ディオニュソスと葡萄畑【創界神ディオニュソス】2
こんにちは、くノ一ジョロウです。
前回はボジョレヌーボー解禁に便乗してディオニュソスについて書きました。
↓↓前回はこちら↓↓
バトスピにおけるディオニュソスの眷属であるスピリットの名前には、ワインの名所の名が付けられています(ディオニュソスが出るよりも前に出ていた冥府三巨頭たちがワインの名所の名前だったから、無魔の創界神ネクサスがディオニュソスになった、というのが正しいですが)。
今回は、かつてディオニュソスが訪れてきた(かもしれない)地を、スピリットたちの名前と共に見ていきましょう。
◆ワインの一等地 ~冥府三巨頭~
まずは冥府三巨頭。バトスピでディオニュソスが登場するより随分前に登場していた古参スピリットたちです。
対応する地名はそれぞれ、メドック、サン・テミリオン、ボルドーです。
いずれもフランスのボルドー地区の地名であり、この地方のワインの年間生産量は、なんと約540万hl(ヘクトリットル)にも及びます(※2018年)。
ボルドー(Bordeaux)とは「水のほとり」を意味する古語に由来しており、その名の通り、大西洋とそこに流れ込むジロンド川の支流に囲まれた地域です。ジロンド川も、東のドルドーニュ川と南のガロンヌ川が合流した大きな河川で、ボルドーのワイン産地はこの川を境にして左岸と右岸に分けられます。メドックが左岸側で、サン・テミリオンが右岸側になります。
左岸のワインは渋みがしっかりとしており、男性的ながっしりとした味わいです。これはカベルネ・ソーヴィニヨンという品種の葡萄が主体であるため、酸味やタンニンの味がはっきり感じられるものになります。
一般的に想像されるボルドーワインはこちらのことが多いかもしれません。
一方右岸のワインは、左岸と比べて渋みが穏やかであり、女性的な丸みのある味わいです。こちらはメルローという品種が主体であるため、角の取れたまろやかな味になります。
もちろん両岸とも、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローのみならず複数の品種の葡萄を用いてワインを作っています。しかし主体となる葡萄が違うというだけでそれぞれの色が出るというのは面白いですね。
バトスピにおいては、クイン・メドゥークが女性的でザンデ・ミリオンが男性的なので、これはちょっと「逆だったかもしれねぇ……」ってなります。ややこしいですね。
まぁクイン・メドゥークはメドゥーサ(ギリシャ神話の怪物。髪が蛇で、ゴルゴーン三姉妹の末っ子)もモチーフになっているので、仕方ない部分もあるのかもしれません(´∀`;)
ちなみに、左岸と右岸で葡萄の品種の傾向が異なるのには理由があり、左岸の土壌は排水性が高く保温効果のある砂利状の土壌であるためにカベルネ・ソーヴィニヨンがメイン、右岸の土壌は保水性が高く冷たい粘土質の土壌であるためにメルローがメインで栽培されているようです。
サン・テミリオン(Saint-Émilion)はドルドーニュ川のそばにある町で、世界遺産にもなっている市街地周りはプラトー(台地)、北東部はグラーヴ(砂利)という地質になっています。プラトーは粘土石灰質であるためメルローが、グラーヴは砂利質なのでカベルネ・ソーヴィニヨンが主に栽培されています。ですがブレンドされる際は、やはりメルローがメインであるようです。
一方メドック(Médoc)は、先述したドルドーニュ川とガロンヌ川が合流したジロンド川に沿った大きな地区で、地質は川の上流であるほど砂利質が多くなり、下流であるほど粘土質が強くなるといった特徴があります。故に、上流はカベルネ・ソーヴィニヨン、下流はメルローが多く栽培されています。気候が海洋性で暑すぎず寒すぎず、降水量が比較的高いのも、ボルドーで最も注目されるワインの産地となった理由です。
作られるワインはカベルネ・ソーヴィニヨンが主体ですが、広いこともあり、各地域で個性のあるワインが生み出されています。
しかしメドックのワインはまさしく別格で、五大シャトーのうち4つがメドックに存在します。
シャトーとは、葡萄畑を所有しており、葡萄の栽培や瓶詰めに至るまでワインの製造を行う生産者のことです。昔はお城みたいにでっかい醸造所でワインを作っていたので「château(フランス語で城)」と呼びます。
そして五大シャトーというのは、1855年のパリ万博でナポレオン3世がワインの格付けをした際に認定された第1級シャトー4つ+後年に認定されたシャトー・ムートン・ロートシルトを指します。
シャトー・ラフィット・ロートシルト(メドック)
シャトー・ラトゥール(メドック)
シャトー・マルゴー(メドック)
シャトー・ムートン・ロートシルト(メドック、1973年に1級昇格)
シャトー・オー・ブリオン(グラーヴ ※後述)
◆五大シャトー ~マルゴーヌ、ロードシルト、オー・ブリオン~
・シャトー・マルゴー
先ほどメドックには五大シャトーのうち4つがあるとお話ししましたが、そのうちの一つがシャトー・マルゴーです。
シャトー・マルゴーがあるマルゴーについて語るためには、まずA.O.Cに触れる必要があります。
A.O.Cとは「Appellation d'Origine Contrôlée」の略で、「原産地統制呼称制度」などと呼ばれるものです。ワインの銘醸地がある国では、その地を守るために、一定の基準をクリアした物にしか銘醸地名を入れられない制度があります。
例えば、「シャンパン」は、「シャンパーニュ地方で伝統的な製法で作られた発泡性ワイン」を指すもので、それ以外のものが「シャンパン」を名乗ることはできません。
マルゴーがあるメドック地区でもこのA.O.Cがあり、メドック地区下流域のものには「メドック」、上流域のものには「オー・メドック」の名を、各々の地で作られた赤ワインに付けることができます(白ワインは「ボルドー」の名なら付けられる)。もちろんもう少し細かく基準はあるのですが割愛します。
そのうち「オー・メドック」を名乗れる地域の中で、ワインに村の名を付けられる村(コミューン)が6つあります。その一つがマルゴーなのです。
サン・テステフ
ポイヤック
サン・ジュリアン
リストラック・メドック
ムーリス(ムーリス・アン・メドック)
マルゴー
ちなみにマルゴー村は、これらのコミューンの中でも最大の面積があり、最も上流に位置しています。
さらにそのマルゴーの中で格付け第1級のシャトーとして存在するのが、シャトー・マルゴーです(「マルゴー」を冠したワインがすべてシャトー・マルゴーのものではないので注意)。
シャトー名がコミューン名となっているのは、マルゴーだけです(先に今後ちょくちょく出てくるコミューン名を列挙するために、マルゴーヌから解説を書かせていただきました)。
なお、マルゴー村と周囲の村5つ(マルゴー、カントナック、ラバルド、アルサック、スーザン)が「マルゴー」の名をワインに冠することができます。ややこしや。
マルゴーのワインは、エレガントで繊細、華やかで力強さを兼ね備える味わいです。
地質が石灰岩・粘土混じりの泥土の上に、中程度の大きさの砂利が広がり、水はけがよい土壌であるためメルローの栽培も多く、他のコミューンのワインと比較すると、カベルネ・ソーヴィニヨン主体は変わりませんが、メルローの比率が高いです。故に渋みが和らぎ、繊細さが際立つワインとなるのです。
また、先述した1855年のパリ万博で、マルゴーのワインは第1級シャトーのうち唯一20点満点中20点を獲得しました。すごい。
フランス国王ルイ15世の愛妾であったデュ・バリー夫人、アメリカ合衆国第3代大統領トーマス・ジェファーソン、文豪アーネスト・ヘミングウェイにも愛され、「ボルドーの女王」「ボルドーの宝石」と呼ばれています。
バトスピにおいてもマルゴーヌには「冥府女帝」という二つ名がついており、イメージにぴったりですね。
・シャトー・ラフィット・ロートシルト
次に紹介するのは、同じくメドックにあるシャトー・ラフィット・ロートシルトです。
バトスピの方では「ロードシルト」になっていますが、イギリスなどで侯爵、伯爵、子爵、男爵の貴族が爵位名につける「ロード(Lord)」 も名前の意味として含まれていると思われます。
シャトー・ラフィット・ロートシルトは、先述したコミューンのうちポイヤックにあります。
ポイヤックの土壌は石灰岩の基盤の上に、分厚い砂礫質土壌があり、カベルネ・ソーヴィニヨンがメインで栽培されています。日中に石や砂利が吸収した熱を夜に放出し、葡萄の完熟を助けます。
そんな環境で生み出されるワインは、基本的にはパワフルで、味わいにはブラックベリーやプラム、スパイスやタバコの風味が含まれます。
若いときには黒すぐりやブルーベリーなどベリー系のフルーツやスミレやバラの香りが力強く、熟成させるとエレガントで余韻のある香りに、滑らかなタンニンをもった素晴らしいワインに変化します。
熟成のポテンシャルが非常に高く、繊細さと力強さを兼ね備えた、気品のあるワインです。
ポイヤックには他にもシャトー・ムートン・ロートシルトやシャトー・ラトゥールがあり、なんと五大シャトーのうち3つが存在します。
その中でもシャトー・ラフィット・ロートシルトは五大シャトー筆頭といわれています(格付け決定時の流通価格が五大シャトー最高額であったため。格付けには価格も大事だった)。
「ラフィット」の由来は、ガスコーニュ地方の言葉で「小高い丘」を意味する「La Hite」が訛ったものと言われています。
シャトー・ラフィット・ロートシルトが所有する畑は石灰質を基盤とする砂利質の土壌であり、メドックでも最上の畑です。やはりカベルネ・ソーヴィニヨンがメインで栽培されています。
そこで作られるワインは、あえて樽での熟成期間を減らしているため、フレッシュでフルーティな味わいをワインに残しています。
ルイ15世の寵愛を受けていたポンパドール夫人がヴェルサイユ宮殿の晩餐会に常にシャトー・ラフィットを登場させていたことで王室御用達のワインとなり、現代に至るまで「王のワイン」として賞賛されています。
バトスピでももっと王様っぽくして欲しかった……。
・シャトー・オー・ブリオン
次に、メドック外の五大シャトーの一つ、シャトー・オー・ブリオンです。
シャトー・オー・ブリオンはボルドー市の南にあるグラーヴ地区にあります。
赤ワインの生産量が圧倒的に多いボルドー地区ですが、グラーヴ地区では赤ワイン、白ワイン、甘口ワインと多様なスタイルのワインが生産されています。
サン・テミリオンの時にも「グラーヴ(砂利)」という単語が出ましたが、グラーヴ地区はその名の通り、すぐそばのガロンヌ川が運んできた砂利を含んだ水はけの良い土壌であるため、カベルネ・ソーヴィニヨンがメインで栽培されています。しかしメドックやサン・テミリオンと比べて、赤ワイン一本ではなく白ワインも多く産出しています。
先述したA.O.Cの話で、メドックで作られたワインに「メドック」の名をつけるには赤ワインである必要がありましたが、グラーヴで作ったワインに「グラーヴ」の名をつける際には、赤ワインだけでなく白ワインでも認められているのです。
グラーヴの赤ワインはメドックよりもスパイシーで、かつ優しく軽い味わいです。スミレやいぶされたような香りが特徴で、あまり熟成させない若い状態で飲むことが多いです(もちろん長期熟成も可能)。また、色が濃いルビーの美しい色調であることも特徴です。
白ワインはスッキリした新鮮さにあふれた辛口が多く、豊富な果実味を持ちながらバランスの良い味わいとなっています。高級ワインから日常で楽しめる軽めの辛口ワインまで、幅広く生産されています。
そんなグラーヴ唯一の第1級シャトーがシャトー・オー・ブリオンです。
ちょっとメドック贔屓な格付けの中でグラーヴから選出されたのは、ひとえに品質や価格、名声どれもが高かったからにほかなりません。
シャトー・オー・ブリオンは、格付けで第1級となったシャトーの中で最古のテロワール(土地)を持ちます。意外にも住宅街の真ん中にあります。それゆえ、他のワイナリーよりも気温が2、3度高く、霜などの被害に遭いにくい上に収穫もかなり早く行われます。
土壌は小石を含む河川礫層からなっていますが、作られている葡萄は、なんとカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローが同じくらいです。何ならブレンドする際にはメルローの方が多いです。左岸の中でも独自性がかなり強くなっています。
独自のブレンドだけでなく、ボルドーの中では早くから発酵槽にステンレスタンクを用いていたり、カベルネ・ソーヴィニヨンのクローンを作り出したりと、技術革新を積極的に行っているシャトーなのです。
さらにワイナリー内に樽工房があり、シャトーで使われている樽の80%はそこで作られています(実はマルゴーやロートシルトも樽工房を有している)。樽が壊れた時にすぐに必要な数修理や生産ができ、好きな焼き加減の樽が作れるといった利点があります。伝統技術と最新技術のシャトーですね。
そんなシャトーで作られる赤ワインは、メルローの比率が高いため、他の五大シャトーの中でも最もエレガントで滑らか。若いものでも、カシスやブルーベリー、赤バラ、タバコやコーヒー、スパイスなど、長期熟成のポテンシャルを感じさせる複雑みのある味わいです。
ちなみにこのワインはフランスを救ったことがあります。ナポレオン戦争で敗戦国となったフランスは、ウィーン会議でオー・ブリオンを他国の要人に毎晩振舞うことでフランス領土のほとんどを失わずに済んだ、という逸話があります。救世主ですね。
グラーヴなので白ワインも紹介します。
白ワインの方は、白桃やパイナップルなどの果実のアロマがグラスから立ち上り、一口含めばオレンジの花や生姜、麝香などのニュアンスが漂い、濃密で妖艶な印象を与えます。芳醇かつ複雑な香りで、優雅でビロードのような口当たりと、独特のまろやかさやフルーティーな爽やかさが一体となった、唯一無二の味わいです。
まるで他の地区のワインが融合したような表情を見せるグラーヴワイン。そしてその筆頭であるシャトー・オー・ブリオン。
他の地区がモチーフである冥府三巨頭たちを、シャトー・オー・ブリオンをモチーフとしたスピリットがまとめて召喚できるというのは、そうした繫がりがあるからなのかもしれません。
今回は、ボルドーの一級品の地区やシャトー、ワインについてお話ししました。
Amazonで各ワインの当たり年(葡萄が適切に熟成して収穫できた年。その年のワインの完成度がめっちゃ高い)のものの価格を見てみましたが、
シャトー・ラフィット・ロートシルト(1982)¥698,000
シャトー・ラトゥール(1982)¥430,000
シャトー・マルゴー(2015)¥319,000
シャトー・ムートン・ロートシルト(2000)¥488,000
シャトー・オー・ブリオン(1990)¥231,000
高ーーーーーーーーい!!!!!
※ちなみにシャトー・オー・ブリオンだけ当たり年のものが見つかりませんでした。でもこの価格……。
あ、上記の商品リンクは無駄に全部Amazonアソシエイトリンクにしておきました。富豪バトラーの方はぜひご購入いただき、非公認大会ホームパーティーを開催して振舞ってください。参加費いくらするんだ。
当たり年でなければ、もう少し手軽に5大シャトーのワインを味わうことができます。
……手軽???
五大シャトー以外にも魅力的なシャトーはまだまだありますので、次回もスピリットたちを通してご紹介いたします!
とっっっても長くなりましたが、最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!