狂気と葡萄酒【創界神ディオニュソス】
こんにちは、くノ一ジョロウです。
ボジョレーヌーボー解禁しましたね!お酒を嗜むバトラーの中には、すでに堪能した方もいらっしゃるかもしれません。
ボジョレーヌーボーの解禁は、毎年11月の第3木曜日の00:00。日本は日付変更線による時差の都合上、先進国のなかで一番に(本場のフランスより8時間も早く)解禁ができる国なので、盛大にお祝いされますよね。
今回はそんな時期にピッタリの神様、ディオニュソスについて書いていこうと思います!
◆ディオニュソスって何者?
「ディオニュソス」とは、古代ギリシャ語で「若いゼウス」を意味します(ちなみに「ゼウス」や「ディオス」は「神」という意味です)。
別名をバッカスといい、こちらはローマ神話での呼称です。
化身であるカヴァリエーレ・バッカスの名はここから来ており、「カヴァリエーレ」はイタリア語で「騎士」を意味します。ローマ神話での呼称だからか、ちゃんとイタリア語です。えらい。
さて、ディオニュソスがなぜボジョレーヌーボー解禁にピッタリかというと豊穣や酩酊、葡萄酒の神だからです。創界神のイラストでも、左手に杯を掲げています。髪の隙間からわずかにのぞく、頭に巻かれた黒い紐のようなものは葡萄のツルでしょうか?
バトスピ世界のディオニュソスは剣士であるため剣を携えていますが、ギリシャ神話ではテュルソスの杖を携えています。
本当はこれに、ディオニュソスの力の象徴である葡萄のツルが巻き付いているようです。先っぽの松かさも柄のオオウイキョウ(セリ科の多年草)も、男性器や種の象徴であり、豊穣を表しています。見た目はかわいいけど意味はとてもマッチョですね。ブレイヴには出しづらそう。
ちなみに、なんとエジプトではオシリスと同一視されていたようです。
ディオニュソスとオシリスには、バトスピの背景世界で世界征服しようとしていた植物の神という共通点があるためだと思われます。
また、インド神のシヴァと同一視する者もいたようです。
紀元前4世紀末、ギリシャ人のメガステネスという人が、シリアの王様からの使者として、インドの王様の元へ行きました。そしてそのときのインドの様子を『インド誌』という記録に残しました(この記録そのものは現存しませんが、これを引用したものは残っています)。その中で、インドの人々のシヴァへの信仰を「ディオニュソスへの信仰」と表現しているのです。
天渡という共通点で最近の無魔デッキに一緒に入れられることが多いシヴァですが、実際に同一視する者がいたというのはおもしろいですね。
……同一視されている神々も、なんかみんな紫ですね。悪神ではないのですが、過激な神話も多い神様たちです。
オシリスやシヴァについても書きたいですが、また今度。
次章からは、ディオニュソスの波乱万丈なエピソードについてお話しします。
◆ディオニュソスの誕生 ~狂わされた人々~
ディオニュソスは、ギリシャ神話の最高神ゼウスとその浮気相手であるセメレーという人間の女性の子です(ゼウスはめちゃくちゃ浮気します。人でも神でも動物でもお構いなしの絶倫です)。
ゼウスの子を身籠ったセメレーは、浮気相手絶対殺すマンのヘラ(ゼウスの奥さん)にしっかりと目を付けられてしまいます。
ヘラは人間に姿を変えてセメレーに近づき、「あんさんの愛人、ほんまにゼウスやろか……?」と吹き込み、疑念を抱かせます。 セメレーは湧き上がる疑念に耐えきれず、ゼウスに神である証拠を見せてもらおうと、「絶対に望みを叶える」と約束させた上で「ヘラ様に会うときと、同じ姿でいらしてください」と願いました。
ゼウスは約束をしてしまったので仕方なく、神の威光を帯びたままでセメレーに会いに行きました。しかし神の威光は、人間が耐えられるものではありません。セメレーは威光に焼かれて死んでしまいました。
ゼウスはセメレーが身籠った子だけでも救おうと、ヘルメスに焼死体から胎児を取り上げさせ、その胎児をゼウス自らの太ももの中に、臨月までの3ヶ月間匿いました。そんなところに仕舞えるんだ……。
こうしてディオニュソスは、ゼウスの太ももから産まれることになります。
その後、ディオニュソスはセメレーの姉妹であるイーノーへ渡され、なんと娘として育てられました。男の娘。また、このことをイーノーの夫であるアタマースも黙認していました。
しかしヘラはそれも許しませんでした。今度はアタマースに対して狂気を吹き込み、アタマースは白い鹿と間違えて、イーノーとの息子であるレアルコスを射殺してしまいました。さらにイーノーも狂気に駆られ、沸騰したお湯にもう一人の息子のメリケルテースを入れて殺し、その遺体を抱いて海に飛び込みました。もうめちゃくちゃ。
また、ディオニュソス自身がヘラに狂わされるパターンもあります。
生誕後、アタマース・イーノー夫妻ではなくヘルメスが保護者となり、妖精たちによってヘラから護られていました。
しかしセメレーの死だけでは怒りが収まらなかったヘラが、今度はディオニュソスを狂気に陥れました。すぐ狂わせるねヘラさん。 ディオニュソスは狂気に憑りつかれたまま彷徨い、フリギア王国(現在のトルコあたり)にたどり着いた際に、キュベレーという大地母神に狂気から解き放ってもらいました。
産まれた時から(何なら出生前から)ヘラの怒りを買うことになり、周りの人々や自身も狂わされることになってしまったディオニュソスでしたが、ここからは自分が人を狂わせる力を見せていくことになります。
◆ディオニュソスが神になるまで ~信者は足と狂気で稼げ!~
なんかサブタイトルが怪しい商材みたいになってしまいました。
実はディオニュソスは、神話中で最初から大勢に信仰されていたわけではありません。人間と神のハーフであるため、その神性を疑わしく思う者も多かったのです。
そこで、成長したディオニュソスはブドウ栽培などを身に着けたのち、自らの神性を認めさせるべく放浪の旅へ出ます。
踊り狂う信者やサテュロス(上半身が人間で下半身がヤギの精霊。欲望の象徴)を引き連れ、ゆく先々でまた信者を獲得していきました。「仲間をふやして次の町へ」です。だいぶ頭おかしいポケモン。
信者には救いの手を差し伸べる一方で、神性を認めぬ者は狂わせたり動物に変えたりと、手厳しい(で済ませていいのかわからない)制裁を加えています。
・Case1 ワインの伝授と悲劇
ディオニュソス一行がイーカリアー村(現在のギリシャのディオニュソス市内)で農夫イーカリオスのもてなしを受けた際、もてなしに深く感謝したディオニュソスは、お礼にブドウ栽培とワインの製法を伝授しました。
イーカリオスはさっそく実践し、出来上がったワインを村人たちに振舞いました。しかし「酔い」を知らなかった彼らは毒を盛られたと誤解し、なんとイーカリオスを殺害してしまいました。その死体を見た娘のエーリゴネーも悲嘆のあまり首を吊ってしまいます。
このことを知ったディオニュソスは怒り、村の娘全員を狂気に陥らせ、集団縊死(首吊り)させました。
誤解と知った村人たちは父娘を丁重に弔い、ディオニュソスの怒りも収まって、その地は葡萄の産地として知られるようになりました。
・Case2 海賊の過ち
あるときディオニュソスは、高貴な生まれの貴公子と勘違いされ、海賊に捕らえられてしまいます。船上へ連れてきた海賊がディオニュソスを縄で縛ろうとするも、なぜか自然と緩くなってしまいうまく縛れません。ここで海賊の一人のへカトールがディオニュソスの神性に気付き、助けようとしました。
しかし時すでに遅しで、船に葡萄酒が満ち、葡萄のツルが絡んで実までつけてしまいます。かっけえ。慌てた海賊は海へ飛び込みましたが、ディオニュソスによってイルカに姿を変えられてしまいました。ただし神性に気付いていたへカトールだけは助かり、彼の熱心な信者になりました。
ディオニュソスの旅はギリシャやエジプトのみならず、トルコからアジアの方にまで及び、魔術や呪術によって各地を征して行きました。その旅路はインドにまで達します(先述したメガステネスさんが「インドでもディオニュソスが信仰されている!」と思った理由は、もしかしたらここにあるかもしれません)。ディオニュソスはインドも、武力ではなく葡萄酒と踊りで支配しました。インドの踊り大好きな文化にしっかり取り入っていますね。
旅によって熱狂的な信者を増やしたディオニュソスは、さらに冥界へと通じるとされる底なしの湖に飛び込み、亡き母セメレーを冥界から救い出しています。バトスピの背景世界で、ハデスに代わって冥界(冥府)を支配しているディオニュソスですが、このような度胸や力があったからこそ、任されているのかもしれません。
こうした実績が積み重なり、ディオニュソスはようやく神々の仲間入りをすることになりました。
ちなみに神と認められた後、かつてひどい目にあわされたヘラさんとは和解しています。
なんやかんやあってヘラがヘファイストスの罠にかかって黄金の椅子に拘束された際、神々はヘラを解放させるべくヘファイストスをオリンポス(ギリシャ神話の神々が住まうところ)へ招待しようとします。
しかしヘファイストスは、母に捨てられた恨みから応じようとしません。そこでディオニュソスは、ヘファイストスに酒を飲ませて酔わせた状態で連行することを思いつきます。誘拐。 この功績により、ヘラとディオニュソスとの和解が叶うこととなりました。
斯くして、神となったディオニュソス。「ブドウの木が育ち、ワインが作られている場所は、全てディオニュソスが訪れた場所である」と古代ギリシャで信じられていたほど、ディオニュソスの信仰は根強いものになりました。
次回はそんなブドウやワインの名産地を、冥府スピリットたちの名から見ていこうと思います。
長文でしたが、最後までお読みくださりありがとうございました!
次回も頑張って書いておりますので、少々お待ちください……!