僕がアイドルだったころ

さいきんは遠くにある鉄塔と
その送電線を眺めている
僕がアイドルだったころ
世界にそんなものは存在しなかった
夕方になってオレンジ色と黒色が
大人の心を吹きぬいてゆき
あるひとの人生を終わらす
僕がアイドルだったころ
すべてはインクの香りのする包装紙にくるまれていて
夜空は金平糖を糸にくくりつけて
僕のところまでおろしてきてくれた
さいきんは酒とそれに準じる植物しか
僕をアイドルにしてくれない
だれもだれかを見たりしていない日ばかりだ

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久慈くじら
小魔術