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はじめての床上浸水。そのとき全財産3000円の熟女のはなし。


第3回目。

前回、前々回とわたしについてお話しさせていただいたが、


ここで、今のわたしを語るうえで欠かすことのできない、ある出来事についてお話ししたい。



去年の七月の、参議院選挙投票日の夜明け前のこと。

すさまじい雨音に目を覚まし、目をこすりながら時計を見るとまだ5時前。
もうひと眠りしようと目を閉じたものの、あまりの雨音にちょっと気になって、カーテンの隙間からふと外を見た。

すると、なぜかそこにあるはずの庭も、道路もない。

( あれ?夢みてんのかな?)
ごしごし。
 。。。。。
「え?池??」
 。。。。。。
ごしごし。

 。。。。。

 。。。。。!!!!

そこでようやく、わたしは理解した。

家のまわりがすべて水に浸かっている。


「やばい!!!やばい!やばい!!!!」

足をもつれさせながら玄関を見に行くと、すでに水が入ってきていて、床に置いていた靴がプカプカと浮いていた。

「ギャアー!!!!!」

迫り来る水に、なにしていいかわからず、台所のすし酢を台の上に上げたり下ろしたりするわたし。

「くにこ、まず着替えようか」

同棲中の彼 ( おはぎ氏 ) の言葉に、ハッと我をとりもどし、そうだ、そうだ、着替えと避難の準備だ、と洋服を取りに行こうと立ち上がろうとしたその瞬間、
バチンという音とともに電気が消え、あたりは真っ暗闇になった。

「ヒィィャァア!!!!」

驚きと恐怖で、からだが3㎝浮いて、髪の毛がビビビと逆立った (とおもう )。

隣の部屋からおはぎ氏の声がする。

「くにこ、ランタンがあったよね?」

あ、そうだ!こないだ父ただしが電気屋の景品のランタンをくれたんだった!
ナイスただし!!ありがとうただし!!!


どうにか着替え、荷物も用意して、なんとなく目につくものをちょっとだけ高い所に上げたりしているうちに、いよいよ床上まで浸水してきた。

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夜も明けた。

時は来た。


「よし!もう逃げよう!!」

荷物を背負い、レインコートを着て、長靴を履いて玄関に下りる。

長靴がズブリと水中に沈み、姿を消した。

オイ!!!こりゃ思ったより深いぞ!!!
大丈夫なのか!? 脱出できるのか??

不安と恐怖で胸がキュウとなる。

「ドア、開くかな??」

おはぎ氏がエイっとドアを開ける。
室内に水がどっと流れ込む。

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開いたドアの向こうでは愛車タントが1/4ほど浸かっている。

おそるおそる外に出る。
さっき夢うつつで見た池は、川にランクアップしている。

茶色い水にふとももまで浸かりながら、前へ進む。
下になにがあるかわからない。
こわい。
流れに足を取られる。
こわい。こわい。

でもとりあえず進むしかない。

近所のご家族が途中で止まってしまった車を押している。
建設中のお宅から材木が流れてきている。
どこかで犬が吠えている。大丈夫かな?

50mほど進むと目の前に道路が見えてきた。

なにこの安堵感。
うれしくて泣きそう。

地面サイコー!!地面ヒャッホーウ!!

地面のありがたみを噛み締めているうちに、避難所になっている近くのコミュニティーセンターに到着。

玄関でレインコートを脱ぎ、ビショビショのずぼんをスカートに着替え、案内していただいた和室へ。

すでに避難されていた何組かの方々に挨拶をし、部屋の隅っこの畳の上にペタリと座る。

ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
とりあえず無事!!よし、 生きてる! !!オッケー!!!!

おはぎ氏がタオルを洗面所で濡らしてきて、わたしに「脚を拭いたらいいよ」と渡すと、
「ブレーカー落とすの忘れたから、ちょっと帰ってくる」と出て行った。
すげえ。おはぎ氏。
わたしゃ二度とあの道を戻りたくない。

ブレイカーを落としに戻ったおはぎ氏を、コミュニティセンターのホールでそわそわして待つ。

極度の心配性と妄想癖のダブルコンボのわたしは、待ってるあいだも、
( 家に入ったとたん、漏電してビリビリなったりしてないだろうか )
とか、
( マンホールのふたが開いていて、落っこちたりしてないだろうか )
とか、
( 火事場どろぼうならぬ、水害場どろぼうと鉢合わせして、ほうきを武器に格闘してないだろうか )
とか、いろんな想像をして落ち着かない。

そんなわたしの不必要な心配は、ガラス窓の向こうに見えた、てるてる坊主のようなその姿にかき消され、思わず安堵の笑みがこぼれる。

それから、わたしたちはそれぞれの実家や大家さんに電話をして状況を報告し、そこまで済ませたらなんだか気持ちも落ちついてきて、
「これからどしよ?とりあえず選挙行くか。」なんて話してたら、おはぎ氏の携帯が鳴った。
大家さんからだ。

おはぎ氏が電話を終え、戻ってきたので「大家さん、なんだって?」と尋ねると、 彼はさわやかにこう答えた


「大家さん、もう家を取り壊すって」


ん?。。。家を?。。。取り壊す?

なぜかわからないけれど、状況を把握するにつれ、笑いがこみ上げてきた。

わたし、もうすぐ『家なき熟女』
そして、目の前にいるのは『家なきおはぎ』

「やばくない!?ちょ、やばくない!?」
「やっばいね!!やっばいね!!」

家がなくなる。
車は動くかわからない。
そして、その時点でのわたしの全財産、3000円。

ウォウウォウウォウォー!!
アドベンチャー キターーー!!!!!

なんかわからんけど2人して妙なわくわくがとまらない!!
さっきまでの恐怖心との高低差で耳キーンなる!耳キーンなる!

避難所でアルファ米をもそもそと食べながら、にやにやしている2人。

さあ!!これからいったいどうなる!??

全財産3000円の家なき熟女の運命やいかに!!?!

次回につづく



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