N1: すべては1人の名前のある個客から始まる
〜顧客起点マーケティング Part 16〜
「アイデア」に関して詳しく説明してきましたが、ここでは、「アイデア」を生み出すために最需要な起点である「N1」を説明します。強いマーケティング戦略を作る上で、個客=N1を起点とするマーケティングは、N=1000として1000人を対象とするよりもはるかに重要です。例えば、誰かにクリスマスプレゼントを選ぶとき、以下の3つの選択肢の中で、いちばん喜んでいただける自があるのはどの場合でしょうか?
【1】あなたのお子様、奥様、ご主人、恋人のいずれか一人
【2】あなたの同僚・同級生20人
【3】4年生大学を卒業し、現在東京都在住の、世帯年収800万以上で子どもがいる専業主婦1000人
自明だと思いますが、よく理解できている具体的な特定の一個人から複数人に、そして自分が直接知らない「概念上の複数人」になれば、何をプレゼントすれば喜ぶのか想像しにくくなります。
深く理解している「たった一人」へのプレゼントであれば、趣味嗜好、生活態度、価値観、何を持っているか、普段何に興味があるかを考えることで、本人が想定する以上のプレゼントを選べる可能性が高くなります。【2】や【3】より【1】の方が明らかに、成功確率が高いのではないでしょうか。
顧客の購買行動の背景には、必ず何らかの心理的な理由やきっかけがあります。購買行動までの全ての行動、サイト訪問、問い合わせ、販売窓口まで来訪されるという行動は結果でしかありません。つまり、行動データを追うだけでは全く顧客理解は不十分なのです。
顧客1人1人を個別に分析する「N1分析」で重要なのは、購買行動を左右している根本的な理由=認知を含む顧客の心理変化を見つけることです。それは多くの場合、顧客自身も明確に意識できていない無意識の領域です。直接「このプロダクトを買った理由は何ですか?」と尋ねても答えられませんし、答えていただいてもおそらく真実ではありません。
購買行動に直結している理由とは、その顧客が「購入しているブランドが自分にとって、お金や時間を消費するに値する特別な便益をもたらしてくれる」と心理的に認識するに至ったきっかけです。ほとんどの場合、一人の顧客の心理を変えるきっかけは一つに集約されます。それが、その顧客に自分事化された「アイデア」なのです。
何らかの訴求や体験を通じて、そのブランド独自の魅力的な便益を認識して初めて購入した、つまり顧客化したときの重要なきっかけ、さらにロイヤル化した重要なきっかけが何だったのかを、深く洞察するためにN1分析が重要なのです。ブランドの成否、将来の成長を最も左右するのが、このN1分析での掘り下げです。
一般的に統計学上では、その分析において有意差を出すために一定の規模の回答数(=n 数)が求められ、それは対象の母集団数と、誤差範囲±5%など必要とする有意水準で変化します。しかし、顧客の心理状態を変え、行動を変える強度のある「アイデア」創出のために有効な調査は統計学とは異なります。確かに大まかな傾向や差を知るには、一定のn数が必要ですが、大量人数を調査するほど「アイデア」がつかめるというのは誤解です。具体的なN=1の個人レベルまで徹底的に深堀りしなければ、マーケティングの成果は望めません。論理だけで突き詰めたマーケティングの限界であり、ここを突破することがビジネスの大きな飛躍につながるのです。
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書籍紹介
たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング(MarkeZine BOOKS)
1000人より1人の顧客を知ればいい。P&G、ロート製薬、ロクシタンを経て「スマートニュース」をアプリランキングで100位圏外からNo.1へ伸ばした著者が確立した「顧客ピラミッド」「9セグマップ」「N1分析」を全公開。
[M-Force株式会社]
すべての「モノ」「コト」「サービス」を顧客視点で捉えることで顧客にとって価値があるものへと進化させ、「マーケティングを、経営のチカラに。」というミッションを実現するために様々なブランドを支援しています。https://mforce.jp/