縛られる人生の映画で、「何かを失った者たち」の映画でもある。
仕事でも家庭でも恋愛でも、「自分がやってやってる」「自分がいないとダメだ」と思ってたら実は自分が助けられてた、自分が救われてた。ってあるじゃないですか。そういう人生の映画です。アクが強いビジュアルに敬遠せず見てみて、おススメ。

美晴を演じる呉城久美の演技がとんでもないんですよ



ビートたけしの恐らく最後の監督作になるかもしれない自伝エンタメ時代劇!
百姓出身秀吉に重ねるは浅草の演芸場からのし上がった自身の半生、原点に帰り最後に大衆エンタメをこのスケールでやる気持ち良さ。 『ソナチネ』『その男、凶暴につき』とかいわゆる北野映画を求める層から散々「たけしは終わった」と批判されたけど、そういうのはもうたくさんやったでしょ。
百姓出ながら権威として崇められる秀吉に自身を、容赦なく新しい者に追い落とされる芸人の世界を侍に重ね、そしてたけし駆け出しの頃に悲しい別れをした初めての相方のメタファー(百姓から侍を志す2人組)まで登場する芸人たけしの半自伝映画。巨匠北野武、最後に大衆エンタメ撮って映画を大衆に返すなんて、完全に遺言だよこれ。
それにしても、この映画で初めて「なぜ戦国時代に武士の間で衆道(男性同士の男色)が盛んだったか」を理解できたな。女性に選択権が無く「モノ」として扱われていた時代に、自身の支配欲や手に入れる喜びを得られるのは女性でなく男性だったんだなー。だからこの映画では、秀吉以外の主要キャラは衆道に溺れ振り回され、それをたけし演じる秀吉は「百姓出の俺にはわからん」と冷ややかに見ている。女性に溺れスキャンダルを起こし消えていく愚かなスターたちを長年芸能界で見てきた、たけしらしい描写。
そしてたけしが撮ったこの映画が素晴らしいのは、近年の日本映画としては巨額の予算をかけていること。過去の北野映画だとこんな予算いらない。でも最後にエンタメ大作撮って、自身の引退後に後進が「たけしさんでもこんなお金は使わなかった」と言われないため、「映画はお金がかかるんだよ」と実績を作ってあげる。

最も芸人ビートたけしらしい最後でした。拍手!

馬鹿馬鹿しいほどの大衆エンタメで好き



終わらない週末 (Netflix)

砂浜に突っ込むタンカー、遮断されるネットとTV、突然現れる鹿とフラミンゴ、謎の大騒音、吐血、抜ける歯──何かわからないが確実に何かが起こってる、現代アメリカを詰め込んだ2時間半!ただただ不穏で100台以上事故るテスラに笑った、テスラのこと嫌いすぎでしょ笑

異変の始まり、リゾートビーチに突っ込んでくるタンカーが911テロでの飛行機を表す本作は『パラサイト』の手法で「家の上層階と地下」で国内での分断(人種その他)と、「家の内外」を国内と諸外国勢力との軋轢に置き換え現代アメリカ社会を描いた悲喜劇。「少数なら親しみ持てるのに増えると不気味に感じる」と描かれる鹿やフラミンゴは言葉の通じない移民に対する米国民の潜在恐怖のメタファーで、どこまでもシニカルで笑ってしまった。
それにしてもNetflix、「終わりゆくアメリカ帝国」「第3世界に飲み込まれるアメリカ」を描く本作に、コロナ禍でヒステリーを起こす米国民を70年代に置き換えた不穏パニック映画『ホワイト・ノイズ』、アメリカ政府の陰謀と危機に気付かず滅びゆく人類を皮肉りまくった『ドント・ルック・アップ』と現代アメリカの闇と病巣を描く映画ばかり作ってんな。本作はさらに製作会社がオバマ元大統領の会社でプロデューサーにオバマ夫妻も名を連ねてるし。大丈夫なのかアメリカ 笑

アメリカ国内での人種対立を切り取る、象徴的な対比構造


ザ・キラー (Netflix)

強迫神経症的殺し屋が自分の思考・行動原理を独白しながら「こんなはずじゃなかった」殺人を繰り返す。「即興はしない全て計画通りに」とクールに繰り返す殺し屋、しかしあっさり失敗してしまったことをきっかけに恋人が狙われ、その借りを返すために予定外の殺人を繰り返す羽目になる。マジメにスリラー/サスペンスとして観てしまうとわけわかんなくなる、ネオノワール風に撮ってるとこまでフィンチャー監督の壮大なボケである、コメディ映画だった。

スカしてるけどこの後しっかりミスります



市子

プロポーズされた翌日に失踪した市子、次第に市子はこの世に存在していないことが明らかになり─

年末に凄い映画が来たぞーー!!杉咲花(市子役)がとんでもないことになってるぞーー!杉咲花、一撃で本邦の俳優トップレベルに。
市子を助け、市子にとってこの世で頼れるのは自分一人だと思い込んでいる北君の「お前を助けられるのは俺だけだよ!お前は黙って俺の言うとおりにすればいいんだよ!(意訳)」という叫びは全男子必見です。

気付いたら社会からこぼれ落ちてしまった人間を軸に、「選べず、流されていく者たち」の流浪と足掻きがヒトの善悪を炙り出す。その場ごとに「自分なりの最善」を選んだとて、それは結果の最善を約束しない。抗えない流れの中で、最善が尽きた時に人はそれでも”正しさ”を求められるのか?人の善性とは天性なのか、後天のものなのか。自分にとっての善が他人にとっての悪ならば、あなたはどうすべきなのか、いつの間にか突きつけられる120分。この映画は明日を信じた人による悲喜劇なのだ。

市子の恋人役、若葉竜也も抜群でした



枯れ葉

社会の下層に生きる人を描く、アキ・カウリスマキ最新作。
肉体労働のアル中予備軍男、スーパーをクビになり職を転々とする中年女。カウリスマキ以外なら絶対に主役にならない男女が、無口に淡々と恋に落ちる。それがこんなに素晴らしい映画になるんだから、どうなってるんだって話ですよ。カウリスマキの素晴らしさって、退屈を恐れないことだと思うんですよね。実生活でほとんどの人間って98%の時間は喋ってないんですよ。カウリスマキはその時間を描いてる。だから、なにも喋らないけど何か起きている。街路樹の若葉が、音もなく静かに時を重ね枯れていくようなものです、そういう映画。めちゃくちゃに削ぎ落した81分で、ラストシーンの潔さに震えた。

デートで観る映画が『デッド・ドント・ダイ』で笑った、大好き



ファースト・カウ

西部開拓時代に出会った料理人クッキーと中国人移民のキング・ルー。
2人は協力し未開の開拓地に一頭だけいる乳牛から貴重な牛乳を盗み、クッキーの作るドーナツを甘味の不足する開拓地で売ることでぼろ儲けし成功の足掛かりにする。

お互いの才覚を補いながら成功を夢見る2人のブロマンス。 ハッキリ語られないが確かにそこにある男の友情と、最高に潔いラスト。なんだろうな、高校時代友達の部屋に2人、何をするわけでもなくお互いに黙々と本読んだりゲームしたりそれぞれ勝手に時間過ごしてぽつりぽつりと会話するけど、特に盛り上がるわけではなく。でもそこに確かに流れている2人の時間ってあるじゃないですか。そのまま近所に歩いて行って、でもダラダラと話すだけで、お互いにどう思ってるかなんて聞いた事は無いけど俺は確かにコイツの事が好きだな、みたいな。そういう映画。
前日に観た『枯れ葉』で今年最高の潔いラストを見たと思ったらまさかの翌日に最高値を更新してきた。シビれた、凄い映画だった。

この2人の距離感が最高2023


いかがでしたでしょうか、ぜひ観て欲しいな~ってやつに絞り込んで振り返ってみました。今年公開なのでアマプラとかの見放題にはまだ入ってないやつも多いけど、どれもおススメなのでぜひ見てみてください。


ありがとう2023年の映画たち!!
来年も最高な映画がたくさんありますように!!

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