黒丸尊治

元心療内科医で現在は緩和ケア医。西洋医学の偏った考え方に疑問を持ち、「心の治癒力」を中心にした医療のあり方を模索中。心理療法が大好きで「ホリスティックコミュニケーション実践セミナー」も開催中。著書は「心の治癒力をうまく引き出す」「緩和医療と心の治癒力」など。

黒丸尊治

元心療内科医で現在は緩和ケア医。西洋医学の偏った考え方に疑問を持ち、「心の治癒力」を中心にした医療のあり方を模索中。心理療法が大好きで「ホリスティックコミュニケーション実践セミナー」も開催中。著書は「心の治癒力をうまく引き出す」「緩和医療と心の治癒力」など。

最近の記事

認知バイアスという心のクセが、たくさんの誤診を生み出している

無意識に働く思考のクセ、それが認知バイアス  人は日常における判断や行動のほとんどは無意識レベルで直感的に行なわれています。例えば、「やっぱり私は雨女だ」、「行列ができているからあのお店はおいしいに違いない」、「そんなことしたら絶対失敗すると思った」などはすべて、無意識レベルで働く認知バイアスに基づく発言です。じっくり考えると、これらの発言は正しいとは限らないのですが、認知バイアスの働きにより、これらの判断が正しいかのように思ってしまうのです。ただし、ほとんどの場合、自分

    • 代替療法が有効である理由

       今まで西洋医学における治療や医者患者関係において「心の治癒力」が大きく関与し、それが治療効果に影響を及ぼしているという話をしてきました。実はこれは西洋医学の治療に限ったことではなく、鍼灸や整体、各種療法といった代替療法においても言えることです。 それでも代替療法は効く  西洋医学の医者は、代替療法にはしっかりとした科学的根拠がないと言って、あまり信じていない人が多くいます。実際、鍼灸などの一部の治療を除いては、信頼度が高い論文はほとんどないためやむをえないところはありま

      • 期待感はあまり大きくない方がいい!?

         心の治癒力は様々な要因に左右されることについてお話ししてきましたが、今回は「ラベル」は心の治癒力を左右するのか、期待感は大きい方がいいのか、動物や赤ちゃんにもプラシーボが効くのかという点についてお話ししたいと思います。 ラベルだけでも心の治癒力を左右する  心の治癒力のスイッチを押すものは、何も医者がくれた薬だけではありません。例えば「鎮痛剤」というラベルが貼ってある薬瓶があったとしましょう。その中に入っている錠剤が本当の鎮痛剤であれば、それを飲むと当然痛みは楽になりま

        • 美人やイケメンの医者は治療効果に影響を与えるのか

          人は好き嫌いにより行動が変わる  もしもあなたが好きだと思っている人、または嫌だと思っている人から突然「この書類の作成、今日中にお願いできない?」と頼まれたとしたらどうしますか。多分、好きだと思っている人からの依頼であれば、多少無理をしてでも引き受け、相手が喜んでくれることを期待しながら一生懸命に書類の作成をするのではないでしょうか。一方、嫌だと思っている人からの依頼であれば、今日は忙しいとか、このあと予定があるとか言って、なんとかうまく断る方向で対応しようと思うことが多

          医者の説明の仕方いかんで治療結果は大きく変わる

           医者患者関係は治療効果に大きな影響を与えますが、そのさい重要になるのが医者の説明の仕方です。患者は基本的に医者の言うことが正しいという思いを持っています。そのため、医者の言うことに大きな影響をうけることは想像に難くありません。実際、そのことを示す研究はたくさんあります。 歯科治療での不安感  例えば、医師が患者に薬を処方する場合、薬について説明するか否かにより、薬の治療効果が大きく異なってくることを示した研究があります。  歯科治療では、患者が不安や緊張を経験する場合が

          医者の説明の仕方いかんで治療結果は大きく変わる

          心の治癒力を発揮させるスイッチ

           薬や点滴、手術、鍼灸や整体といった様々な療法を受けることが「きっかけ」となり心の治癒力のスイッチが押され、その結果、安心感や期待感、信頼感といった無意識の力が活性化され、自然治癒力(体の治癒力)の働きが促進されることで症状や病気がよくなるということについては、今まで詳しくお話ししてきました。  ここではそのような直接的な治療行為以外で心の治癒力のスイッチがONになるものについて述べたいと思います。その代表が安心感や信頼感をもたらす「つながり」、つまり医者や治療家と患者との関

          心の治癒力を発揮させるスイッチ

          心の治癒力でがんが小さくなった!~緩和ケア病棟での私の経験~

           私は今、緩和ケア医として日々末期がんの患者さんを診ていますが、心の治癒力が患者さんの病状に大きな影響を与えるということを痛感する経験が時々あります。 環境の変化で体調が変わる  ある膵臓がんの患者さんは、娘さんと二人で自宅で過ごしていましたが、次第に食欲がなくなり、食べても吐いてしまう状況が続いたため自宅でみる限界を感じ、緩和ケア病棟に入院してきました。その患者さんは病室から琵琶湖が一望できることに大きな喜びを感じ、なぜかそれから食欲が出始め、吐くこともなくなり元気にな

          心の治癒力でがんが小さくなった!~緩和ケア病棟での私の経験~

          心の治癒力が症状を悪化させるとき

           今までは、病気や症状を改善させる心の力という意味での「心の治癒力」を中心に話をしてきましたが、実は心が症状を悪化させることもあります。  通常、開発された薬が本当に有効なのかを調べるために、本当の薬とプラシーボ(デンプンの粉などでできているもの)のどちらかを処方し、その両者を比較する「治験」が、一般の病院の患者さんの対象にごく普通に行なわれています。 ノーシーボ反応  例えば、うつの患者さんに対する抗うつ剤の治験では、実際の抗うつ剤かプラシーボ(デンプンの粉などでできて

          心の治癒力が症状を悪化させるとき

          手術をしたフリでも効く!

           患者さんにとって手術を受けるというのは、人生における大きな出来事のひとつであることは想像に難くありません。もちろん手術を受けることで病気がよくなることを期待していますし、手術そのものの効果も当然あります。特にがんなどのように異常部位を取り除く手術は十分にその効果が認められています。その一方で、痛みやめまいといった症状を改善するための手術はかなりプラシーボ反応、つまり心の治癒力による効果が大きいこともわかっています。  心の治癒力による効果だと言っても、当初は手術そのものによ

          手術をしたフリでも効く!

          心の治癒力のパワー

           前回もお話ししましたが、乳糖やデンプンの粉のような薬効のないものを痛み止めだと思って飲むと半分以上の人は痛みが軽減します。この場合の乳糖やデンプンの粉を「プラシーボ」、それによって生じる痛みが軽減するという反応を「プラシーボ反応」と言います。このプラシーボ反応は、まさに心の治癒力の働きそのものであり、それが症状や病気を改善させる根本的な力になるのです。 プラシーボは大きさや色でパワーが異なる  プラシーボについては多くの研究が行われており、様々な要因に影響を受けることが

          心の治癒力のパワー

          乳糖が心の治癒力を活性化

           医療の世界で「心の治癒力」がなくてはならない存在であることを理解して頂くためには、プラシーボ反応の話をするのが最もわかりやすいと思います。 プラシーボとプラシーボ反応  皆さんはプラシーボ(プラセボ)という言葉をご存じでしょうか。簡単に言うと、頭痛があると、通常はバファリンやロキソニンなどの鎮痛剤を飲んだりしますが、その際に乳糖やデンプンの粉のような全く薬効成分が入っていないものを飲んでも、半分以上の人は頭痛が軽減します。そのときに使われる乳糖やデンプンの粉のような薬効

          乳糖が心の治癒力を活性化

          3,「病は気から」は間違っている!?

          「病は気から」の誤解  前回は心の治癒力について書きましたが、心の治癒力の話をすると決まって「病は気から」とか「気の持ちよう」という言葉の意味するところと同じだと誤解されることが多く、なかなか本当の意味が伝わらないのが残念です。  これらの言葉はポジティブシンキングに通ずるものがあり、前向きな気持ちを持てば病気もよくなるというように理解されています。この考え方で最も気になるのは、前向きな気持ちを持とうと思えば持てるはずだという前提のもとに成り立っている言葉だということです。

          3,「病は気から」は間違っている!?

          2,心の治癒力には「きっかけ」が必要

          心の治癒力とは  心の治癒力とは何でしょうか。実はこれに答えるのはなかなか難しいのですが、ごく簡単に言うと安心感や信頼感、期待感、希望といった肯定的な思いの源泉となる「無意識の力」のことです。その働きは多岐にわたりますが、私が心療内科医であった頃は症状や病気を治す力という、まさに言葉通りの意味でこれを使っていましたが、これは狭義の意味での心の治癒力です。そのうち段々とその概念は広がりを持つようになり、今では日常の悩みや問題を解決したりする力、困難な状況を耐え忍び、そこから立

          2,心の治癒力には「きっかけ」が必要

          1,何が病気を治すのか

          自己治癒力とは  医者は病気を治すのに薬などを使って治療しています。しかし本来人には自分で自分を治す力や癒やす力、つまり「自己治癒力」が備わっています。それがまさに人が生きていくための根源的な力であり、生命の生命たるゆえんとなる力です。  自己治癒力には身体的な側面と心的な側面があります。身体的側面は「自然治癒力」であり、心的側面は「心の治癒力」と私は言っています。この二つは車の両輪であり、両者が相互作用的に機能することで自己治癒力が成発揮されます。基本的にこの力が病気や症状

          1,何が病気を治すのか

          医者嫌いの医者が言いたいこと

          医者嫌いの私が医者になった理由 私が医者になろうと思ったのは高校2年の頃です。もちろん病気で苦しんでいる人を救ってあげたいという純粋な思いもありましたが、実はもうひとつ大きな理由がありました。それは「西洋医学を変えたい」という思いでした。今思うと何とも大胆不敵で身の程知らずのうぬぼれだと思うのですが、当時は真剣にそう思っていたのです。 心と身体はつながっている  なぜならば私は高校時代から、身体ばかり診て心を蔑ろにする西洋医学に疑問を持っていたからです。心身一如という言葉

          医者嫌いの医者が言いたいこと

          noteをはじめます!

          医者嫌いの医者です。 西洋医学の偏った考え方に疑問を持っており、 「心の治癒力」をなんとか医療の中に取り込めないか模索中です。 ここでは、西洋医学の考え方のどこが問題なのか、 「心の治癒力」は医療の中でどのように利用できるのか、 思考のクセ(認知バイアス)が医療に及ぼす影響などについて 私の考えていることを述べさせていただきたいと思います。 どうぞよろしくお願い申し上げます。

          noteをはじめます!