日本企業の収益性が低い原因は「経営」だ!
今日は「日本企業の収益性は、なぜ低いのか?」という点について少し考えてみたいと思います。
ポイントは、
① 多くの日本企業は低収益。それが原因で、日本人の賃金は上がりづらく、個人消費は拡大しない。
② 日本企業の収益性が低い原因は「経営」。
③「経営を変える」には(少なくとも)3つのパターンがある。そして、経営を変えれば、日本企業や日本経済の成長性はもっと大きくなる可能性があるし、投資チャンスとして多くの日本人に恩恵をもたらすように思います。
と、こんな感じです。
では、早速。
1.日本企業の収益性は低いのか?
結論は、「やはり低い」ということだと思います。
そして、それが原因で「低い賃金」となり、それが「弱い個人消費」へとつながり、日本経済の成長を阻害しているという悪循環になっているように思います。
以下は、大企業・中堅企業・中小企業の「従業員一人あたりの経常利益」と「平均給与」の推移になります - 財務省の法人企業統計調査のデータから。
※ 注記
大企業=資本金10億円以上の企業
中堅企業=資本金1~10億円未満の企業
中小企業=資本金1千万円~1億円未満の企業
直近(2023年度)の経常利益は、大企業が937万円、中堅企業が248万円、中小企業が124万円となっています。
一方、平均給与(従業員一人あたりの人件費)はそれぞれ779万円、551万円、434万円です。
ポイントは、中堅・中小企業の「従業員一人あたりの経常利益が小さい」という点です。
この経常利益水準であれば、給与の引き上げは限定されますし、成長のための設備投資などもかなり制限されると思います。
「水準」を比較するために、OECDが出している「世界各国の平均年収(2023年)」のグラフを下記します - もともとのデータは「米ドル・ベース」ですが、比較しやすいように「1ドル=145円換算」にて円表示にしています。
日本の平均年収は470万円で、世界24位となっています。
(多分)多くの日本人の方々が、「この国々と並ぶくらいには豊かでありたい」と感じるイギリス(15位)、ドイツ(16位)、フランス(19位)とは、200~300万円の差があります。
上記した日本の中堅・中小企業の経常利益では、これらの国々の給与水準に追いつくことは不可能です。
そして、日本において中堅・中小企業で働く従業員の方々の割合は勤労者全体の約80%になります。
法人企業統計調査の対象となる企業は91万社になるのですが、そこに勤務する従業員の方々の総数は3,723万人です - その内訳は、大企業21.7%、中堅企業20.6%、中小企業57.7%となっています。中堅・中小企業の従業員の方々が、全体の78.3%を占めています。
「会社に勤めている人達」の約80%の人達の給与は、それほど上がらないとなりそうです。
そして、日本人の約30%は年金生活者であるという事実を加えると、多くの日本人の所得は上がらず、よって個人消費が拡大することはとても難しいという結論になりそうです。
それは、日本経済(GDP)の54%を占める個人消費があまり拡大しないということであり、日本経済も大きくならないということになりそうです。
2.なぜ、日本企業の収益性は低いのか?
いろいろな理由があるとは思いますが、最大の理由は「経営」ではないかと思っています。
例えば、中堅・中小企業の多くは30年前・40年前と同じビジネス・モデルを継続しています。
30年前・40年前は「国内の同業他社との競争」でしたが、今日では(多くのケースで)人件費の安いアジアの国々が競争相手となっています。結果、安い価格で競争せざるを得ない環境です。
また、同じ(ような)製品・サービスを生産・提供し続けている中堅・中小企業も多く、そうした製品・サービスの多くはコモディティ化したり、競争力を失ったりしています - よって、儲からなくなる。
結局、そうした「同じことを続けている」「変革できない」原因は、「経営」の意思決定や戦略性、実行性にあるのだろうと思っています。
例えば、私の住む地域から車で1時間くらいのところに鞄の下請け生産が地場産業となっている地域があります。そこには大小あわせて約100社の鞄メーカーがあるのですが、ビジネス・モデルは(少なくとも)1980年代から変わっていません。
工場の設備も(ミシンが新しくなるなどの多少の設備のアップグレードはありますが)それほど「最先端」といった域には達していません - 競合する中国やベトナムの工場の方が遥かに進んでいるようです。それに、大規模化(=規模の経済を追求)が進んでいるわけでもありません。
また、革や生地、部品などの材料の発注・納品などサプライチェーンの業務フローはほぼ1980年代のままです - 今でも電話とFAXによる発注が普通に行われています。
こうしたことが競争力を低下させ、利益を削っている大きな原因のように見えます。
そして、それは結局のところ「経営者の意思決定、戦略性、実行性の問題」ということだろうと考えます。経営者は、(やろうと思えば)それぞれのビジネスを高度化したり、規模を拡大したり、BtoCに進出したりして、より高い収益性を狙うことができたように思います。しかし、それをやらなかった、と。
但し、それらは悪い話ばかりではなく、「大きな可能性」を秘めていることでもあります。
それは、日本企業(および、日本経済)には大きく飛躍できる可能性があるということです。
多くの日本企業には、「高い技術力」「強い現場力」「勤勉な労働者」といった強みがあります。そうした強みを活かすことができる「経営」に変わることで、日本企業(および、日本経済)は大きく飛躍できる可能性があります。
これは、上場企業にも未上場企業にも共通することだろうと考えます。
3.経営を変革するには、どうしたらいいのか?
現実問題として「経営の変革」は非常に難しく、一筋縄ではいかないとは思います。
それでも、大きくは3つの方法があると思っています。
ひとつは、改革派の社長が登場すること。
例えば、2代目社長が改革派で、創業家の求心力を使って、古い体質を抜本的に変革していくようなケースです。
寿スピリッツ(2222)というお菓子メーカーがこのパターンです。
同社は鳥取県米子市に本社を置く地味な地方のお菓子メーカーでした。「観光のお土産」としてのお菓子が主力で、製造したお菓子を問屋さんに卸すという昔ながらのビジネス・モデルを行っていました。
それが、今の社長さんにかわった後、大改革が始まります。「問屋さんに卸す」から「自社で直接小売りする」へとビジネス・モデルを変革。マーケティング能力や販売能力を高度化し、結果、売上げと利益率が大きく改善。今では売上げ640億円、当期利益108億円、時価総額2,700億円の企業へと成長しています。株価は、この15年間で75倍になっています!
ふたつめは、PEファンドなどが買収し、新しい経営陣を投入するケースです。
ライフドリンクカンパニー(2585)やヨシムラ・フード・ホールディングス(2884)がこのパターンです。
ライフドリンクカンパニーは、もともとはお茶などの清涼飲料水や調味料、加工食品や菓子などを製造・卸販売する会社でした(=多角化していた)。それを(2015年に)PEファンドが買収し、「水・お茶・炭酸水」だけに絞って、コスト競争力で勝負する戦略に転換。業績を改善しています。
PEファンドが資金と経営を投入し、もともとその会社が持っていた強みや潜在力を引き出したカタチだろうと思います。
みっつめは、新しい会社が出てきて、それまでの業界のやり方やスタンダードを塗り替えていくようなケースです。
イメージとしては、ラクスル(4384)のようなパターンです。
印刷業界は元請け・下請け・孫請けなどの多重構造になっていたのと、多くの印刷工場に無駄になるキャパシティーがあり、業界全体としてとても非効率な状態でした(今でもそうだと思いますが)。その非効率を、新しいビジネス・モデルで解決し、より高い収益性を目指したのがラクスルです。
「既存の企業を再建する」というニュアンスとは異なりますが、新しいやり方で既存の産業をアップデートしていくことも「経営を変革することで、収益性を高める」方法のひとつになるのだろうと思います。
(繰り返しになりますが)日本企業には「高い技術力」「強い現場力」「勤勉な労働者」があります。より高い収益力を実現できる「経営」に変えることで、それらの潜在力は存分に発揮される(可能性がある)と思います。
そして、こうした「既存の企業や事業を”仕立て直す”」ことが、現在の日本にとっては重要な作業になると思いますし、(同時に)とても大きな投資チャンスにもなると考えます。
多くの企業の収益性が改善すれば、冒頭で書いた「日本の低い給与」の問題は解決に向かいます。
「既存の企業や産業を仕立て直す」プロセスを投資チャンスにできれば、多くの方々に高いリターンが還元され、(例えば)老後資金2,000万円問題などはかなり軽減されるのではないかと思います。
経済の発展は、先頭を走る最先端の企業がどんどん生まれ、そうした企業が未来を創っていくという部分と、既存の企業がどんどんアップデートされ、より便利で、より上質な世界になっていくという部分があると思います。
ここで書いたことは後者です。そして、後者は経済規模が大きく、多くの人々の日常にかかわることが多いという点で、結構重要な部分だと思っています。
特に、おススメの銘柄があるといった内容の記事ではなかったのですが、今の仕事に関連することを少し書いてみました。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
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