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世界初のRCTで業界を牽引! #不妊治療と鍼灸
鍼灸師の松浦知史と申します。よろしくお願いいたします。
「不妊治療と鍼灸」について日々学んだことをnoteに綴ろうと思い始めて、前回は国際的医学誌Journal of American Medical Association(JAMA)に掲載された論文を紹介させていただきました。
この研究では、対照群が有意に胚盤胞移植が多く、鍼治療群と偽鍼治療群とで比較を行っているので、結果に差が出ませんでした。しかし、海外の研究では、体外受精に鍼灸治療を併用する有効性や有用性について報告している論文が数多くあります。
実は、鍼灸(特に鍼の研究)の文献数自体もここ10~15年くらいでかなり増えてきています。有用性を評価できる臨床研究はまだまだ多くはありませんが、鍼灸研究のエビデンスをチャートにしました。2023年の”Kampo(漢方)”の文献数は131件で、”Acupuncture(鍼灸)”の文献数は3450件です。世界的に見てみると鍼灸の研究がどれだけ盛んに行われているかが分かります。
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鍼灸の臨床的有用性や鍼や灸の刺激によってなぜ効果が出現するのかといったメカニズムも解明されつつあり、「鍼灸にはエビデンスはない」と言えるような状態ではなくなってきました。
前置きが長くなりましたが、こうした文献数の飛躍的な向上は「一体いつ誰がムーブメントを起こしたんだろう?」と気になり、さらに「不妊治療と鍼灸の研究はいつから始まったんだろう?」とも疑問に感じました。
そこで今回はドイツの研究チームと中国武漢「同済病院」との合同研究で、妊娠率に及ぼす鍼治療の効果を評価した世界初のRCTの研究についてご紹介させていただきます。なお、この論文は米国生殖医学会American Society for Reproductive Medicine(ASMR)の学会誌であるFertility and Sterilityに掲載されました。
論文の紹介
2002年Paulusらは、生殖補助療法を受けた患者の妊娠率に対する鍼治療の影響を報告しました。
タイトル
Influence of acupuncture on the pregnancy rate in patients who undergo assisted reproductive therapy.
日本語に訳すと、「体外受精(ART)における妊娠率に及ぼす鍼治療の効果」となります。
まずは結果を見てみましょう。
鍼治療群では80人中34人(42.5%)、対照群では、80人中21人(26.3%)の臨床妊娠(胎嚢確認)が認められ(p=0.03)、鍼治療は、ART後の妊娠率を改善するために有用なツールであると報告している。
この研究では、対照群には鍼を受けていない群を設けており、結果に差が認められました。論文を読むときに大切なことは吟味することにあります。
それでは論文を日本語に翻訳したので研究の内容についても一通り目を通していきましょう。
研究の内容
研究参加者
高度生殖医療(ART)を受けている良質の胚を持つ160人の不妊患者です。
研究の実施場所
研究は、ドイツのウルムにある不妊センターで行われました。
研究の参加者と評価方法
研究参加者は、胚移植の時に鍼治療を受けてる群(n=80人)と鍼治療を受けていない群(n=80人)にランダムに割り付けました。主な評価は、臨床妊娠(胚移植の6週間後の超音波検査で胎児嚢の存在)です。
鍼治療について
鍼治療の方法は、0.25×0.25mmの鍼灸針を用いて、得気を起こした上で置鍼、10分後に再度得気を起こすために鍼を回転させ、合計25分間の置鍼の後抜鍼しました。
鍼の刺入深度は身体の部位に応じて約10~20mmでした。
鍼治療の時期は、胚移植日で①胚移植前と②胚移植後の2回実施しました。
①胚移植前
治療部位は、内関・地機・太衝・百会・帰来
②胚移植後
治療部位は、足三里・三陰交・血海・合谷および耳鍼
結果
鍼治療群では80人中34人(42.5%)、対照群では、80人中21人(26.3%)の臨床妊娠(胎嚢確認)が認められ(p=0.03)、鍼治療は、ART後の妊娠率を改善するために有用なツールであると報告しました。
この論文を読んでの私見
この研究は、2000年初頭に出された論文としては質の高い研究だと思います。もちろん不妊治療はとても変化の早い最先端分野でもあり、この論文を今の時代に合わせることはできませんが、鍼灸の臨床的有用性を示した画期的な論文であり、この研究以降、本研究を参考に世界的に高度生殖医療(ART)の際の鍼治療の効果に関する研究が行われるようになった歴史を振り返ると非常に意義のあるものだと感じました。