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代替療法が有効である理由

 今まで西洋医学における治療や医者患者関係において「心の治癒力」が大きく関与し、それが治療効果に影響を及ぼしているという話をしてきました。実はこれは西洋医学の治療に限ったことではなく、鍼灸や整体、各種療法といった代替療法においても言えることです。


それでも代替療法は効く

 西洋医学の医者は、代替療法にはしっかりとした科学的根拠がないと言って、あまり信じていない人が多くいます。実際、鍼灸などの一部の治療を除いては、信頼度が高い論文はほとんどないためやむをえないところはあります。しかし、効果が実証されていないからと言って、それが効かないとは限りません。治療行為やセラピストとの信頼関係が、患者さんの「心の治癒力」を活性化させ、それが症状を改善させることは十分にあるからです。

ただし代替療法そのものによる効果ではない

 一方、代替療法のセラピストや治療家はどう思っているのでしょうか。彼らは自分の行なっているセラピーの効果で症状が改善したり病気が治ったりしていると思っている人がほとんどではないでしょうか。ところが実際はそうではありません。西洋医学の薬と同様、そこには「心の治癒力」が大きく関与しているのです。抗うつ剤や鎮痛剤でも、その効果の半分以上は「心の治癒力」によるもの、つまり安心感や期待感といったものが症状の改善につながっているのであり、薬そのものの効果は実際には半分以下でしかありません。科学的根拠があると言われている西洋医学の薬ですら「心の治癒力」による効果はとても大きいのですから、代替療法であればなおさら「心の治癒力」による効果が大きく働いていていることは容易に察しがつきます。

 ところが、うつ病の患者さんがよくなったのは抗うつ剤の効果だと医者が思ってしまうのと同様、セラピストや治療家も、療法や技法により症状が改善していると思い、「心の治癒力」が効果の改善に大きく関与しているという事実をあまり認識していないように思います。そのため多くのセラピストや治療家は技術を磨き、自分なりのやり方や考えを取り入れ、それが最も有効な方法だと思う傾向にあるのです。

技法がテクニックで治るのではない

 なぜこのようなことを言うのかというと、実は心療内科医時代に私も同じ落とし穴に陥っていたからです。私は心療内科では薬はあまり使わず、心理療法を中心に治療をしていました。様々な心理療法を学び、それを患者さんの治療に使っていたのです。その頃は心理療法のテクニックを駆使することで患者さんの思いに変化をもたらし、それが病気や症状の改善につながると思っていました。だからこそ、患者さんの心に変化をもたらすテクニックの習得に一生懸命でした。そんなある日、一冊の本に出会ったのです。それが、のちに私たちの仲間で翻訳することになった「心理療法・その基礎なるもの」(金剛出版)でした。

信頼関係や「心の治癒力」で治る

 この本にはとても衝撃的なことが書かれていました。そのことについて簡単に説明させて頂きます。世界中には何百という種類の心理療法がありますが、その中には考え方が正反対のものもあれば、身体に重きを置くものやスピリチュアルに重きを置くもなど多種多様なものが存在しています。ところが一流のセラピストが行なえば、どの療法でもそれなりの効果が得られることがわかりました。全く考え方が異なる療法であるにもかかわらず、どうしてそのようなことが起こるのでしょうか。それはどんな療法であったとしても、よくなるためのある共通項があるからなのです。その共通項とは患者さん(クライエント)とセラピストとの信頼関係や患者さん自身が持っている「心の治癒力」の強さなどです。
 一方、各種療法の特徴であるしか治療効果には影響力していないというのです。だからこそ、全く考え方が異なる療法であっても、患者さんとの信頼関係が十分に築かれ、「心の治癒力」が十分に発揮されれば症状が改善したり問題が解決したりするというのです。
 今まで心理テクニックで患者さんの心に変化をもたらすことが治療の一番の要因であると思っていた私にとって、この事実は今までの価値観がひっくり返るほどの衝撃でした。最初は受け入れがたかったその考え方も、今では患者さんがよくなるのは、技法ではなく信頼関係や患者さんの「心の治癒力」だという確信を持つに至っています。

代替療法も西洋医学も治る仕組みの基本は同じ

 これは何も心理療法に限ったことではありません。すべての代替療法にも言えることです。つまり鍼灸であろうが整体であろうがレイキであろうが、技法や考え方は全く違っても、信頼関係が築かれ、安心感や期待感、希望、可能性といった「心の治癒力」を最大限に引き出すことができれば、結果として症状が改善されるのです。
 
 当然、このことは西洋医学の医者にも言えることです。西洋医学で使う薬の場合はある程度の有効性はあるとは思いますが、しかし心理療法の有効性と同様、信頼関係や心の治癒力が症状の改善に大きく影響するため、医者のかかわり方いかんで治療効果に大きな違いが出てくるのです。

相反する食事療法でもよくなる理由

 さらに食事療法にも同じことが言えます。食事療法にも様々なものがあり、有名なところではベジタリアンやヴィーガンの野菜を中心とした食事療法や、玄米菜食のマクロビオティック、がんの食事療法で有名なゲルソン療法など多種多様です。さらに肉をしっかり取るように勧めている食事療法もあります。しかし、どのような食事療法であっても、少なからずがんをはじめとする病気がよくなっている患者さんがいるのも事実です。
 食事や栄養素だけの面から見ると、肉と野菜、水分や塩分摂取の多い少ないの違いなど、相反するアプローチのものが存在しているため、どんな食事療法でもよくなる理由が説明できません。

 しかし食事療法に取り組むのも人であり、そこには当然「心の治癒力」が関与します。この食事療法によりがんがよくなるという、 と思われます。ファーストフードばかりの食事でこのことが成り立つかどうかはわかりませんが、通常の食事を摂っているのであれば、そこに考え方の多少の違いがあったとしてもその効果は大同小異であり、それよりも「心の治癒力」の影響の方が大きいのではと思っています。

 巷には様々な代替療法があり、それらもある程度の効果が認められるのは、治療そのものの効果というよりも、「心の治癒力」の影響が大きく関与しているからなのです。もしも治療法や技法の追求に走るセラピストや治療家がいたとしたならば、どこかで心の治癒力の重要性に気づいてもらいたいと思っています。
             イラスト:子英 曜(https://x.com/sfl_hikaru


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