ラグビー早明戦2020☆初心者プチ観戦記
1、記憶
久々の自由席
勇んで試合開始1時間半以上前に秩父宮に乗り込んだが、席取りを済ませると途端にする事がなくなってしまった。
お隣神宮球場では、
ヤクルトスワローズファンFESTA らしい。
実にcuteな『つば九郎柄トートバッグ』を下げた20代の女性達と外苑前駅ですれ違った。
野球って、なんて裾野が広いんだろう。下は幼児から上はシニアまで、野球のファン層は幅広い。日本で野球は単なるスポーツではない。文化なのだ、きっと。
私の心は札幌に飛んだ。
今日は、応援する日本ハムファイターズも、12時から札幌ドームでファンFESTAなのだ。
《きよみい》はどちらに行くのだろう?
我が愛すべきゆるキャラ『きよみい』こと清宮克幸さんは、早稲田の主将だったし、なにより早稲田の監督だったから、当然こちらに来ているはずだ。
いや、息子を愛してやまない《きよみい》のことだ。『五郎丸、後は頼む』とか言ってNHKゲスト解説を務める五郎丸さんに全てを託して今頃札幌ドームかもしれない。
私などが一生足を踏み入れることもできないメインスタンド最上部を見上げながら、ボンヤリと《きよみい》の早稲田監督時代を思い出した。
まだ30代半ばなのになぜかおっさんの風格を漂わせていた《きよみい》も既に50代。幸太郎くんは今年成人式を済ませた。
《きよみい》は、本当のおっさんになってしまった
キャノンGMとして慌ただしい年の瀬を過ごすであろう『永友くん』と違い、《きよみい》は今現場を離れている。
カテゴリーはどこでもいいから、現場に帰ってこないかなあ。ずっと願っているけれど、
副会長が現場に戻るなんてあるわけないよね。
昔の思い出をあれこれ思い描いているうちに、早稲田、明治両校のメンバーが、練習のためにグラウンドに出てきた。
2、両雄
南スタンド自由席なので、反対側の早稲田の様子は遠くてわからない。
目の前で明治の練習が始まった。
間近でみると、実にスピーディーでタフなスポーツだ。しかも明治の選手は体幹が違う。とにかく大きい。
大学ラグビーの盟主 明治大学
近年、かつての強さを取り戻し、早稲田と共に『大学ラグビーの両雄』として君臨している。
目の前の練習風景はその名に恥じないものだった。しびれる緊張感と、溢れるエネルギー。そして何より、
彼らは明るかった。
いい意味での高揚感が彼らを包み、決戦への気持ちを高めている様に見えた。
迷いがない。
私の眼にはそう映った。初心者の眼だけれど。
観客が次から次へと入場する。心持ち紫紺の方々が多いか。とにかく冷える日だったので、総じて観客はダウンコートに身を包んでいた。どちらのファンか、一見してわからない。
試合開始時間ギリギリに娘達も到着、どうやら外苑前駅のトイレは混んでいたらしい。私もダッシュでトイレに走り、開始寸前に底冷えする座席に着いた。
両チームの選手が入場してきた。
心持ち紫紺組が多いのか、などと考えた私は甘かった。
昔も今も、早明戦は
The MEIJI Festa
の如く、圧倒的に明治ファンが多い。明治主将箸本くんが姿を現したその時、喝采にも似た拍手が沸いた。日の当たるバックスタンドは、紫紺のシマシマが客席を埋めていた。
早稲田の選手も入場した。ここまで全勝の早稲田、彼らへの敬意の拍手は暖かかった。
試合が始まった。
明治ファンの応援は驚く程熱い。
Bリーグ秋田ノーザンハピネッツのブースター(ファン)達は、あまりの熱狂ぶりに
『クレイジーピンク』
と呼ばれるらしいが、今早稲田ファンの私と娘達を取り囲む明治ファンは、まさに
Crazy Navy
と言っていい。ここから80分間、私達は彼らの熱狂の渦に翻弄されることになる。
3、圧倒
試合開始直後、早稲田は小気味よくボールを回して明治陣内に押し寄せてきた。いつもの通りだ。
そして、明治も、相変わらず相手のペースに合わせる時間を過ごしているかに見えた。
しかし、今日の明治は『明治』だった。早稲田の選手を次々とタックルで押し倒し前進を阻む。
慶應のタックルは、低く、強かった。
明治のタックルも強かった。加えて
速く、『的確』だった。
おそらく、タックルに入るタイミング、入る角度、高さ、あらゆる質が高いのだ。的確なタックルは、おそらく『省エネ』にもつながるのだろう。
少ない労力で最大限のパワーを発揮する明治の防御は完璧だった。
時計はまだ5分を回ったばかりなのに、早稲田は押し込まれていく。明治が攻撃に転じたのだ。
力強く、縦への突破を図っていく。ここで、一人一人の『個の力』が威力を発揮しはじめた。
2度もトライ寸前まで持ち込み、遂に明治は先制する。
主将箸本くんは、ここ2試合『孤軍奮闘』の時間帯も多かった。しかし今日は見事に仲間との連携を結実させる。
彼は早稲田の選手2人を振り切ってゴールラインに飛び込んだ。
前半15分 明治対早稲田 7-0
圧巻はその後だった。
攻め込まれた後攻撃に転じた明治、ボールを受けた箸本くんは、力強く大地を蹴って走り出す。早稲田の防御をかわして突き進む姿に、客席から感嘆の声が上がった。
私は旧約聖書『出エジプト記』の一場面を思い出した。
『モーセが手を海に向かって差し伸べると、主は、夜もすがら激しい東風をもって海を押し返されたので、海は乾いた地に変わり、水は分かれた。』
私は南スタンドから彼の後ろ姿を追っていた。まるで、箸本くんの前に自然に道ができた、と思える程、彼の走りは迫力に満ちていた。
彼のボールは2人の仲間を経て、2つ目のトライとなる。
前半16分 明治対早稲田 14-0
前半序盤での2トライ、これが『明治』なのか。早稲田を応援する娘達も、明治の勢いに圧倒されていた。
明治の勢いは止まらない。
スクラムでペナルティーを奪い、ラインアウトからモールで一気に押し込む。彼らの前進は、荒れた波濤の如く早稲田の選手達を飲み込んだ。
前半26分 明治3つ目のトライ。
明治対早稲田 21-0
4、反撃
これ以上の失点は命取りだ。早稲田、どうする?
いや、ここにきて早稲田も腹をくくったのか。これ以降、セットプレーで手痛いミスを繰り返しながらも、早稲田は粘り強く攻撃を繰り返した。早稲田15番河瀬くんを起点としてボールは徐々に明治陣内深くまで達する。そして、根負けしたかの様に、明治の防御網は穴を開けられた。
前半終了間際 早稲田トライ
明治対早稲田 21-7
私の前に座っていた筋金入りの明治ファン、Jsportsの矢野武さん風に言えば
『Crazy Navyな奴ら』
は、居住まいを正すかの様に背筋を伸ばした。
『これで、、分からなくなってきたなあ』
『早稲田は走ってナンボなんだ。走らなきゃ話にならねえ』
彼らは、単に明治に勝って欲しいのではない。
『いい試合』をしてほしいのだ。
『Crazy Navyな奴ら』の愛は、明治にも、ラグビーそれ自体にも、ある意味早稲田にも向けられている、
奥が深い、ファンの心理とは。
ここでハーフタイムとなった。
コーヒーで体を温めながら、後半の早稲田がどこまで吹っ切れて走れるかが気になった。
お隣神宮球場からは、調子外れの効果音が絶え間なく鳴り響いていた。
5、進撃
後半は、明治の猛攻で幕を開けた。早稲田陣内での早稲田ボールのスクラム、出たボールを受けた選手がノックオン、危うくそのまま明治のトライになるところだった。
早稲田は、早慶戦での隙のない守備が影を潜め、この後もミスが続く。それだけ明治の圧は速く強いのか。
自由席から見た明治は、『進撃』という言葉が思い浮かぶ程、勢いを増して攻め込んできた
明治ボールのスクラムの度に、場内に手拍子が鳴り響く。Crazy Navyもヒートアップしている、
ゴールライン手前、明治ボールのスクラム、出たボールは素早く左へ運ばれた、早稲田は中央寄りに選手が寄っていた。結果は明らかだった。
後半27分 明治トライ コンバージョンは失敗
明治対早稲田 26-7 19点差
まさに 疾風怒濤
観客のどよめきは、驚嘆であり、吐息でもあった。
早稲田は後がなくなった。攻めるしかない。これ以上の点差は試合の終わりを意味する。
早稲田のリスタート
15番河瀬くんが、司令塔10番吉村くんまでも、早稲田は一体となって猛然と敵陣を目指した。鬼気迫る早稲田の反撃が始まった。
この時間帯、早稲田は相変わらずミスがあり、セットプレーも成功しない。しかし、明治にもミスが重なり、結果として早稲田は敵陣深く攻撃の駒を進めた。
ここから先はまさに執念だった。堅固な明治の防御の壁を必死にこじ開ける早稲田。ついに6番相良くんが明治の壁を突破、ゴールライン寸前まで走り込む。
ボールを持ったSH小西くんは、パスする仕草を見せつつ猛然とゴールライン先に突進した。
一瞬の出来事だった。
後半27分 早稲田トライ
明治対早稲田 26-14
帰宅して見た録画には、不動明王の如く憤怒の表情を浮かべた小西くんがいた。
6、終戦
残り時間は10分以上あるが、14点差。
次の得点をめぐって両者の攻防は続いた。明治の防御は鉄壁だった。早稲田はパスの連携が乱れボールを取り落とす。大事なマイボールのラインアウトでミス、ペナルティーを受ける。明治は着々と敵陣へ前進した。
そしてついに、早稲田陣内で早稲田はペナルティーを告げられる。
明治は堅実にPGを選んだ。
後半38分 明治PG成功、
明治対早稲田 29-14 15点差。
2トライ2ゴールでも追いつけない。
事実上勝負が決した瞬間だった。
ロスタイムは3分
しかし、明治は攻撃をやめなかった。点差もあったせいか、時間を使う攻めを選ばず、右へ左へボールを速く大胆に回してきた。
自由席に座る私達の目の前に『明治』が迫ってきた。
大きく左へボールはパスされた。大外で待っていた明治11番の前には誰もいなかった。
後半ロスタイム 明治トライ
明治対早稲田 34-14 20点差
ここでノーサイド。
明治、早稲田両校への賞賛の拍手はいつまでも響いた。秩父宮を包み込む様に大きく。
伝統の一戦は終わった。
圧倒的な『今日』の明治の前に、『今日』の早稲田はなす術がなかった。
しかしあくまで『今日』の話だ。
一試合ごとに『成長と挫折』を繰り返す大学ラグビーの選手達。
彼らには大学選手権が控える。
物語はまだ続く。
大学ラグビーは、今も昔も、
すがすがしく、切なく、どこかほろ苦い。