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幼い少年は、言葉が上手く喋れなかった。けれども、その代わりとでも言うべきなのか、文筆においては雄弁だった。 彼の得意教科は国語だった。作文では常に一番だった。 当然のように彼は、周囲から「文章を書くのが上手いやつ」と認識され、独自の地位を獲得するに至った。 彼にとっては、文を書くことが唯一の強みだった。 そのことを、ほかならぬ彼自身も認識していた。 そんな少年にも、恋心を寄せる女子がいた。 しかし、生来の消極的な性格が災いして、同じ学級でありながらも親しい関
「サクラダ先輩、僕と付き合ってください」 蚊の鳴くような声が、涼やかな空気を微かに震わせた。 大学二年生の秋、校舎裏の喫煙所で。 告白された。サークル後輩のエコウくんに。 いやまぁ、予想通りではあった。 新歓の時から目を付けていた、温厚そうな男の子。 動物で例えるならば、まさに羊だ。 牧場の隅っこで黙々と草を食しているような。 向こうから好意を寄せられていることにも、うすうす気付いていた。 私は彼氏と別れたばっかで、ちょうど男を切らしていたわけで。年