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豊かさとは、人と自然とのちょうどいい距離感。 Iターンメンバー対談|粟野×齋藤

 多彩なメンバーが在籍する8Peaks。今回は、ともにIターンで茅野市に移住し、異なるアプローチでライフスタイルを提案する2名が対談を行った。それぞれが考える、八ヶ岳エリアならではの“豊かな暮らし”とは?

<メンバー紹介>
粟野 龍亮:「TINY GARDEN 蓼科」責任者
齋藤 由馬「8Peaks BREWING」代表

都会にはない“本質”がある

−お二人ともIターンで茅野市に移住されたそうですが、ご出身はどちらですか? 

粟野:生まれは静岡ですが、幼少期に東京に移ってからはずっと東京です。

齋藤:僕は同じ長野の上田市です。 

−現在の活動内容を簡単に教えてください。

粟野:URBAN RESEARCHが手がける宿泊施設TINY GARDEN 蓼科の責任者を務めています。ロッジ、キャビン、キャンプの3タイプから滞在方法を選ぶことができ、地元食材を使った料理や温泉も楽しめます。ワークスペースも備えているので、ワーケーションやオフサイトミーティングなどで利用する方も増えています。

齋藤:八ヶ岳山麓で「8Peaks BREWING」というブランドの地ビールを製造しています。「このビールを飲むために八ヶ岳に来た」と言われるような存在を目指して、地域の食や自然に合う味わいにこだわっています。イベントなども運営していて、ビールのある時間やライフスタイルも一緒に提案できたらと思っています。

粟野と齋藤がコラボし、TINY GARDEN 蓼科にて開催したクラフトビールのワークショップ「BEER CLUB」でのふたり

−移住した経緯は?

粟野:東京に住んでいる頃に、URBAN RESEARCHが展開する「かぐれ」というプロジェクトに所属していて、“オーガニックと手仕事”をテーマに、職人技が伝わるようなアパレルや雑貨を取り扱っていました。その中で、作家さんのところに取材に行ったり、出張販売で頻繁に地方を訪れたりしているうちに、だんだんと自分の拠点が東京であることに疑問を感じ始めたんです。

−それはなぜですか?

粟野:つくり手のこだわりや本質を伝えるためには、ものを売るだけでは限界があるなって。都会でできることって限られているなと思ったんですよね。“もの”ではなく、ものづくりに対する思いや体験、そこに流れる“時間”に関わりたいというか。それで東京を離れようと決めました。 

−そこからなぜ茅野市に?

粟野:山のあるところで暮らしたいと思って、移住先の候補に挙がったのが長野と三重でした。同じ頃に結婚して子どももできたので、家族で三重の伊勢市に引っ越して、旅行関連の仕事に就いたんです。そのまま三重で暮らす選択肢もあったんですけど、もっと違った形で地域の魅力を伝えたいと思うようになり、茅野市での地域おこし協力隊の仕事を見つけて、2017年に移住しました。 

−もともと八ヶ岳エリアに興味はあったんですか?

粟野:そうですね。僕、山登りが好きなんですよ。趣味として好きというよりは、ライフスタイルの一環として山や自然が好きで。学生時代にタイのカレン族という少数民族が住む山岳地帯に滞在したことがあるんですけど、彼らの生活は不便だけどシンプルで、そこがすごくいいなと思ったんですよね。八ヶ岳エリアにも通じるものがあって、寒さゆえの厳しさがあるからこそ、生きる知恵が豊富で、素朴な中に濃い時間が息づいているような気がします。 

−地域おこし協力隊ではどんな活動を? 

粟野:地域の食とものづくりに関わるツアーの企画などを行っていました。それでちょうど1年くらい経った頃に、URBAN RESEARCH時代の先輩に「TINY GARDEN 蓼科」の立ち上げに誘われました。

TINY GARDEN 蓼科にて、粟野と子どもたち

地元のために何ができるか

−齋藤さんはなぜ茅野市に?

齋藤:僕の実家は切り花農家なんですけど、自分には合わなかったんですよね。大変そうに花を育てている家族を見て、なぜ食べられもしないようなものをわざわざ苦労して育てるんだろう?って。花農家には絶対になりたくないと思って、専門学校を卒業して東京の製薬会社に入りました。それで漢方薬の製造部に配属されたんですけど、実家で育てていた「竜胆(りんどう)」が原料に使われていたんです。あの花がこんなところで人の役に立っていたのかと驚きました。

−花の価値を見直したんですね。

齋藤:その後、大きなきっかけになったのが東日本大震災で、被災地の現状を目の当たりにして、地方出身者が地元のためにできることって何だろう?と考えるようになりました。同時に都会の生活にも嫌気がさして。きれいなスーツを着て、いい革靴を履いて、高級な腕時計を身に着けることが人の価値なのか?本質ってそこじゃないよねと。それで2012年に地元の上田に戻りました。

−“本質”という点で、粟野さんの移住の経緯と通じる部分があります。

齋藤:でも僕の場合、それだけじゃどうにもならなかったんですよね。

 −どういうことですか? 

齋藤:前職で培った加工技術で地元の役に立てればという“思い”だけはあったんですけど、何もできることが見つからなかった。結局、家業の花農家を手伝いました。そこで初めて切り花市場の現状を知ったんですけど、年間の花の流通量は変わっていないのに、単価は下がっているんですよ。なぜかというと、花の生産費の大部分って人件費だから、国内で生産するより、人件費の安い東南アジアなどで栽培して輸入した方が利益が大きいということで、大手がどんどんそっちにシフトしているんですね。このままだとうちのような花農家が生き残っていくのは厳しいなと。何かできることはないかと模索するうちに、ビールの原料であるホップに行き着きました。 

ホップの毬花

−確かに、ホップも花ですね。

齋藤:八ヶ岳は日本のホップ栽培発祥の地と言われているんですよ。ホップは花単体での需要はないけど、ビールという二次加工品を生み出すことができる。そこから花農家のアピールにもつなげることができるし、ビールと一緒に楽しむ食にも派生して、地域全体が盛り上がっていけば、6次産業化も夢じゃない。それで親父に話したら「生意気言うな」と。勘当同然でビールの研究を続けて、ホップ栽培に適した茅野市に移住しました。

−信念を曲げなかったんですね。ビールの製造を始めたのはいつ頃ですか?

齋藤:茅野市に移住したのが粟野さんと同じ2017年で、1年後の2018年に会社を立ち上げて、本格的に製造を始めました。 

選び取れる距離感が大切

−ではお二人とも同時期に現在の活動をスタートさせたんですね。茅野市に移住してみてどうですか?

粟野:僕的にはイメージ通りのいいところでした。全てを受け入れてくれるような雄大な山々があって、出会う人もみんな魅力的で。自分が興味を持った先に、必ず面白い先輩がいるんですよ。

齋藤:茅野市は人口に対して移住者の割合が高いんです。受け入れる土壌が整っているから、多彩な人が集まるし、単に友だちというだけではなく、ビジネスの関係でもで人と人とがつながりやすい。その分絆が深まるし、交流も続いていくし、輪も広がっていくんだと思います。8Peaksの仲間もまさにそうですよね。

粟野:そうですね。そういう意味では、東京に近い部分もあるのかもしれない。疎外するわけでも、過干渉なわけでもなく、変に田舎じゃないというか。表現が難しいんですけど。

齋藤:移住者が定着しない理由の一つに、地方側が“教育したがる”っていうのもあると思うんですよ。「俺たちの伝統的なスタイルはこれだから」と、地元の団体に入ることを強要してしまったり。

−ウェルカムな姿勢のつもりが、逆に息苦しさにつながってしまう可能性もあると。

齋藤:悪いことではないんでしょうけど、干渉しすぎないことも大切ですよね。「来てくれてありがとう。ゆっくりしたいならどうぞ」くらいでいいと思うんです。茅野市は移住者の受け入れに慣れている分、その距離感が絶妙だと思います。

−「田舎で過ごそう」というよりは、「自然の中で豊かなシティライフを送ろう」というモチベーションの方が、八ヶ岳エリアには合っているのではないでしょうか? 

粟野:そうですね。あと、自然とも適度な距離感があるといいですよね。きっちり距離を詰めたい人もいれば、さらっと楽しみたい人もいるだろうし、求める環境って人それぞれなので、自分で距離感を選び取れる余白があればいいと思います。

−地方の体験ツアーなどでも「地域の暮らしをこう知って、自然をこう学んでください」と決められてしまうと、ちょっと重く感じてしまいます。

粟野:そうなんですよね。だから「TINY GARDEN 蓼科」がカジュアルな玄関口になればいいなって。そのためにも、今はまだ“場”としての存在なんですけど、もっと地域の文化や生産者も巻き込んで、“メディア”として動いていけたらいいなと思っています。

齋藤:時代に合わせた変化も必要ですよね。長い歴史の中で人々の暮らしは変わってきたけど、例えば“ビールのある暮らし”はずっと続いてきたように、変わらない本質もある。そこを見極めながらニーズに合わせて最適化して、洗練された提案をしていくことが大切だと思います。 

TINY GARDEN 蓼科での「BEER CLUB」にて完成したオリジナルクラフトビール「GARDEN ALE」

−お二人はご自分でビジネスをされていますが、ただ住む場所として茅野市はどうでしょうか? 

齋藤:すごくいいと思います。生活の持続可能性において何が重要かって、一番単純明快なのがスーパーマーケットの数なんですよ。茅野市って5万5000人程度のまちなのに、スーパーが8軒もあるんですね。(※取材当時)スーパーだって慈善事業じゃないし、儲けがなければ運営できませんから、スーパーの数はその地域の経済活動が活発であることの証、豊かさの指標なんです。

−なるほど。わかりやすいです! 

粟野:標高が高い地域ならではの自然も魅力ですよね。一番低いところでも700m以上あって、一番高いところだと2899mと、寒さは厳しいけど、ここにしかない美しさを味わえる。先程の距離感の話と同じで、僕も子どもの通学を考えなければ、もっと森の方で暮らすという選択肢もありましたし、自分で自然との距離感を選び取れることが、暮らしやすさにもつながっていると思います。

齋藤:粟野さんも言っていましたけど、生きる知恵が必要な地域ではあると思います。だからこそ、知的好奇心があり、身も心も健康な人たちが集まりやすいのかなと。そういう人たちとの出会いがこれからもっと増えると思うと楽しみです。

関連リンク

●「BEER CLUB」レポート記事

●「8Peaks BREWING」オンラインストア



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