#仕事①
朝というより昼に近い時間にスヌーズ一回目で起きられない体をベッドから離す。カーテンを開けて、酒臭い室内を換気する。天気だと嬉しいのに、何となく日光を浴びると気恥しい。
手馴れた手つきで電子タバコをセッティングして、ヒーリング動画を流す。
川を見ていると鬱陶しいものが流されているような気になる。ま、気休めだけど。
同年代の女性をSNSでみていると、白湯を飲んでスキンケアして、完璧に化粧で自分を取り繕うのが普通のようだが私のモーニングルーティンは簡素で荒々しい。強いて言うなら歯を磨くのが1番時間を使っている。ちなみに朝は殆ど食べないが健康に大した影響は無い。
半乾きの髪に、無理やりヘアオイルを塗って駆け足で駅に向かう。振り返ると私の20代はいつも焦っていたし、のんびり歩くことがない。時間の算段を付けて行動するのが苦手なのは、きっと今後も治らない。
エスカレーターも使わずに階段を登って、電車に運んでもらう。ぎゅうぎゅうに詰められた電車の中ではヘッドホンの音量を上げる。
イヤホンよりヘッドホンの方がバリアを張れる気がして好きだ。
職場に始業開始7分前について、人目も気にせず30秒位で着替える。
先に着いているスタッフは、丁寧に着脱して身なりを整えているから結局最後に来た私の着替えが1番早い。きっと私みたいな大人になるべきでない事だけは認知している。
ゆとりを持って行動するのが大人という定義は誰が作ったのだろう。面倒臭い。
慣れた朝礼を終えると一気に戦闘態勢に突入。
大きめの挨拶で周りを威嚇し、今日も夜露死苦と言わんばかりに虚勢を張る。最近にしてやっと分かったのは、挨拶で一日の厄介事が回避できること。
彼女は生理、彼女は更年期、彼女は機嫌が良い、?昨日はちちくりあっていたのか等下世話な事まで推測できる。この直感は当たっているから無碍にはできない。秀でた変化があれば褒めるというマジックを使って一日の免罪符をばら撒く。これは女社会で必須の技だ。
そして私はひたすら店内という狭い世界で、ひたすら喋って、ひたすら服を売る。なんとわかりやすい世界だと思うだろうが、この世界は意外とボヤボヤ生きていられない。いっぺんに4つ以上のマルチタスクをこなし、終業まで気という気を使い切る。この歳になると自分の世話だけやっていても評価されないので、率先して他者のフォローに入る。ここで重要なのは忍法「さりげなく」。
あまりにもいやらしいフォローをすると大抵女という同業敵者は陰口と言う名の非常に面倒な攻撃をふっかけてくるから注意なのである。
実質謙虚かは置いておいて、謙虚という一種の隠れ身の術は絶対的に身を守れるから皆習得するべきだ。能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったもので、多少のクレヴァーさがある人なら共感してくれるに違いない。
休憩というオアシスタイムは食事を軽く済ませ、ニコチンを3本注入。あとは荒んだ心を鎮静させるため念入りに顔に色を入れたり、香水を嗜む。
思えば化粧は鎧と一緒なのだ。次いで、細かい色を入れる作業と香水を嗅ぐのは心のリセットにつながるからおすすめである。
この儀式をマイペースに執り行いたいから、同僚とランチを一緒するのが好きではない。
人間に接するのは、人を愛した時か、仕事の時間だけで十分だ。