『ロブスター』Byヨルゴス・ランティモス
『転生したら~』『異世界○○』そんな名前のライトノベルやアニメが増えすぎて作品名を正確に記憶することができない。
お伽噺のように転生するとすれば、あなたは何になりたいですか?2015年に公開されたギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスの『ロブスター』というロマンス映画。主人公は数ある動物の中からロブスターを選択する。長寿で、死ぬまで生殖機能を持つ生き物だからという理由で。映画のあらすじは以下のとおり。
さて、あなたはどの動物になりたいですか?豚や牛だと直ぐに人間に食べられてしまう。犬や猫のような愛玩動物になり、人間の意思の赴くまま扱われる。去勢されたり、気に入らない服を着させられたり。鳥になって空を飛ぶことができても、安全を確保するのは極めて難しい、天敵が狙っているからね。
主人公の選んだロブスターは人間に捕獲、美味しく食されなければ永遠の生を手に入れることができる。併せて半永久的な性も。賢い選択だと思うと同時に、長生きがしたいか?と疑問が浮かんだ。人生100年時代といわれ世界でも長寿の国である日本の一国民として、長生きがしたいとは思わない。
昨年、母方の祖父祖母が亡くなった。二人とも80をとうに超え、それぞれの疾患を抱えたまま病院で息を引き取った。認知機能も手放しており、母を含む家族は延命の措置でかなり揉めた。胃ろう建設の有無が話の中心だった。担当医はこの手の判断を丸投げする。最終的に判断するのは家族であり、胃ろうを建設し、延命を図ったとて健康状態に戻る確率は現在の医療では難しいことが明白だから。胃ろう建設をすると確かに寿命は伸ばせる。だが、介護にかかる時間や費用は家族の負担になる。一度建設してしまえば、撤回はできず、「あの時、延命を行わなければ」というネガティブな考えが家族を更に苦しめる。罪悪感に苛まれるくらいなら、延命を行わなければという考えが巡り巡るだろう。しかし医師から胃ろうの選択を迫られる際、考える時間はほとんど与えられない。
医療の進化は人類に自由を与えたのか、宗教のようにかえって人を困らせたのか、判断がつかない。この議論自体が無駄なことはわかっている。しかし、年々増す医療費の高騰と社会保険料の増加を受け、現在の労働可能人口の多くは長生きに希望と夢を持たないだろう。体中に針を刺して仮死ライフを望まず、ワイヤーイヤホンで首をくくり朦朧とする未来が見える。