ひそやかに、君の大切な話をしよう。
「先生、彼氏が女になっちゃったんです」
近頃、そうした内容のご相談がとても増えている。
トランスジェンダーだけではなくて、いじめやDV、希死念慮など、一昔前と比べて解決の難しいお悩みがたくさん持ち込まれるようになった。
お仕事は何を?と聞かれたとき、ためらいもなく「占いをやってます」などと言える占い師はどれくらいいるのだろう。
仮に言ったところで「あーじゃあ手相観れる?」なんて両手を差し出されるのがオチで、職業としてはほとんど認識されない因果な商売である。
でも、私はそれを、あえて専業でやっている。
街の商工会議所に所属し、実店舗を構えて占い師として働いている。
来店するクライアントの層が変わり始めたのは、いつ頃からだったろうか。
最も印象的だったのは、パワハラで心の病を発症し、半引きこもり状態だった青年が足しげく通ってきたことだ。
彼はほとんどおしゃべりだけで毎回時間を過ごし、やがて私の占い講座の生徒になって、半生をホロスコープの上に辿って笑顔を取り戻していった。
そして最後に、「出会えてよかった」という言葉を残して地上を去っていった。
どうしても女装がやめられない男性、
同性の上司を好きになってしまった女の子、
消してしまいたい過去を持つ人、誰にも話すことのできない秘密……。
「仲間にはこんなこと言えない、どうせ引かれるだけだし」
「僕、友達いないんですよ。人が怖いんです」
カードの絵柄に心情を重ね、ポツリポツリと話し出す彼ら。
カーテンで閉じられた小さな鑑定室は、その時、彼らを包む子宮になる。
占いだから、いいのかもしれない。
行政でも医療でもなく、フラリと入れる隠れ家のような「居場所」だから。
そして彼らは、話すだけ話して泣いて、スッキリとした顔で帰っていく。
陽気で自信満々な人々がもてはやされ、マイノリティは隅に追いやられる世間の壁。そんな社会の枠組みからドロップアウトした存在を、受けとめてくれる場所はそう多くはない。
私は彼らのささやかな受け皿になりたいと思う。
ひとりを癒すことは、繋がっている別の人々をも癒すことになると信じている。
ここに存在していていいんだよと、そう言ってもらえたなら、どんなに未来が生きやすくなるだろうか。
だから、私は今日もこの街で、小さな居場所の明かりを灯して待っている。
(プライバシー保護のため、表現の一部を変えて書いています)