上田の蕎麦に喉鼓(『正月四日の客』)
池波正太郎に『正月四日の客』という短編がある。「にっぽん怪盗伝」に収められたピカレスク小説のひとつだ
・さなだそば
『正月四日の客』には、黒々と光った無骨な手打ちそばを、辛み大根おろしの絞り汁とそばつゆを合わせた〈真田汁〉なるもので食べる〈さなだそば〉が出てくる。作中、信州・上田松代で食される〈さなだそば〉に思いが募り、旅に出た。
池波正太郎が通い、〈真田そば〉をメニューにする〈刀屋〉。営業時間は11~18時とある。もちろん売り切れ御免だ。一体間に合うのか。道々、収穫期の田んぼが素晴らしい。稲刈り中の農家さんの神々しい姿を見ながら、上田へ向かう。
15時半到着。並んでいるが、お店の丁寧な対応で一安心。待つこと10分程で着席した。
〈刀屋〉の〈真田そば〉は、みそ味。『正月四日の客』では辛い大根おろしのしぼり汁が印象的なので、別におろしだれ(辛くなかった)も頼む。圧巻は盛りの多さ。この店の並=四人前と説明される。食いしん坊の自分も、小でお腹いっぱい。みそ、おろしともに相性の良い無骨な手打ちそば、ご馳走様でした。店には池波氏直筆の色紙などが沢山あって、折々に掛け替えているとの事。
尚、この地域で馴染みの深い〈おしぼり蕎麦〉が、作中の〈さなだ蕎麦〉に近いという話もある。
しばし千曲川の岸で食休み。もう帰る気はすっかり失せている。手当たり次第に宿を探し、何とか上田駅前に一部屋確保。チェックイン後、上田城址公園などを散策し、〆の一杯。
・上田の酒「亀齢」
上田の地酒をとリクエストすると、岡崎酒造「亀齢」(当初「亀鈴」と思い込んでいた)が登場。美発泡で何とも美味! 旅先だと言うのに調子に乗ってしまい、夜中から頭がガンガンし、もれなく二日酔い。だが、せっかくなので、木造建築が残る素敵な柳町にある岡崎酒造さんへ。
改めて、目当ての酒は「亀齢(きれい)」であると認識する。亀の齢=万年にあやかり、酒を造り続けるという意味合いであろう。
・ちょっと待てよ!
池波正太郎作『正月四日の客』には、〈亀の小五郎〉という大泥棒が登場する。右腕に亀の彫り物をし、万年も盗みをしようと言う奴。なーるほど!池波氏も「亀齢(きれい)」を飲んだに違いない! 小五郎の着想はこれだ~‼‼‼ 小躍りが止まらないっ。更に『正月四日の客』主人公で蕎麦屋の亭主〈庄兵衛〉は、信州松代の酒屋の一人息子だ。ここにも「見つけた人はちょっと喜んでね」という池波氏の奥深い遊び心。
全く余談だが、新潟には「鶴齢(かくれい)」という日本酒があるそうだ。
上田を後にして松代へ向かう。ずーっと来たかった念願の松代大本営(象山地下壕)を心行くまで見学。
史料館で懇切丁寧な説明を聴き、現在地震観測所となっている天皇御座所予定地跡も外観見学。
松代大本営を見学したら、ここもご覧になる事をお勧めする。
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