常滑焼の情景
愛知県常滑市は、知多半島中程に位置する都市です。中部の空の玄関口とともに、窯業で有名な街として知られています。
良質な土が産出し、古くから窯業が発展してきました。
常滑は名古屋駅まで特急列車で30分程度と、名古屋のベッドタウンとしての一面も兼ね備えています。
中部国際空港の開港をきっかけにイオンモールやコストコなどのショッピングセンターも相次いで出店し、周囲の宅地開発が加速しています。
そんな変貌を遂げる一方で、今も窯業が盛んで、現在は住宅設備機器大手となったLIXIL（旧INAX）の常滑本社が置かれるほか、やきもの散歩道という窯元が集まる地域はレンガや土管、タイルなどの「焼き物」が散歩道のいたるところに使われています。
そんな常滑の街に散りばめられた、古の情景を探してみました。
駅を降りて、陶磁器会館方面へ足を運ぶと目に飛び込んでくるのは巨大な招き猫のオブジェです。
常滑は招き猫の生産が日本一であり、ここ以外にも猫の形をした焼き物が街中のいたる所に散見されます。
招き猫を探しながら散策するのも、常滑の楽しみ方の一つです。
窯元が集まる一帯は小高い丘になっており、急な坂道や階段が数多く存在します。
丘陵地を利用して街が形成されているため、やきもの散歩道は曲がりくねった迷路のような構造です。
地図を見ずに、当てずっぽうで迷い込んでみると発見があって実に新鮮です。
常滑焼の歴史は古く、平安時代後期に遡ります。
その頃すでに常滑付近で産出される粘土を利用して壺や茶碗などを作り、丘陵を利用した穴窯で焼かれていたようです。
現に常滑の土を使った焼き物が全国至る所から発掘されています。
当時、重量物を大量に輸送する方法は船舶でした。海に近かった常滑は船での陶器輸送に都合が良く、生産量が増加して発展を続けます。
土の成分も鉄分を多く含む粘土で、低い温度でも締まりが良いため壺や鉢といった大きな陶器を作るのに最適でした。
江戸時代後期になると朝鮮半島から登窯という傾斜に沿って作られた窯が登場し、効率よく高温焼成することが可能となりました。
明治時代には西洋の技術が取り入れられ、建築に欠かせないタイルや近代化に伴う水道整備のため、土管などの工業を目的とした焼き物生産が盛んとなります。
さらに焼き物は時代によって形を変えていきます。
戦後には公衆衛生の考えが広まり、便器や浴室タイルの生産が盛況になります。ちなみに常滑における便器の生産は明治時代に始まったとされています。当時は富裕層向けの住宅設備の一つで、現在でいう和式便器に青い装飾がなされており、華やかなトイレだったようです。
こうした陶器の歴史はやきもの散歩道の近くにあるINAXライブミュージアムで詳しく見ることができます。
窯元では食器を中心とした陶器が数多く展示され、実際に販売されています。取次店を介さないので市販価格より安く陶器を手に入れることができます。色とりどりの食器がどんな料理に合うのか、想像しながら巡るというのも楽しいです。
窯業の街ではおなじみの陶芸教室を行っているところもあり、茶碗や湯呑み作りを体験することもできます。
産業と伝統が行き交う街、常滑。
その魅力は中部の空の玄関口だけでなく、古来から続く焼き物文化と変わらない街の情景がありました。
※訪問される場合
常滑は名古屋駅から特急「中部国際空港」行きに乗って30分程度。同じく中部国際空港行きのミュースカイは停まらないのでご注意ください。
やきもの散歩道は名鉄常滑駅から徒歩10分のところにある
「常滑市陶磁器会館」
こちらの施設をスタートにするとマップや案内などの情報が手に入るのでおすすめです。
近年は案内看板の設置数が増えたため、以前より観光しやすくなっています。
※参考文献