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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:プロローグ

 塚山りりかは険しい表情で抹茶ケーキをつついていた。
ケーキを思いきり、ひと思いに頬張りたいのに、つついた端から地滑りのように崩れてボロボロになるので、結局はちまちまと食べざるを得ないのだ。
 それに今は修羅場明けで、遅い朝食をなんとか終えたところであるのも、表情が険しくなる要因の1つだろう。
 さらに、使っているフォークと相性の悪い洒落た焼き物の皿が、何気なく擦れるたびにキーキーと不快な音がするのもささくれた気持ちに追い討ちをかけている。
 

 何度かため息をつき、からになった食器から目を離しやっとの思いで店を出ると、外は眩しかった。思わず目を細めて辺りの日陰を求め、今しがた出てきた店を眺めた。
(定番のチェーン店なのに)
 ささくれた気分を解消できないまま、すぐに得られそうな日陰を諦めねばならなかったことで、りりかはさらなる疲労を感じ、まっすぐ歩くほどに頭の中はあちらこちらへと踊り出した。通りの目につくさまざまな情報が勝手に脳内へなだれ込んできて色々な思考が抑制する間も無く交差しはじめる。

 クリスマスセール。空が青い、太陽が眩しい。カフェサザン、オープン11時から。あ、この事故のニュースさっきの患者さんのだ。はは、がんばったなー。ホンダ美容形成クリニック。あなたの街の法律相談所。中国武漢市の市場いちばでウイルス性感染症流行、SARSか。あーSARSの時はこの業界いないからなー、どんな感じだったんだろ。ちょっと前のエボラは感染対策の通知を見た覚えがあるから働いてたのか。そーいえば来年から新しい麻酔科医が増えるんだっけ。手術室の負担軽減になるといいなー。

 眩しい、眩しい、とぶつくさ言いながら塚山りりかはどうにか帰宅した。シャワーを浴びたあと、ベッドに倒れ込むとそのまま眠りに落ちた。夢の中では緑のケーキが地滑りを起こし、市場になだれ込んで、スキーウェアを着た集団を飲み込みながら、りりかが先ほどまでいた職場の手術室を散らかしていった。

こらー!誰が片付けると思ってんだー!と先輩の砂肝珠子が叫んでいた。


この小説は…

こちらで以前に書いたもので、読み返してやっぱり自分にささったので、気になった点を手直しつつ再度投稿していきます。


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