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青春は甘くない

 同級生が告白されている場面に出くわす。あまりある事じゃないのだが、実際にないわけでもない事だ。

「お疲れさん」
「うん、疲れた」

 放課後の部室棟裏というおあつらえ向きなスポットで、天を仰ぐ黒髪の少女。神風青空(かみかぜあおぞら)は土生川(はぶかわ)シラノの友人の夕陽(ゆうひ)の従兄妹でにして天空学園女子トップクラスの変わり者。しかし、上級生を中心に一定数、妙な人気があるのだ。

「今の誰じゃ? 初めてみる顔じゃな、二年か?」
「そう。はぁ、本当に疲れた……疲れさせて逃げるなら最初から告白なんてしないでほしい」
「そう言いなさんな。こっちこそ邪魔したんかのう?」
「別に。向こうは嫌な顔してたけど。で、誰のホームラン?」
「ウチの一年じゃ。柏木(かしわぎ)がフォームの指導してやったら緊張でフッ飛ばしたらしい」
「へえ、あんなのでもエース様のご威光ってあるんだ」
「まあな」

 苦笑しつつボールを拾い上げる。たまたまシラノが休憩中だったので取りに来たのだが、ちょうどよかったのだろう。一年にでも行かせていたら、とてもこの空気に入れなかったろうから。

「今度は何を言ったっちゃ? 男の方が顔を真っ赤にしとったのが気になる所なんじゃが」
「私の事が好きなら、ここで今すぐ合体できるかって聞いた」

 一瞬、頭を抱えたくなったのは無理もないと思いたい。

「好きな子に真正面からそがな事言われたらヒクぜよ、普通。第一、本気にされたらどうする気じゃ」
「頑張ってお相手する。それくらい直結しててほしい」
「呆れるほど即物的(シビア)な話じゃのう」
「『貴方が好きだからヤらせてください』。その方がいっそ純愛だと思わない?」

 その場でくるりと一回転して、見上げてくる、その顔には悪意も計算もない。だから始末が悪く、しかし男心を沸き立たせるのかもしれない。生憎とシラノの心に訴えるものはないのだが。いや、観察対象として非常に面白い事は確かだが、それ以上は関わりたくないのが本音だ。

「最近よう一緒に帰っちょる弾丞(だんじょう)さんに聞かせて反応を見てみたいのう、そのセリフ」
「……先輩はちょっと。でも赤鋼(あこう)先生には言ってみた」
「それまた大胆な話っちゃ。何て答えとった?」
「『俺は現状、君の遺伝子は入用じゃないのと手の掛かる妹の世話が忙しいから遠慮しとくわ』」

 拝のだらけた口調を真似たそれに、シラノが思わず吹き出す。

「は、ははっ、それは傑作ぜよ」
「うん。やっぱ面白い、先生。夜空姉さんが懐くのが解る気がする」

 青空の口端が上がる。珍しくご機嫌上昇中だ。

「なら思い切って好きになってみたらどうじゃ?」
「これが、そういうんじゃないわけ。世の中、ホレたハレたじゃ割り切れない」

 ドエライ女に気に入れられたもんじゃのう、暴力の権化と名高い弾丞さんも。どこかに羨望を感じながら、シラノはこの変わり者との交流が愉しいのだ。

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