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あなたも一度は目にしたことがあるはず!アートに込める、力強いメッセージ。<キースへリング展鑑賞レポート>
・はじめに
今回、私は2023年12月9日~2024年2月25日まで、森アーツセンターギャラリーにて開催されていた、<キース・へリング展 アートをストリートへ>に訪れました。
・キースへリングのプロファイル
1980年代、アメリカのトップストリートアーティストとして、世界中を席巻したキースへリング(1958-1990)は、エイズによる合併症の為、31歳という若さで亡くなりました。
キースへリングは、「アートはみんなのために」という信念のもと、ストリートや、地下鉄に作品を製作し、誰でもアートに触れられる機会を拡散させました。
1978年に名門美術大学「スクール・オブ・ビジュアル・アーツ」に入学後、在学時にはドローイング、インスタレーション、ビデオアートなど、幅広い分野を経験し、1980年からニューヨークを始めとする地下鉄で「サブウェイドローイング」を始めました。
作品紹介
1章 公共のアート
まず、入ってすぐは、へリングと言えば!と言える「サブウェイドローイング」の作品たちが並んでいました。誰もがアートを楽しめるようにと、人通りが多い地下鉄駅構内に描いた絵は、白チョークのみで描かれている、とてもアイコニックで、ユニークな作品ばかりで、とても楽しい気持ちにさせてくれました。また、どこかメッセージ性のある作風にも惹かれました。
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戦争やアメリカの植民地支配などに対するメッセージかも?
2章 生と迷路
1980年代のニューヨークはキースへリングにとって、とても刺激的な街だった反面、エイズの蔓延が黒い影を落としており、キースへリングは死の恐怖を背負った日々でもありました。
しかし、キースへリングはその短い人生で、たくさんの人や物に影響を受け、多様な作品を生み出していきました。また、その多様さは画材の工夫などにも表れていました。
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へリングが、親しい人を亡くしたタイミングで自分自身の写真を反転させて作り上げた作品。
へリングが、人生と向き合ったともいえるようで寂しさや苦悩が伝わってきました。
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黒の線は太く鮮明な線を強調させるために、版画の技法が用いられており、へリングの多才なセンスと工夫が感じられました。
3章 ポップアートとカルチャー
80年代のニューヨークの街は、人もカルチャーもパワフルで、特にクラブ・シーンが盛り上がり、様々なジャンルのアーティストも、クラブに通っていました。へリングもその一人であり、ポップアートだけではなく、舞台や広告、音楽などと関わりながら、幅広く、制作を行ってきました。この章では、様々なアーティストと、へリングのコラボ作品が沢山展示されていました。
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下≪サムワン・ライク・ユー≫ 1986
へリングが手がけたレコードジャケット
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実際に使われた舞台背景。黒人のストリートダンスと社交ダンスの誕生を記念した作品。まるでダンスしているように見える!
4章 アート・アクティビズム
この章では、へリングがポスターを用いて、大衆にダイレクトにメッセージを伝えた作品たちにフォーカスされていました。題材は多岐にわたり、反アパルトヘイト、エイズ予防、性的マイノリティの人々のカミングアウトを祝福する記念日、核廃棄などでした。SNSのない時代に、多くの人々へメッセージを送り続けたへリングの強い意志を絵から感じ取ることができました。
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首輪を繋がれた黒い人型が白い人型を踏みつぶすような描写をしており、黒人の白人に対する抵抗を示していると思った。
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化学的なマークやキノコ雲の象徴的な絵に×がたくさん描かれており、核廃棄のメッセージがシンプルに伝わってきました。
5章 アートはみんなのために
この章では、子供たちのための作品《アートはみんなのために》や、彫刻作品が展示されており、子供たちにもアートに触れる機会を与える、慈善活動の功績を示していました。
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20枚からなるシリーズ。子供向けということもあり、かわいらしい。
6章 現在から未来へ
少し薄暗い部屋に照らされた漫画のコマのような作品。それらの解釈は鑑賞者にゆだねられるという作品で、戦争や性などを連想させるものでした。
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アイコニックでユーモアある作品。解釈の仕方がたくさんあり、とても面白かった。
まとめ
最後のエリアは撮影禁止になっていましたが、「キース・へリングと日本」というトピックで、へリングの日本好きが表れる作品が多く展示されていました。今回、キース・へリング展を訪れて、私は美術展にあまり行ったことがなく、アートに詳しくありませんでしたが、力強い線が特徴の、へリングの絵にとても魅了されました。また、絵と、彼の人生を知っていくほど、彼の信念の強さや、チャレンジ精神、幅広い表現技法など、魅力がどんどんあふれて来ました。
東京ではキース・へリング展は終わってしまいましたが、日本では山梨県に「中村キース・へリング美術館」があり、多くの作品が収蔵されています。興味がなかった方も、これを機会にぜひ、キース・へリングの作品を見に行ってみてもいいのではないでしょうか?