ポエジーの詩
負けるだろう
あらかじめ宣言しておきます
これは詩人としての宣言です
私は負けるだろうと思いながら詩を書いている
プラスチックの破片が並んでいる
(そんな迂遠に言わなくてもキーボードと言えばいいのに)
詩人はそれを指先で押し込んで詩を書いていくのだ
パソコンくんは「あ」という言葉を数字で理解している
1000001010100000
だから本当はこのモニタの裏にはたくさんの0と1しかないはず
それは私たちから見れば無味乾燥な数字の羅列でしかないが
パソコンくん的にはとんでもなく意味のある文字列なのだ
この詩の言語は日本語で
だから日本語が理解できるひとでないと理解することはできない
しかし詩人は日本語では不自由だと感じている
それはきっとフランス語だったとしてもそう
そもそも言語に不自由しているのだ
今、私のこのこれを! このこれは!
なにも伝えられない
そう詩人は感じているのだがそれでも詩を書く
(ばかだから)
それでも詩を信じている
(「それだから」詩を信じていると書くのはかっこつけすぎだからやめたのだろう)
そうしてマウスのクリックによって投稿ボタンが押され
電波に乗って数字が送られ
長い時が経つ
そしてあなた自身によるマウスのクリックにより
あなたのもとで再計算され
この詩になっている
しかし(しかし?)あなたはわかるだろうが
この詩が書かれているときはまだあなたの元には届いてはいない
詩人は届くだろうという無根拠な思い込みによって
こんな(書いている時点では)でたらめを書いている
なんじゃこれ
そうしてこんな分裂気味の散文なんて書いていると気が狂っている
誰かが語りかける
あなたはなにを信じているの
答えはこれだ
詩人は書く
そしてもうすぐ書いたになるだろう
詩人にとってはそれで詩は終わってしまう
次にこの詩と会うときは読者としてだ
それはあなたとほとんど同じ
この詩を書いた詩人とちょっとだけ仲がいいだけだ
詩人が詩人でいるためには詩を書き続けなくてはならない
書き続けるためには詩を信じなくてはならない
あなたがいるから信じられるんだと
こりゃあエゴだぜ
詩人にとってはあなたが読者であればあなたが安藤さんでもいいし鈴木さんでもいいし久慈さんでもいいわけだ
読者というものが存在さえすればいいのさ
詩が書かれるときには読者なんてそんなもん
しかしそれでも
詩が詩であろうとするにはたったひとりの
この詩を切実なものとして引き受けてしまえるあなたが必要なのだ
なんだかもやもやしてこんな夜半だから外に出てみた
家の裏手にある公園にでも行こう
ざっざっと涼やかな小さな公園を闊歩する
砂場になにかが残っている靴の裏で感じる
妙な苛つきで蹴飛ばすと赤いスコップがあらわれる
汚らしいと思いながらプラスチックを拾いあげる
気づくと砂場に城が建っている
手を洗いたくなり家に帰る
そうしてあなたは砂場のことは忘れ去り
明日一日の忙しさを思いだす
砂場には蟻がいて
砂の城のてっぺんに登ると役者のように月に照らされている
あなたはそのことを知らない
長い長い眠りにつく
それだから詩を信じている
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