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積乱雲読2025-01 『アルプス席の母』早見和真 著
別アカウントで書き始めた読書記録「積読乱読積乱雲」も、結局忙しさにかまけて書けなかったどころか、まともに読書も出来なかったので、いったん向こうをお開きにして、こっちに移転してきました。
といっても、今日話題にするこの本も、実は正月休みに詠んだっきり、感想をまとめていなかったんです。それが、ちょうど本日発表になった、本屋大賞2025にノミネートされたのをみて、改めてまとめておこうという気になって、今パソコンを開いてせっせと書いています。
なお、僕の読後感なので、多少なりともネタバレを含みます。
これから読む人は、お気を付けください。
僕はとても野球が好きだ。今でも年間10試合くらいはプロ野球を見に行くし、かつては少年野球チームに所属している弟の試合を見に行ったりしていた。さらには、友人に本格的に高校野球をやっていた人もいるし、高校野球の監督としてチームを甲子園に導いた人もいる。
だからこそ、この作品に描かれている「親の視点から見た高校野球」
の生々しさは、読んでいて本気で胸が苦しくなるほどだった。
視点人物は、夫を失い、中学生の息子航太郎を女手一つで育てる菜々子。
作品はまず、高校生になった航太郎がマウンドに伝令に行くシーンから始まる。それから、時は航太郎の中学時代となり、最初のシーンそしてその先へと時間の流れに沿って進んで行く構造になっている。
この作品の中では様々な戦いが描かれる。
それは決して、航太郎が所属するリトルリーグのチームや希望学園高校と相手チームとの戦いだけではない。
親と子供の戦い。
保護者会の親同士の戦い。
監督と選手や保護者の戦い。
選手同士の戦い。
選手とケガとの戦い。
様々な戦いを越えることによって、航太郎や周りの子どもたちはもちろん、菜々子も成長を遂げていく。
この作品の僕なりのポイントは大きく3つ。
生々しい部活動の「保護者会」の描写
それぞれの人物の丁寧な描かれ方とキャラの立ち方
男の子たちがとにかくかわいい
1については前日の胸の苦しさの大きな原因。不透明な動きをする保護者会費、無意味に厳しい保護者会則などの、部活あるあるともいえるかもしれない様々な問題に加え、保護者同士、保護者と指導者、保護者と子どもたち等々の絶妙微妙な人間関係など、よく描かれていると思う。
2については、上とも下とも重なる部分もあるが、いわゆる主役級の人物から、脇役的な人物まで、この長さの小説にしてはかなり細かい登場人物が多いと僕は感じたが、そのどれもがきちんとキャラが立っていて、人物が生き生きと描かれていると感じた。
3については、昨年記事にした瀬尾まいこ著『あと少し、もう少し』とも共通するが、航太郎はもちろん、周りにいる同級生の男の子たちがとてもかわいい、母親と対照的に好青年として描かれるキャプテンの西岡、一般生として入部して航太郎と一番仲のいい馬宮陽人、それに上級生たちなんかも、みんな一生懸命で可愛いのだ。
あとは、僕が野球というものについていろいろ知っているからこそ気になる部分が、特に作品の終盤に畳みかけるように出てくる。主として、航太郎の投手起用と、そこからドラフトにかかるかもしれないの流れについては、やや現実離れしたなという印象だった。ただこれは、スポーツものの小説の終盤にはよくあるパターンであるから、これはこれでOKだと感じる人も多いだろう。タイトルの回収については、個人的にはとても好きな感じだった。
蛇足だが、一部で批判的な言われ方をしている305頁のセリフについては、確かに必然性は無いなという印象。違和感を持つ人がいても仕方がないと思うのだが、上記の通り丁寧な人物描写をする作者は、もちろん意図をもって言わせたのだろうし、そこについて考えることはやめておく。
他にも183、210-211、218、233、276、315-316あたりに胸を打つ言葉があった。
以上、今年1冊目の読書は、いい本に当たったなと思わせてくれるものでした。
3月まではしばらく忙しそうなので、また読書から離れてしまいそうですが、漫画も含めまたいろいろ読めたらいいなと思っています。
次は俵万智さんの歌集を読み始めようと思います。
ここにいる全員の子どもが、野球で思い描いた結果を残せるわけじゃない。がんばれば夢が叶うわけではなく、理不尽な思いもたくさんする。みんながベンチに入れるわけではなく、ましてや主役になんてなれやしない。
それでも、全員が幸せになることはできるはずだ。
高校野球をやって良かったな――。