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アニメ『UNDER・NINNZYA』にて。

子供の頃から忍者は好きだった。たぶん、大体の男の子はそうではなかろうか。多くの男子に漏れず、自分もお土産の手裏剣なんかを買って飛ばしたりして遊んでいた。変身セットを買ったことはなかったが。
漫画、ゲーム、アニメ、映画、あらゆる媒体でこすられまくっているコンテンツ、忍者。もはや題材にされるなどありふれ過ぎて新鮮さは皆無。どうやって観客に食いついてもらうか。ストーリーも大事だが、どちらかというとどんな設定の忍者なのか、視聴者はそこに注目していると思う。どんな忍術を使うのか、リアルな表現なのか、現実離れした超能力忍法なのか。その魅せ方が作品の魅力に直結すると言っても過言ではない。
ではこの『UNDER・NINNZYA』に出てくる忍者達はどんな忍びなのか。

時は現代

時代は、忍者が最も活躍したと言われている戦国時代、ではなく、現代。超常現象めいたことも特にない。まさにリアル現代。だが歴史はちょっと違う。忍者という人種が現代まで生き残っており、日本国内で自衛隊や警察などの武力組織と肩を並べる存在になっている。その構成員はなんと20万人。普通に軍団のそれ。
設定を冷静に見ると吹き出すようなものなのだが、それを劇画調の背景とキャラデザで淡々と言われると変な説得力が出てくる。物語の展開も気持ちが盛り上がるようなシーンはほとんどない。登場人物の中には騒がしいのもいるのだが、ただ場面の空気がそこまで盛り上がることはない。

出てくる連中どいつもこいつもまっこと地味

惹き込まれるが理解力が試される

派手なシーンはほぼ皆無。見せ場みたいなシーンはあるが、どうにも盛り上がりに欠ける。全体を通して地味さが滲み出ている。
しかし、何故か惹き込まれるものがある。物語の続きが気になってくる。一話だけだとそこまでではないのだが、4話くらいになると先が気になってしょうがなくなる。原作は漫画だが、ストーリー構成と見せ方が上手いのだろう。それは原作者だけではなく、アニメ監督もまた同じ。

先にも述べたが話の構成はちょっと難しい。第一話でいきなり回想シーンから始まる。その後も頻繁に回想を挿みながら進んでいく。一応時系列の説明というか、表示だけはしてくれる。最初は少し混乱するかもしれないが、物語が進んでいくと次第にパズルのピースがはまるように繋がっていく。ここでも言うが、見せ方が上手い。

ただストーリーの根幹部分、そもそもの忍び達の戦い、それが何故起こったのか、そして現在まで続き、どのような勢力に分かれているのか、今どんな戦いが起こっているのか。要するに全体像の把握は結構難しい。ナレーションがないので登場人物達の会話から状況把握するしかない。ただこの会話も専門用語(ちょっと巫山戯た)が多く、勢力図もいささか解りづらいので、付いて行くだけでもそこそこ大変。人によっては疲れるかもしれない。

何かイベントがあると回想が始まる

登場人物達がリアルで地味で面白い

物語で踊っている人物達は絶妙な地味さを持っている。やっていることは意外と超人だったり、人でなしだったりするのだが、喋り方と演出のおかげなのか、鬼気迫るものを感じない。世界観と同じく、キャラクター達のテンションも終始、まったり。
それなりに人間関係もありそうなのだが、あんまり表面には上がって来ない。ただ薄情という印象もそこまでは感じない。
この作品に出てくる人物達はみんな基本的に内側に意識が向いている。人間誰しも内側への流れはあるが、今作品のキャラクター達は特にその傾向が強いのではと思う。自分の世界だけを見ている、と言えばいいだろうか。前述したように人間関係もあるにはあるが、自身の世界に踏み込ませるほどではない。彼ら、彼女らは常に己自身の戦場だけを見ている。

ある意味、忍者らしいかもしれない

アニメっぽくないアニメ

言うまでもないが、劇画調のアニメなので萌え系な演出は微塵もない。イケメン、美人はちらほらと出てくるが、特に萌え心が反応することはない。美人に描かれていても言動や人間性が傾き過ぎているので全く心に刺さらない。だが、そんな人間臭いキャラクター達が織りなす群像劇がこの作品の魅力の源となっている。
なろう系に出てくるようなテンプレキャラクターは最早使いふるされ、食傷気味を超えて味見拒否というレベルだ。ど甘いお菓子、ケーキ類ばかり食べていた毎日に突如として出された苦みMAXの抹茶ドリンク。舌に染み渡る渋みで心と脳みそが癒やされていく。飲み終わった後はすっきりな後味。残るのは爽快感だけだ。
昨今の萌え一辺倒になってしまったアニメの本流に嫌気がさした観客の皆さんには是非ともお勧めしたい作品だ。

作中最も美人でアイドルの山田さん

追伸

忍者モノとしては新しい作品だったと思っている。こういう表現もあるんだなと勉強にもなった。そして、やはり物語を面白くするのはキャラクターの魅力だけにあらず。話の構成、演出も大事だと実感させられた。萌え要素がほぼない今作においても、次回が待ち遠しくて仕方がないという気持ちにさせられた。安易な萌え系だけで観客を釣る手法はもう古くなりつつあると思われる。観客を惹き付けるストーリーを創れるか否かで、今後のアニメ業界で生き残れるかどうかが決まるだろう。


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