日記(2022年9月宮崎旅行)
1日目
昨日予約メールを確認するまで、なんとなく10時くらい出発だという気がしていたが、6:45発の飛行機だった。予約したときの私はとてもやる気があったんだろう。寝不足ではあったけれど、だんだん明けていく街を見ながら乗る空港行のバスは楽しかったので結果オーライである。
宮崎空港から電車に揺られて青島へ。最初に目に入るのは、青島を取り囲む「鬼の洗濯板」と呼ばれる奇岩群である。確かに、洗濯板としか云いようのない形をしている。幅1メートルほどの岩が幾筋も、まっすぐ遠くまで続いているのだ。何も言われなければ昔の人が造った道か何かだと思いそうなくらい、整然と並んでいる。橋を渡り島に近づいていくと、なんというか、巨大な藪である。しかもその藪は見慣れない亜熱帯植物でできている。その南国風の藪のなかに、青島神社が鎮座している。ずんと濃い緑の中に、建物の朱が鮮やかだった。
青島からさらにバスに揺られて鵜戸神宮に向かう。乗っているうち、「鬼の洗濯板」は青島の専売特許というわけではないということに気づいた。同じような奇岩の海岸を何度も見たからだ。ただ、島が丸ごと洗濯板に囲まれているのは珍しいのだろう。鵜戸神宮は、海をはるかに見晴らす場所に建っている。朱色の欄干と蘇鉄と石灯籠の向こうに、渺々たる水平線が広がっている。真下を見ると、浅い海底の岩が青くはっきりと見え、大きな岩にぶつかって砕ける波の音が聞こえた。
2日目
昨夜は飫肥に泊まった。宿のご主人が、近所のスーパーの餃子がおいしいというから買ってきて焼いた。IHコンロはフライパンが離れるとピーピー言うことを知った。焦げないように揺すってるんだってば。キッチンのスポンジが臭かったのでこっそり煮沸しておいた。餃子はおいしかった。
飫肥は小京都と呼ばれてはいるが、開いてるんだか閉まってるんだか分からない店のまばらに並ぶ、眠ったような町だ。土日ならもう少し活気があるかもしれない。立派な塀から張り出した百日紅の花びらが、道に散り敷いているのが美しかった。
飫肥を出て高千穂に向かう。電車とバスを乗り継いで5時間くらいかかったと思う。
宿に着いてしばらく仮眠をとった後、女将さんに勧められた居酒屋に行った。店主が常連らしき男性と吞んでいるような店である。里芋の揚げたのと、魚介のブツ切りと納豆を混ぜたのを頼む。おいしかった。時折店主と常連が話しかけてきた。店主は観光用のトロッコ電車の運転手をしていると云う。なんだか何を言っても冗談に聞こえる質の人だが本当らしかった。
3日目
朝早く起きて、高千穂峡に向かう。山道を下り、遊歩道に入ると対岸はもう絶壁で、ざんざんと流れる滝が現れる。観光サイトの写真でよく見た場所だ。
しかし私が心惹かれたのは、滝を背にしてしばらく行ったところに聳える巨大な絶壁だ。大きく高く荒々しく、ずんとそこに在る。動くもののない閑けさ。細い木や草がへばりつくように生え、時折風に揺れはするが、そんな小さな動きは飲み込んでしまうような、巨大な閑けさである。ちょうど山を越えて昇ってきた朝日が射して、岩壁の半分を照らしていた。
8時半になると、ボート乗り場が開くので行ってみる。ボートを漕ぐのは初めてだったが、熊つぁん風のお兄さんが丁寧に教えてくださった。が、大丈夫ですか、大丈夫じゃないです、という問答を5回以上繰り返しても私の櫂捌きはぜんぜん大丈夫にならない。諦めてとりあえず漕ぎ出してみる。漕いでいるうちになんとなく分かってはくるが、他のボートにぶつかっては謝りまくったし、滝の真下までは行けなかった。都内の公園で練習しておくんだった。とはいえ、漕ぐのは楽しかったし、下から見る滝も美しかった。
午後は天岩戸神社へ。途中の棚田が青々と美しかった。
夜、高千穂神社の神楽を見に行く。美しく気の長い舞だった。冬に集落ごとで行う「夜神楽」は、夜を徹して舞うというから、さらに気が長い。
照明が蛍光灯でなければもっと綺麗なのにと思う。本殿に上る坂にはほんのり赤みがかった灯が点いていたから、それを使えばいい。
(追記:高千穂峡も天岩戸も、歩いていると水中・水面・地上の境目がふと分からなくなることがあった。透明度のせいだろうか。)
4日目
もう一度高千穂峡の岩壁を見たくて、朝早く行ってみる。まだ誰もいない。30分ばかりぼんやりと眺めていた。秋に来たらまた綺麗だろうと思った。