『紫紺のサムライ』剣を抜き『蒼き賢者』は策を練る(その1)〜関東大学ラグビー明治対筑波 初心者観戦記〜
1.我等、盟主なり
第一試合の早稲田の大勝は、私にどこか虚脱感を与えていた。試合後日体大の選手達は笑顔を見せていた。彼らなりの思いがあるのだろう。
日体大の今後の奮起を心の中で祈りつつ、私は再びテレビの前に座った。
今季初めて見る
『大学ラグビーの盟主』明治大学
早稲田と並ぶかつての『バンカラ大学』のイメージはもはや皆無だ。堅実な経営戦略で、今や大学入試センター試験合格得点率は90%に迫る。キャンパス内の雰囲気も、青学、立教をも凌ぐスタイリッシュな学風に大変身した。
そんな『NEO MEIJI』の学内で唯一『バンカラ』の香りを残しているもの。それこそ、
ラグビー部の『紫紺のジャージ』だ。
この懐かしい学風を纏ったラグビー部員達は、グラウンドに一礼しながら堂々たる風格で入場した。
昔も今も、大学ラグビー界の超エリート達が凌ぎを削り、選ばれし者だけがこの芝の上に立つことを許される。
長身にして頑健。明らかに、彼らの誰もが超大学級アスリートであることがみてとれる。
同時に筑波の選手達も入場した。
学校所在地の影響か、純朴で陰りのない面差しが心を和ませる。慶應相手に鮮やかな勝利を飾ったが、次節の帝京戦は、強力帝京FW陣に完敗した。
この試合の結果はある程度見えている。しかし、秩父宮で観客を魅了したスカイブルーの疾走は、ある種の期待を抱かせずにはいられなかった。
2.サムライ、一撃
試合が始まった。
年明けの大学選手権で見たはずなのに、今TVで見る明治の選手達は、今まで見たどの大学よりも威圧感があった。
殺気であり、
身体から血の匂いをも感じさせる凄味であり。
彼らは、ラグビー界のサムライなのだ、きっと。
盆地の熊谷は風が強い。しかし、この日風はほとんどないようだ。
明治のキックで試合は始まった。
ボールは筑波がキャッチ、まず左へFW陣が当たりながら前進を図るが、その後ボールを後方に送りキックで打開を図る。ボールは明治がキャッチ。
明治は右へ、左へ、更に密集を抜け、右へ右へ左へ、と細かくボールを動かしながら前進する。ここで明治10番が抜け出すが、パスを受けた6番がボールを取り落とす。
明治ノックオンのペナルティー。
その前に筑波にはアドバンテージが出ていたが、筑波は左へ攻撃を続けた。そして、今度は筑波オフサイドのペナルティー。
初心者の私には、少々ややこしい展開になったので、解説の方のお力を借りる。
筑波のアドバンテージはオーバーとなっていて、その後の筑波ペナルティーだから明治ボールのスクラム、だというのだ。
オーバーになる寸前に笛を吹くとか、選手に合図はないのだろうか⁈バスケみたいな厳密な時間制限はないらしい。
ともかくも、明治ボールのスクラム。この若きサムライ達にチャンスは早々に巡ってきた。
平均体重で約2キロ、総重量で約17キロ勝る明治。
しかし、そのような数字表示が無意味と思えるほど、明治FW陣は立っているだけで迫力があった。
大変例えは悪いが、この時両校選手の立ち姿は
ヤバいお兄ちゃん達に絡まれた大学生達
に見えた。
筑波よ、大丈夫か⁈
スクラムを組む前から空気で圧倒してくる明治のFW陣。明治は今も昔も強力FW陣が伝統だ。
明治は筑波FW陣をジリジリと押し込んでいく。ここで筑波はコラプシングのペナルティー。
さすが明治のお家芸!
再度明治ボールのスクラム。
ボールは明治8番から右に待つ9番にわたり、そのまま彼は駆け抜けた。
4分 明治トライ コンバージョン成功
明治対筑波 7-0
強力帝京FWに完敗した筑波、やはり今日も苦戦か。不安がこみあげる。
2.スカイブルー、反撃
リスタートの筑波のキックは明治がキャッチ。左へボールを進めていくが、筑波は低く鋭いタックルで応戦する。ここで、明治15番がキック。
キャッチした筑波は、一気呵成に右へ攻め上がった。ここで、タックルに行った明治の選手が相手を離さなかった、として明治ペナルティー。
筑波はボールをタッチに出して明治陣内深くに入っていく。
筑波ボールのラインアウト
筑波はボールをキャッチしてモールを組む。そして右にボールを出して10→12と繋ぎ、筑波12番は斜め左前方に鋭く斬り込んだ。
ここで明治にハイタックルのペナルティー。
筑波はボールを右に出し、素早く10→13へとパス、さらに左へ、大きく左へ、切り返し短く右へ右へと速攻が続く。そして筑波10番から12番へ、テンポよくパスが通った。ここで矢のように15番にパス、そして
大外で待っていた7番へ。彼は悠々と芝の上を駆け抜けた。
9分筑波トライ コンバージョンは失敗
明治対筑波 7-5
やっぱり筑波、やってくれるじゃないか!観客は賞賛の拍手を惜しまなかった。
3.スカイブルー、疾走風の如し
リスタート明治のキック。キャッチした明治8番主将の箸本くんは一気に加速して走る。さすがサンウルブズにも呼ばれた超スーパー大学級。風格が違う。
その後ボールに絡んだ筑波にペナルティー。しかし明治はPGに失敗。得点は動かない。
リスタートの筑波のキック。キャッチした明治は左へ、一気に前進を図る。そして、右へ、左へと攻撃の方向を変えつつ筑波を揺さぶる。
ボールは右へ、そして大外右へ、しかしノックオン。ただこの前に筑波のオフサイドのペナルティーがあった。明治はタッチに蹴り出し、明治ボールのラインアウトへ。
明治はこのボールをキャッチ、右へ攻撃を進める。しかしここでもノックオン。
明治でもこんなミスの連発はあるのか。
筑波ボールのスクラム。ボールをすぐに出して右へ、そしてキックで敵陣からひとまず脱出する。
明治ボールのラインアウト。明治はキャッチしてすぐ右方向へ。しかし、筑波は明治15番に鋭く低いタックルで応戦、彼のパスミスを誘い、ボールを受けた明治7番をも素早く引き倒した。
ボールを離せない明治にペナルティー
明治陣内で、筑波ボールのラインアウト
キャッチした筑波は、右へ、大外右で待つ7番へ、そして間髪入れず左へ左へ。
筑波は固い明治防御網の穴を窺う。しかしここで筑波スローフォワードのペナルティー。
明治ボールのスクラムへ。
スクラムは崩れてしまうが、明治はボールを左へ進める。ここで、筑波の速く低いディフェンスに前進を阻まれるが、右へ左へ揺さぶりながら徐々に筑波陣内へ。しかし、筑波が明治16番のボールに絡み、明治ペナルティー。
筑波はポールをタッチに駆り出して再び明治陣内へ。
筑波ボールのラインアウト
しかし、このチャンスに、筑波はボールを獲得できない。しかもこの時筑波にペナルティーがあったとして、またもや明治ボールのスクラムに。
明治は出したボールを右へ右へと運んでいき、キック。これをキャッチした筑波は、14番植村君が巧みなステップを刻みながら前進。そしてボールを左へ短くパス、さらにボールは右へ、左へ。
しかし、ここでも筑波ペナルティー。
明治は危機を脱し、筑波陣内で明治ボールのラインアウト。
明治ボールをキャッチ、すぐ左へ。しかし、ボールは受けた選手の腕に入らずこぼれてしまう。奪取した筑波が前方へキック。
転がるボールに筑波の選手は僅かに追いつけず、明治が再び奪取。左へ右へボールを動かしながら前進を図る。しかし、パスが逸れてボールは転々と転がる。
何とか明治は再びボールを奪い左へ左へ、そして前方にキック。
このボールを筑波15番キャッチ。彼は14番にパスするフリをしてそのまま駆け上がる。明治防御網に捕まるもののボールは右へパス。そして、
待っていた筑波12番は、素早く8番へ。
8番、灘高出身医学部在学中の俊才は一気にゴールラインを越えた。
28分筑波トライ コンバージョン成功
明治対筑波 7-12
筑波、明治を逆転!!
会場はどよめいた。筑波の華麗な波状攻撃に、私は、称賛を超えた畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
しかし私は、
彼らが単に『颯爽と芝を駆け抜ける青年達』ではない、
ということをこの後思い知ることになる。