駆け抜けるスカイブルーと突き進む虎達と(前編)〜関東大学ラグビー筑波対慶應 初心者観戦記〜
1.ラグビーの新たな船出に
11時30分試合開始
なぜ、主婦にとって最も手が離せない時間から試合が始まるのだろう。
例え『明らかな手抜き』であっても昼食の準備には手間がかかる。わたしはキッチンからリビングのテレビを見る羽目になった。
2月末にサントリーの試合を見てから、早いもので7ヶ月が過ぎた。その間、全く知識のないままスーパーラグビーを楽しんでみたり、懐かしの試合映像で『明大主将の永友くん』を久々に拝んでみたり、ささやかながらもラグビーに触れてきた。
しかし、日本での本物の試合、この嬉しさは格別だ。
TVをつけると、スーパーラグビーではお馴染みだった
髪型自由、タトゥー当然、とにかくマッチョ
という選手は、当たり前だが1人もいない。久々に見る大学生選手、彼らは総じて『高校球児』の様に見えた。
大学ラグビーは、プロへの登竜門という意味ではむしろ花園の高校ラグビーより『甲子園』の趣を感じさせる。
この独特の初々しさもまた、大学ラグビーの魅力かもしれない。
2.そのランは心を駆け抜けて
試合が始まった。
レフリーは梶原さん
『ああ、お元気でしたか!』
大学ラグビーで主審を務められる方はそう多くない。
名前は分からなくてもお顔はわかるのだ。まるで、『遠方に住む親戚のおじさん』に久々に会ったような懐かしさを覚えた。
試合が始まった。
慶應は勢いよく攻め上がっていく。
お、今年は楽勝か!
その直後だった。
後から見直すと、それは一瞬の出来事だった。
8分、筑波の8番の選手がボールを持って疾走した。
すぐに慶應に捕えられたが、彼はその短い距離を
矢の様に 空気を切り裂く様に 真っ直ぐに駆け抜けた。
私は、胸のつかえが一気に下りるような気がした。
世の大学生の多くが、リモート授業のまま、孤独と出欠がわりのレポート作成に苦しんでいる。その中で、なぜラグビーは許されるのか
正直なところ、大学生の子供を持つ親として少々複雑な想いがあった。
しかし、彼の走りは鮮烈で、清々しかった。
1人の大学生として、これまでの苦しみと不安から自らを解き放っているかにも見えた。
彼らの試合を最後まで暖かく見守ろう
素直にそう思い直した。
慶應も負けてはいない。
鋭く、相手に突き刺さる様な前進を繰り返し、筑波の防御網を破っていく。
ついに前半5分 慶應先制 5-0
この力強さ、やっぱり慶應今年は快勝か!
しかし、この後、慶応は軽快に攻め上がるもののフィニッシュに至らない。
筑波は、コロナのため遅れた教育実習の関係で練習不足、と聞いていた。しかし、筑波BK陣は、ボールを持つと即座にスピードアップして慶應陣内に攻め入ってきた。
とにかく初速が速い。
本当に練習不足なのか⁈疑いたくなるほど筑波の選手達は生き生きと躍動し、その勢いが連動していく。
そして、前半14分筑波逆転 5-7
3.『調整不足』という名の怪物
その後試合は拮抗する。
真っ直ぐに鋭く走る筑波と、右左と広くスペースを使ってリズム良く走る慶應
慶應は攻め込むが又もやフィニッシュが決まらず。今度は筑波は反撃に転ずる。
そして、慶應に反則。
27分 筑波PG成功 5-10
36分、慶応は再びトライ寸前まで攻め込むもトライならず。その後も慶應の攻撃が続くが、筑波がその都度凌いで前半は終了した。
調整不足
この言葉は、今年の極めて特殊な状況の中で、全てのチームに共通するアキレス腱だ。
チームを敗戦に誘い込む、この『怪物』は、トライに至る最後の過程でひょこっと顔を出すものなのか。『惜しい』という言葉で括られる個々のミスは、後半『致命的』なものとしてジャブのように効いてくるのか。
試合の潮目は後半のいつ、どちらのチームにくるのか。『調整不足』という名の怪物が、どこで、どちらのチームにその全貌を現すのか、この時点では、初心者の私には全く分からなかった。