どこに行けば本物に出会える?【杉本克哉氏(アーティスト)講師インタビュー①】
こんにちは!
9kidslab - ナインキッズラボは「デザイン」を通じて自分なりの視点や解決方法を見出し、人生を楽しみながら切り拓いていける子どもを育てる、小学生対象のオンラインクリエイティブスクールです。
それを実現しているのは
第一線で活躍する個性豊かな講師陣と彼らが作り出す掛け合わせの授業です。
そんな講師陣の中から今回は、
科学技術と美術基礎が掛け合わさった「問いのデザイン」クラスの美術基礎を担当する杉本克哉氏にインタビューしました。
杉本さんの経歴に迫りつつ、「子どもをどんなところに連れて行けばいい?」「本物ってどんなところでみれる?」「最近話題の対話型鑑賞って?」など、アートやデザインってどんな風に見たらいいのかわからない!というインタビュアー側からの素朴な質問についてもお聞きしました。
さらに9kidslabの魅力についても掘り下げていきます!
杉本氏の原点 芸術に興味を持ったきっかけ
最初のきっかけはスーパーの端っこにある「カードダス」
スーパーの帰り道、母や祖母に当時20円のカードを一枚だけ引かせてもらえました。カードダスに描いてあるアニメは実際に見てないのですが、何が出てくるかわからない絵をワクワクしながら待っていたというのが絵やイラストに興味を持ったきっかけです。
それからその絵と同じように絵を描いてみたいと思い、絵を描き始めるようになり、小学校1年生の時、何もみないでアニメのキャラクターのイラストが描けるようになったのがすごく嬉しかった記憶があります。
小学校2年生くらいの時に、図画工作の授業で生きているザリガニの絵を描く課題があり、みんなは動いているザリガニの絵を上手く描けない中、自分は真正面から上手に描け、それを母が大切に残してくれていました。その時に、もしかしたら自分が絵が得意かも、という自覚が生まれてきました。
また、母が割と本が好きで、幼少期によく絵本を読ませてくれたのも美術の道に行くきっかけになったと思います。
象徴的な出来事はなかったのですが、見るのが好き、途中から描いたりするのが好きと、徐々に美術に対する温度が高まっていきました。
現在の主な活動
週の半分は都内の私立中高一貫校で一般的な美術教育を教えています。残りの週の半分を自分の制作に時間を充てています。
僕の表現メディアは絵画、油絵を中心として展開しています。
写実的な絵を得意とし、ジャンルとしては現代美術の枠の中で絵画表現をしているという意識の中で活動しています。
(現在制作中の)箱庭のシリーズは、他者にキャンバスの中でいろんな世界を作ってもらって、それを更に僕が絵にし、自分の作品か誰の作品かよくわからないような、制作の範囲・表現の枠の範囲の曖昧な部分に触れるという作品を作っています。今は何人かで制作することに興味があります。
以前は子どもを対象にしていましたが、今はお医者さん、牧師さん、投資家さんなど、色んな職業の方に箱庭を作ってもらい、その世界をなぞらせてもらって作品を作っています。
質問その1: 子どもをどんなところに連れて行けばいい?「本物」と出会えるところってどこでしょう?
自分の成長時期、心のバランスで何を持って本物と思うかは人によって違うので、明確にここに行ったら本物に会えるというのは難しいのかなと思います。
例えば、さっきお話したザリガニを描く行為において、僕にとってはそこにいたザリガニは人生を揺るがすザリガニで、その造形、形みたいなものは、多分美術館で見る絵や器より圧倒的に本物で心を揺さぶってくれたんだと思います。
ここに行ったら絶対面白いものがあるというのはなかなか難しいと思いますが、美術館、博物館といった我々の社会でこの表現やものを残していこうと集まっているところは面白い場所だと思います。
美術館はありがたいもの、絶対に美しいものを確認して鑑賞するという場であると同時に、わからないものが展示されていて「あれってなんで展示されているんだろう」とか我々の日常では咀嚼できない何かや違和感を持ち帰る場だと思います。
小さい頃にそういうものをたくさん浴びている、鑑賞しているというのが
将来的にきっと感覚の幅、受け入れられる許容量を増やすことになるのでははないかと思っています。
本で色々な画風を見せてもらったり、父が理科の先生だったので博物館、美術館に連れて行ってもらったりしたのですが、そういうところで見ていたものが明確にこれだとは限定できませんが、自分が表現者であり続けるというきっかけの一部になったのではと思います。
表現者でなくても鑑賞の幅が広がる、自分が日常過ごしていてその感度を持っている、いろんな味を知っているのはすごく豊かなことだと思います。
だから小さい頃に色々なものを見ることはとてもいいことだと思います。
絶対に美術館、博物館とか資料館に本物があり価値があると思い込んでみる必要性はないと思いますが、あのような非日常な空間にある種入っていくことは生活のヒントをもらえるし、将来的にいいきっかけになるのではと思っています。
また、親がわかっているものだけでは、親と同じ枠、世界観になっていくと思います。わかっているものだけでは古い知識になるし、伝統がダメとは言いませんが、自分がやっと獲得できたわからない何か、もう少しで獲得できるかもしれない何かと触れ合って子どもや次の世代と一緒にわからないものを考えてみることは重要だと思います。
質問その2:最近話題の対話型鑑賞ってどうですか?
対話型鑑賞は美術館だけじゃなく、「本物」が見られるところだったら、
例えば動物園でも水族館でもどこでもできるんじゃないかと思います。
最近の傾向として対話型鑑賞が主流になってきていますが、対話型って、入り口を軽くして「あそこに何かあるね」「これってなんなんだろうね」と、物語を自分たちで話し合って鑑賞していくことに気づきがあり、鑑賞することこそに価値があるという鑑賞方法ですが、ちょっと難しいのが僕はそういうのも大事と思いながらも学問、知識もやっぱり大切だと思っているタイプです。
というのも歴史にはある程度連続性があって、「この表現があったからこの表現がある」という連続性の中で知識や歴史みたいなものがないと、例えばピカソがなんでそういう表現になったかという話にならないと思うからです。
対話では到達できない、美術史のルールがあって、こういう表現の切り替わりがあったというところまで、最終的には学問の深さ、美術の深さみたいなところまで可能性としては繋げたいと個人的には思っています。
なので気に入った作品だけでもいいので、あとでキャプションを見るとか図録を見るとかして、自分の解釈とどう違ったのか、を謎解きみたいにしてもいいんじゃないかなと思います。あの作品よかったねーだけじゃなく、1つくらい深掘りしてみることもおすすめです。
質問その3:9kidslabの面白さって?
9kidslabの面白さは2人の講師が組んでいて、科目を交互に受けるプログラムになっている、その掛け合わせがやっぱり珍しいのではと思います。
僕と組んでいる原田氏(科学技術の講師)は全く関係性のない状態で相性がいいのではと組まれたのですが、「美術×科学」で僕が想定していた枠を超える瞬間がこれからのプログラムで生まれてくると思います。
他の先生方も別ジャンルの先生と組み合わせることによって何か違うプログラムが生まれたりとか他の教育プログラムとかアートスクールとかにはない学び・価値が出てくるとしたらそこから出てくるのではと思っています。
質問その4:今後、9kidslabで挑戦してきたいことは?
まだプログラムとしては5、6回くらいしかやっていないのでわかりませんが、たまたま集まっている能力が高い子ども達と、面白い時間が設けられていることは、僕にとって学びであり、オンラインという枠でやれることを探るという意味ですごく貴重な体験を積ませてもらえているなと思います。
最低限、机の上で面白い体験を導き出すというのがどの講師にも与えられた課題だと思います。
すごく複雑で手に入れられない素材で作品を作るのではなく、割とどこにでもあるものだけどやったことがないこと・やったことのない発想で何かをやってみる、みたいなことが机とオンラインの中で生み出せると言う枠が用意されていて、その枠の中で面白いものを作り出すというところに面白さを感じています。
海外在住の子ども達が入ってくると、国内でやってる子からすると全然違う地域の層がくるので、そこでやりとりする会話も面白くなっているのかなと思います。
杉本氏おすすめの本物が見れる場所
美術館・博物館
■東京現代美術館の常設展(現代アート美術館:東京都江東区)
■東京国立博物館(博物館:東京都台東区)
■地中美術館(現代美術館:香川県直島町)
■奈義町美術館(現代アート美術館:岡山県勝田郡)
■Dia Beacon(現代アート美術館:NY)
■国立民族学博物館(博物館:大阪府吹田市)
美術館・博物館以外
■イエローサブマリン(ゲーム・ホビー用品店:東京都千代田区秋葉原)
■大江戸骨董市(アンティーク・骨董市:東京国際フォーラム地上広場)
■帝国湯(銭湯:東京都荒川区)
■ひだまりの泉 萩の湯(銭湯:東京都台東区)