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本場ドイツの

 どうも私にとっての12月というのは、どこかへ行きたくなる季節なのかもしれない。去年は奈良付近、おととしは津和野や広島を訪ねた。

 ことしはとくに、仕事では春から県内の各地(わりと僻地)に行くことが多く、そのあとにはそれらの総まとめ仕事をする必要があって、遠出のことを考えずに冬を迎えた。
 旅にいい季節としての10月、11月あたりも、大きな仕事を終え放心状態なのと、人出の多さに旅への意欲が湧かなかったし、だけど1月、2月となると場所によってはとても寒くて億劫・・・。
 というので、やはり12月中にどこかへ行っておきたくなってきた。

 興味のある土地はいくつかあったものの、たとえば自然あふれる場所に行ってがんがん歩くなどといったところまで動機と気力を持ちあげることができず、そこで、ふと浮かんだのは横浜だった。
 ことしは仕事の用で、近代以降のキリスト教史(主にカトリック)に接することが多かったので、横浜に行ってその空気に触れてみたくなった。

 と、いうわけで、登山とか、何かの修行みたいな心と体の準備の必要がない、関東方面に決めてしまった。

 仕事方面で言えば、私が想像したような収穫はあまり得られなかった。これは私の準備不足や、日にちの選定にも問題があって、反省点ではあるけれどある程度想定もできていたことだった。確信犯と言われれば黙っているしかない。

 それは置いておいて、12月の横浜、東京と言ったらクリスマス・マーケットである。九州だと福岡あたりでやるんだけれど、福岡のに行ったことはない。6年前、代々木公園を会場にしたクリスマス・マーケットに行ったきりである。
 横浜は赤レンガ倉庫でやるらしい。公式サイトを見ても、一体何が行われるのかはっきりとしたことはわからない。

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 ところで、私はクリスマス・マーケットというものを、2012年かその辺りに知った。書店でウロウロしていたら、『ドイツ クリスマスマーケットめぐり』という本に目がいった。そのまま手にとって、レジでお金を払い、そのころM町にあった父の店のカウンターに座ってページをめくった。
 アドベント(待降節)時期にドイツ各地でひらかれるクリスマス・マーケットの写真がたくさん載っている。ニュルンベルク、ローテンブルク、フライブルク、アーヘン、ジークブルク、ベルリン、リューベック、ドレスデン、アンナベルク、ザイフェンと、実に12都市ぶんという豪華さ。
 この本によって、ドイツだけでなくヨーロッパ各地でこのようなマーケットがひらかれるというのを知るに至ったのだ。

 私はもともとクリスマスの時期がすきだった。
 理由はごく単純で、12月生まれ、それもクリスマスにごく近い日付というものだろうとおもう。まるで私の生誕を祝うために町全体が飾られているかのような、あの、きらきらしてて空気が冷たく澄んでいる12月。教会に属しているわけでもないのに、ちびのころからとにかく12月がすきだった。

 2012年ごろというとだいぶ大人だけれど、この季節がすきなのに変わりはなく、さらにこの「クリスマス・マーケット」というものの存在を知ったことにより増強された気がする。どこか異国のマーケットにぜひ行ってみたい。そんなことをおもった。

 久しぶりにこの本を手に取って開いてみたら、初めてのときと同じくらい、クリスマス・マーケットの雰囲気に強いあこがれをもよおす。

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 2017年の代々木公園へは、これを目的に行ったというわけではなかった。たまたまその時期に東京に2泊することがあり、以前うちの店でアルバイトをしてくれていたお姉さんと会い、あちこちぶらぶらしていたときに、通りかかったのだ。それで、行きたい! と言ったら付き合ってくれた。
 もうたしか20時くらいにはなっていて、イルミネーションで飾られた会場にわくわくしつつ、目当てのものと言ったらやっぱりスノードームである。オーストリアのウィーン・PERZY社のスノードームは、地方ではまず見られないもののひとつだった。
 PERZY社のスノードームは、台座がシェイプしていて、ドームもほんの少しカーブしている。中に散るのは正しく白い粉雪である。(C国製のキラキラパウダーなどではないという意味)
 大小さまざまのサイズのスノードームをいっぺんに見られて、私ははしゃいだ。その様子をみて、お姉さんは大きなスノードームをひとつ、誕生日プレゼントにといって選ばせてくれた。私がよろこんだのは言うまでもない。
 自分でもひとつ購入して(欲張り)、こわさないようにていねいにパッキングして持ち帰った。

 さてここでやっと、今回クリスマス・マーケットには足を運んだのかどうなのか、というところにたどり着く。

 横浜赤レンガ倉庫。
 公式サイトを見ただけでは内容がよくわからないまま、最終日に仕事とそうでないこととの隙間に時間をみつけ、寄ってみることにした。公式サイトで唯一ひかれたのはオリジナル・マグカップだった。
 2017年のをいまも持っていて、クリスマスの絵柄であることに加え、マグカップ自体の好ましさからわりと気に入っている。赤レンガ倉庫のオリジナル・マグカップは、公式サイトで見る限り、なかなかよさそうだったのだ。

 東京で会うひとに、外苑前のクリスマス・マーケットはとんでもない混雑らしいことを聞いていた。しかも入場チケット制らしい。と、おもったら赤レンガ倉庫も有料だった。
 入場料を支払ってまで、私はいったい何をしに行くんだっけ。そういうキモチがよぎるものの、行かないと後悔するだろうことをおそれて開場時刻に近づいてみると、チケット売り場は人でいっぱいだった。キモチがなえやすい私は引き返そうともおもった。そのとき「オリジナル・マグカップの購入はこちらでーす」という声が拡声器から聞こえた。え、マグカップだけ買えるんだ(ラッキー)。

 オリジナル・マグカップを求める人の列もそこそこだったけれど、お金を払ってまで入場して、何を出されるかわからない野外ブースの飲食物にそれほどの興味もないし、PERZY社のスノードームは都内の雑貨屋で豊富に見ることができたし。迷わずマグカップ購入の列に並び、15分ほどで手に入れることができたのはうれしかった。

 横浜赤レンガ倉庫のクリスマス・マーケットの公式サイトや看板には「本場ドイツ」の文字が踊る。横浜市のほか、在日ドイツ商工会議所、ドイツ観光局の後援も得ている。
 しかしながら、入場券売り場付近などのイベント設置パネルに使われている写真の解像度はがりがりだし、パネルや道具類からは何回も使い古された感がありありと見てとれる。
 わが町のランタンフェスティバルなんかでもそうだし、毎年作りかえるわけにいかないこともわかるけれど、昼間の明るさの中でこういうのを見てしまうと興醒めする。
 並びにならんで、500円の入場料金を払って、会場に入ったところで何があるか。くんちのテキヤレベルの飲食ブースがある程度なら、それに取られる時間などを勘案してみると割に合わない。マグカップだけを入手できる仕組みがあったことは実によろこばしいこととおもう。
 「本場ドイツの」であるわけはないのだ。

 『ドイツ クリスマスマーケットめぐり』で紹介されているドイツのクリスマス市は、いまあらためて見てもわくわくする。背景に伝統と文化と人びとの生活が見える。
 人型のかわいいレープクーヘン(ヨーロッパの焼き菓子)からはスパイスの香りがしてきそうだし、手描きされた陶器のデコレーションタイルの手触りが伝わってくるようだし、ミツロウのロウソクのあたたかい色とさまざまの形に惹かれるし、街を彩るモミの木のツリーやリースは日本のそれのように派手すぎず実直で、分厚いニットの手袋と帽子で防寒した家族づれは休暇のための買いものといったふうで、とにかく何もかもが好ましい。
 もしかしたらこの本から私が感じとっているそれも幻想なのかもしれない。「本場ドイツ」(またはヨーロッパのどこか)のクリスマス市を体験したことはまだないのだから、なんとも言えない。

 ずいぶんと文句ばかり書いてしまった。

 今回購入したマグカップには、mohaba gmbh & co. kgというロゴが書いてある。調べてみると、ドイツのノルトライン ヴェストファーレン州の町、デューレンにある会社で、ホットワイン・カップなどの製品を作っている。戦後に建設資材などの製造から起こり、1954年にガラス製品に転向し、スクリーン印刷などを取り入れ、現在はこういったマグカップやバー用の食器などといったプロダクトを製造しているようである。
 持ち手や重み、カップの厚みもよく、これで1個750円というのは安いかもしれない。

 都内での空き時間には、銀座にある教文館に寄った。書籍を探したい気もちと、クリスマスフェア的な催しもぜひ見たかった。
 店内はクリスマス一色で、ここはとてもよかった。手作りの工芸品やアクセサリーはなかなか高価で、先日大浦天主堂で買い求めたクリスマスの絵柄のカードの値段をおもって胸がちくんとした(もっと値段つけていいのに)。
 お土産用に、いくつかの修道院で作られたクッキーなどの焼き菓子を買った。

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 さて、ちょっと書くつもりが、だらだらと手を動かし続けてしまった。読むほうも(もしも読んでくださる方がいれば)くたびれただろうな。
 私のすきな、クリスマスについての一部を書いた。

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今日の「買い逃し」:日本橋高島屋に寄ったので、AU BON VIEUX TEMPSオーボンヴュータンがあるな、とプティ・フール・セックに狙いをつけてショーケースを覗いたら、完売でした。まだお昼前だったのに。

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片山 緑紗(かたやま つかさ)
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