コロナ渦で近くなったラグビー界とファンの距離〜もうファンを選ばないで〜
(この記事は、トップリーグ2021開幕前に投稿した『ラグビーとジェンダー』シリーズを加筆訂正したものです。)
1.遠くのスターより、身近なヒーロー
2020年9月5日 岩手県釜石市 釜石鵜住居復興スタジアム
釜石SWvsヤマハ発動機ジュビロ(現静岡ブルーレヴズ)の交流試合『ともだちマッチ』が行われた。
同日午後には、《オールブラックス南北対決》が放映された。確かにこれはハイレベルの素晴らしい試合だった。しかし、交流試合とはいえ国内の試合、まして一方がトップリーグのチームなら面白いし、なにより感慨深かった。
ラグビーが日本にも帰ってきたのだから‼️
『自分に身近なチーム』という意識があると、ただ競技として『観戦』するだけでなく、『応援』したくなる。
応援=私に何かをもたらしてくれる期待の表れ
だろうか。
自分の応援でチームの勝利、発展に貢献したい、という気持ち、それは、
人の役に立ちたい、という『愛』なのか
チームに『自分自身』を投影しているのか
どちらなのだろう。
いずれにせよ、その気持ちが、試合観戦、グッズ購入等に繋がり、結果として、経済的にチームを支えることになる。プロチームなら。
2.曖昧だったラグビーファンの立ち位置
企業スポーツのラグビーは、ファンの経済活動がチームの経営や選手の給与に直接は結びつかない。
チケットは協会が一括販売、試合もホームアンドアウェー方式ではない。ついこの間まで、驚く程各チームのグッズの種類は少なく、しかも『試合日にチームテントで販売』のみ、という信じがたい形態が普通だった。
『あまり買わない』ことが前提の販売、とは、プロスポーツではありえない。
私はスポーツビジネスなんて知らない。しかし、素人でも感じることはある。
思うに、企業スポーツの最大の問題は、
選手に、《ファンあっての自分達》という意識を植えつけにくい
ことにあるのではないか。
選手の多くは社員でもあるから、『生活のため』気にするべき人間は
まず、監督、スタッフ陣
次に、会社の上司
そして、取引先
であって、ファンの優先順位は相対的に低い。
ファンがたくさんいたらいいな、ともちろん選手全員が思っているだろう。しかし、その程度のぼんやりした願望だけではファンは増えない。自らの積極的な活動が必要だ。しかし、足りなかった。圧倒的に。
新型コロナウイルスが日本中を覆うまでは。
3.近くなったチームとファン
コロナ渦は、W杯で人気沸騰したラグビー熱を冷ましたかにみえる。
しかし、3月から今に至るまでの各チームのSNS上の活動を見ていると、ラグビー界とファンの距離感、チームのファンに対する姿勢は大きく変わった、と感じている。
ファンあってのラグビーチーム
ファンあっての選手
という意識が程度の差はあれ、どのチームにも強く芽生えてきた。
4.大型企画も良し、手作りも良し
NTTコミュニケーションズシャイニングアークスの『浦安アークス学園』企画
あらゆる意味で革命的だ。衣装、映像、企画、全てが本格的。実際、選手の名前を覚えられる。かなり攻撃的な企画ではあったが、情報を扱う会社のノウハウが生きているのだろう。驚く程上質に仕上がっている。制服コスプレだが下品ではない、セクハラ発言も皆無、台本もよく考えられている。
予算を投じた分、間違いなくチームと選手をラグビーファン全体にアピールしている。
これと対称的な企画がある。
NECグリーンロケッツ(現NECグリーンロケッツ東葛)の『毎日SNS作戦』
部員全員の暖かい手作り感
が売りだ。若手選手は体も張り、ドッキリ企画も受ける。小さな企画だが、毎日選手が順番でSNS上に登場する。
『毎日』ここがポイントだ。日々体を張って、時に芸もスベルがそれもご愛敬。企画もグッズも選手自身が考える、その過程も丁寧に伝えてくれる。過去の企画のアンケートまで取ってくれた。彼らは真剣なのだ。
毎日見ていると、自然と応援したくなる。
グリーンロケッツの活動は
チーム、選手の、ファンへの寄り添い感の大切さを
日々教えてくれる。
5.もう客は選べない
ラグビー界のファン獲得活動。
もちろん、今までなかったわけではない。それなりにあった。
ただ、プロ野球や商業演劇に長年親しんできた身からすると、
ラグビー界は、自ら、あるいはファン自身が、ファンを選んできた、と感じる。
部活等で競技経験がある。学生時代からのラグビーファン。チームの所属企業、関連企業の従業員。家族がラグビー経験者、等。
こんなこともあった。
W杯後、ファンが各クラブの練習場に押し寄せた際、SNS上で、
『マナーの悪いファンに、ラグビー憲章を読ませたい。』『ラグビー憲章を読んでラグビーの精神をわかってほしい』という声をよく見つけた。
ラグビー憲章、なにかと登場するラグビー界の法律。
気持ちはわかる。わかるが、ちょっと待ってほしい。
《日本国民なら日本国憲法をきちんと読んでこい。》
と人に言われたらどう思うだろう。
『いや、それなりにわかってますけど。』
と言いたくなるだろう。日本国民は第21条『表現の自由』の文言をだれも暗記なんかしていないが、
『他人に著しく迷惑をかけない範囲でなら、どんな表現もしていい自由がある』ということくらいわかっている。
乱暴な言い方をすれば、
日本国憲法が保障する人権について、一般人の感覚で、ザックリわかっていれば、ラグビー憲章も同時に理解したことになる、
と思っている。
だから、よほど犯罪傾向でもない限り、みんなラグビー憲章が求めている人格を有しているだろう。
ファンを選別して『お前なら入れてやる』と会員制サロン的な扱いを続ければ、ファンは一定数以上増えないし、娯楽が多様化する今では減少しか未来はない。
もう、ファンは選べないし、選ぶべきではない。
Jリーグは発足時
『サポーター』
という日本人には聴き慣れない言葉で、老若男女問わずファンを広く募った。地域全体を巻き込んで。鹿島、清水、浦和、新潟、長崎等、現在地域経済の核になっているチームを挙げればきりがない。
まだにわか、とか、もうにわか卒業、なんて口にしている時点で、エンタメとしての方向性が間違っている。
6.選手を守るルールを
ただ、ファンが多様化するとトラブルも増える。世の中
『変質者』『ストーカー』
に悩まされるアスリートは少なくない。
同時に、選手のプライバシーを守るルール作りが必要だ。
ここで大切なことがある!
ファンの自覚に任せてはいけない‼️ファンの価値観は多様化している。『明確なルール』があってこそ、ファンは適切な判断ができる。チームは自粛警察を生んではいけない。自分達が管理する意識を持つべきだ。
選手も人間、ファンも人間。間違いもあるし、欠点もある。しかし、選手もファンも『等しく』人間としてその価値を尊重されなければならない。その許された範囲でチームとファンは互いを支え合えば良い。
チームはファンを選んではいけない
同時に
チームは、選手達にファンサービスへ過剰な我慢を強いてはいけない。選手を守って欲しい。
その舵取りは難しい。しかし、成熟したスポーツエンターテイメントとなるためにここは頑張ってほしい。