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REIWA詩人パーフェクトFile⑤元澤一樹

※「月刊 新次元」第36号(2019年5月)に掲載された記事の再掲です
再掲の際に一部を修正していることがあります
https://gshinjigen.exblog.jp/29028821/
http://geijutushinjigen.web.fc2.com/36watanabe.pdf

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今回は元澤一樹さんです。1996年生まれで第10回琉球大学びぶりお文学賞と第14回名桜大懸賞作品コンクール詩部門最優秀賞を受賞した、新進気鋭の詩人です。

遥か沖縄の地で活動している詩人である彼とは前々よりTwitterでフォロー・フォロワー関係でしたが、実際に会ったのは今年の1月、早稲田の交流スペース「あかね」にて詩と絵の合作ライブ「詩絵両交 第2回」を開催した時のことです。同じ沖縄で活動するずんやまずん子氏がポエトリースラムジャパンの決勝戦に出場すべく上京していて、それへの付き添いのタイミングでイベントに参加してくれました。

「詩絵両交」は数時間ぶっ通しで詩人と画家が合作し続ける骨太なイベントで、考えるよりとにかく書け&描けなもはやスポーツです。そのような状況の中、元澤氏は非常にクオリティーの高い作品を書き続けていたのが印象的でした。

その元澤氏がイベントより1か月後の今年2月、コールサック社より詩集『マリンスノーの降り積もる部屋で』を刊行しました。この詩集は既に各所で評判を呼んでいるため知っている方も多いでしょう。

先に提示した画像のような「白壁に殴られる血。そこから闇は始まる。夜が乱れる――――――――融ける」「錆びた鱗に過去がさんざめき、割れたグラス越しに現実が歪む」といった詩が私の中での元澤氏のイメージであったため、『マリンスノー』に関してもそういった作品が収録されているだろうと思っていました。そしたらね、いや、ぜんぜんそうじゃないのよ。芸達者だわこの方は。

たとえば表題作である「マリンスノーの降り積もる部屋で」は

流星が燃え尽きるスピードにも似た希望がきみのスマホケースで居心地悪そうな顔で挟まっている(レシートはきれいに整理しなくちゃダメだ)から人生はひとり用の携帯ゲーム端末だという人が出てくる。(後略)

といったように現代的な用語を使った散文詩です。また「煉獄鳥」は

  白よ
  淀みなくうねり燃えあがる白よ!
  その狂い立つにぎわいよ
  稲妻と焔の交わりで産み落とされたる一粒の卵の
  その玲瓏たる横顔よ
  傍聴収縮を繰り返す輪郭線よ
  (中略)
  赤面症の夜明けよ!
  くちばしの鋭さよ!
  幻よ!
  卵を破り覚束ない足取りで立つ鳥の
  慟哭とも咆哮ともつかぬ産声よ!  
  (後略)

というような、漢字過多の近代詩みたいな行分け作品もあります。やっぱさ、さまざまな芸風を試すべきよね。詩人は一つの作風に固執するタイプとさまざまなものを行うタイプに二分できるけど、詩人としての可能性を高めるなら断然後者でやっていったほうがいい。ことまだ若くてこれからも成長していく身分なら。

数ある収録作品でも私が特にグッと来たのは「映画観」。決して「映画館」の誤字ではないこの作品も引用してみましょう。

きみの好きな映画の話をしてくれ。メジャーなやつじゃなくてマイナーなやつ。初めての彼氏と映画館で、十分後に上映するという理由だけで観た面白くも面白くなくもなかった映画でも(デヴィッド・フィンチャー作品、中村哲也作品以外で頼む。贔屓の監督だから)、高校時代、サブカルにハマりたてのキミが観たアングラな映画(『ファイト・クラブ』、『パルプ・フィクション』、『バッファロー‘66』はもはやサブカルでもアングラでもないよ)でも(ある程度は)なんでもいい(なんでもいいよ)。
(中略)
(と、ここまで止めどなく喋ったところで終始苦笑いを浮かべていた彼女が
「映画なんてもう何年も見てないし……最後に観たのは『君の名は。』かなぁ」とイケアの組み立て式本棚みたいな台詞を吐くものだから僕は心底冷めてしまって、グラスに残ったレモンティーをずるずると音を立てて啜った後で退屈に会計を済ませカフェを出てそれから少し話して彼女とは別れた)。と、こんな映画、大学の自主制作映像作品でもあるわけはないが、つまるところ僕が求めているのは行為は無しに平気で二、三時間付き合ってくれるような気さくな女友達と、こんな、エッセイにも私小説にもなれないような散文を「詩」というかたちで発表されているから、というだけの理由でここまで真面目に「詩」として読んでくれている読者だ。(後略)

ン~~~~~~…………わかるっ!!! 詩中主体と作者を同一視するのはよろしくないことではあるが、「映画観」で私は元澤氏へ大いに大いに大いに大いにィッ!!!共感した。執拗なかっこはオタク特有の独白で、作品名を羅列しちゃうのもオタクの気質。でもやめられないのはそんな自分に付き合ってくれる人を探しているからだ。神聖かまってちゃんをマイナーバンドと言っていた奴に「メジャー出ている奴がマイナーかよ、せめてあぶらだこレベルからマイナーと言え!」とキレていた中学時代の自分を思い出す。

硬派な詩も、現代風なエモい詩も、そしてオタッキーな詩も、あらゆる作風を器用にこなす元澤氏はこれから詩人としての名を広めていくでしょう。


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