鍼灸はヒュドラである
鍼灸は多頭の蛇。
もとは一つの根を持つ鍼灸は、
古代中国に生まれ
その長い長い歴史の中で
様々に分派し、
今は、「鍼灸」という単語に、
たった一つの意味を持たせることは不可能なまでに
多様化してしまいました。
私が、「鍼灸っていいよー」と言ったとしても、
私の頭にある鍼灸は、
きっとあなたの頭にある鍼灸とは違う。
そんな説明の難しさを感じます。
鍼灸は、古代中国に生まれました。
そして、朝鮮半島と、日本に渡りました。
そして、明治維新までの長い期間、鍼灸を含む東洋医学が「医療」だったのです。
しかし、中国で鍼灸が生まれたのは、もっと、もっと前です。
日本に入ってくる前までも長い歴史がありましたし、日本に入ってからも、長い年月が流れました。
その間に原型が失われた部分もありますし、何より多様化しました。
また、西洋医学に対抗して、「西洋医学とは違うポジショニング」を意識した結果、
麻酔が使える西洋医学には、外科部門で太刀打ちできないと踏んだ人たちは、鍼灸を抽象化し、より東洋医学的な「神秘主義」の方向に進化させました。
一方で、へそ曲がりもいて、外科としての鍼灸にこだわり、「麻酔を使わない簡易手術」としての鍼灸の可能性を追求しました。
私はそのうち後者の鍼灸師に入ります。
同じ根から発して、今は全く違う鍼灸が、いくつも屹立しています。
同じ「鍼灸」という言葉で表現することが、誤解の種です。
「鍼灸は良いと聴く」かもしれませんが、どの鍼灸がいいのか?
Aさんに合っていた鍼灸は、Bさんには合わないかもしれない。
もし、あなたが鍼灸に興味を持って下さったとしても、
どこの鍼灸院に行っても「同じ鍼灸」が出てくることはない
ということを知っておいてください。
お寿司屋さんに行けばお寿司が食べられますが、
鍼灸院に行っても、あなたの思ったような鍼灸ではないものが
出てくるかもしれませんから。