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地方のものづくり企業にありがちな失敗とその原因、および解決策
地方の下請けメーカーが、「独自ブランドと独自商品」を開発し、toCへ進出したが、商品が売れずに困っているというのはよくあるケースです。
この投稿では、ある鞄の下請けメーカーさんの事例をご紹介しながら、「どこが失敗の原因だったのか?」と「売れるようにするためには、何をする必要があるのか?」について考えてみたいと思います。
現状 - 売れない
大手鞄メーカーの下請け生産を行ってきたA社さんは、新規事業として「自社商品」の開発とtoCへの販売に進出することを決められました。
商品開発が完了し、ブランド名を決め、以下の3つの販路を用意されました。
大手量販店への卸売り
自社の直営店を出店し、そこで販売
ネット販売
しかし、まったく売れません。
なぜ、売れないのか?
売れるためには、どうしたらいいのか?
この投稿では、それらを考えてみます。
売れない原因
売れないことに対する直接的な原因は、以下の3点だと考えます。
そもそも知名度がない。誰も知らない。だから、お客様の気を引くことができない
特定のデザインが目を惹くわけでもないし、すごい機能性があるわけでもない。なので、お客様の気を引くことができない。但し、これはデザインや機能性がダメだと言いたいのではなく、「ごく普通だ」という意味です。「鞄」という開発され尽くした商品では、デザインや機能性においていきなり衆目を集めるのは至難の業だと思いますので、ある程度、しょうがないことなのかもしれません
A社は「当社の技術力で作った高品質の鞄である」点を最大のウリにしているが、ほとんどの競合商品は技術力や品質において十分に満足できるレベルに到達しており、そこにおいて差別化を図ることは非常に難しい
結果として、お客様を惹きつけることができない。仮に、惹きつけたとしても、「購入」に至るまでの十分な動機付けができていないので、実際には売れない。
こんな状況でした。
どうして、そうなってしまったのか?
上記の「売れない原因」の背後には、それを生み出しているより本質的な「真の原因」がありそうなので、そこを考えてみます。
多くのものづくり企業様と接してきた経験から、以下の2点が真の原因ではないかと考えています。
お客様目線ではなく、事業者目線で商品開発が行われている
「知名度がない」という現状からスタートして、「お客様が自社商品を購入する」ところまで辿り着くための「販売の仕組み」の設計が十分になされていない
まず最初のポイントですが、これは「ものづくり企業にありがちなこと」であり、とても重要なポイントだと思っています。
多くのものづくり企業には「自分達の目線(=事業者目線)で考えてしまう」という傾向と、そのため「結果として、技術力を前に出した商品開発」になってしまうという特長があるように感じています。
これはものづくり企業にとって技術力こそが拠り所であるためだと思われますが、これの厳しいところは「事業者のこだわりは、必ずしもお客様にとって魅力的であるとは限らない」という現実です。
A社さんのケースはまったくこの通りで、技術力に自信があったため「自社の高い技術力で作った最高品質の鞄」という発想で商品開発を行い、販売促進へとつなげてきました。
結果、言葉は悪いですが「メーカーの独りよがり」的になってしまい、「売れない」という現実に直面しているというところです。
上記に対して、視点を「お客様からの目線」にしてみると異なった風景が見えてきます。
まず、お客様が鞄を購入する際の決定打となりそうな事項を考えてみます。
例えば、以下。
大好きなブランドだから
デザインがすごく気に入ったから
探していた機能があったから
など、「品質」とは別に「購入」へとつながる大切な要因があります。この要因が、お客様の「心のスイッチ」を押しているイメージです。
言い換えると、ターゲットはお客様の心の中にあるスイッチであり、商品やブランドにはそのスイッチを押す「引力」が必要だと。(※ お客様を惹きつける力になるので引力と表現しています)
A社のケースでは、商品開発の段階でこうした点に十分なフォーカスが当たっておらず、独りよがり的な商品を作ってしまい、そのまま販売促進をやっていた、というように感じます。
そして2つ目のポイントです。
「知名度がない」のが現状であり、その現状でいきなり販売するのはかなり難しいと考えます。そのため、「お客様が、A社やA社のブランドを知る」ことからスタートし、「興味を持つ」へ進み、最終的に「購入」や「ファンになる」といったゴールまで辿り着く道筋をつくることが必要になります。
A社ではその仕組みづくりが不足しており、「売れない」という現状をさらに厳しいものにしていたようです。
以下では、これら2点について具体的な改善策を考えてみます。
じゃあ、どうすればいいのか?
まず商品開発に戻って、「どんな人の、どのような心のスイッチを狙うのか?」と、「そのために、どのような引力を創るのか?」を再設計することが第一歩だと考えます。
心のスイッチには、例えばペイン(困りごと)、感情、ありたい姿などがあります。
そして、引力はそれらを解決したり、満足させたりする要因(=価値)になります。
これについては、よい事例がありますので2つご紹介します。
一つ目は、長財布のケース。
「長財布を使っているが、大きいのでポケットに入りづらい。なので、いつもバッグを持ち歩く必要があるが、これが結構面倒くさい!」と思っている人は結構いるのではないかと思います(私はこのタイプです)。
これは小さなペインなのですが、このペインを狙ったのがステータシー株式会社さんという財布などの革小物をつくっている会社さんです。
スマホサイズの「小さな長財布」をつくって(何回も)ヒットを飛ばしておられます。例えば、以下。
「ポケットにすっぽり収まる(小さな長財布)」が強力な引力となって、多くの同じ困りごとを持っている人達を惹きつけたようです。
「いつも面倒だなぁ~と思っていること」がターゲット(=心のスイッチ)で、「それを解決できる!」と思うからそのスイッチが入るということだと考えます。
もうひとつ事例を。
「品格」や「気品」を大切にしている人は多いと思います。なので、「品格ある大人に見える」は多くの人が持っている心のスイッチだと思います。
そこで、「一つ上の品格」を引力にして、「品格ある大人に見られたい」という人達を惹きつけているのが株式会社土屋鞄製作所さんだと思います。
土屋鞄さんでは、① シンプルで知性的なデザイン、② 職人さんによる手作り、③ 上質な素材、の3つにこだわっておられますが、いずれも「一つ上の品格」を実現するための構成要素だと考えます。
そして、「一つ上の品格」において競合するかもしれない海外ブランドと差別化するために「日本製の鞄」と名乗っておられます。そう名乗ることで、海外ブランドではなく日本のものづくりを好むお客様を意識して引き寄せ、(海外ブランドとは)住み分けをしておられるようです。
2つの事例のポイントは、「狙うべき心のスイッチを明確にしている」と、「そこを押すための引力をしっかり創り込んでいる」という点です。
A社さんはまず、これら2点にフォーカスしながら商品の設計をすることが必須だろと考えます。
そして、もうひとつ重要なのが「お客様の心のスイッチを押す仕組みをどのようにつくるか?」というポイント。所謂、「販売の仕組みづくり」になります。
これには、お客様が商品を購入するステップである「カスタマージャーニー」がよい指針になると考えます。例えば、お客様が初めてそのブランドや商品を知って、購入に至るまでの道筋は以下のようなイメージだと思います。
まず、何かのきっかけでそのブランド(or メーカー)なり、その商品なりを知る
その商品に、何か惹かれるもの、興味を抱くものがある
なので、より詳しく知ろうとする。あるいは、調べる
詳しく知ると、心を動かすものがあり、その商品(or ブランドや会社)に特別な感情が芽生えた
最終的な購入候補としていくつかの選択肢があったが、その中で「これが一番」だった。あるいは、「これに一番心を動かされた」ため、購入することにした
こんな感じでしょうか。
そして、それぞれのステップにおいてやるべきことは以下になります。
ターゲットするお客様との「接点」をつくる - SNS、ブログ、Youtube、HP、広報、広告、店舗など
接点づくりは「心のスイッチ」を前提につくり、そこには「引力」を埋め込んでおく
詳しく説明するためのツールとコンテンツをつくる(もちろん、引力を十分に発揮するように) - 動画、写真、文章など。また、店舗やイベント・体験会など
SNSやイベントなどからECサイトへの遷移動線をわかりやすく設計する。同時に、遷移割合をモニタリングできるように設計しておく
”決勝戦”で勝ち残るための「競争優位性」「差別化要因」を創り込む
こんな感じでしょうか。
比較的、シンプルなステップです。
実は、商品づくりには2つの側面があると考えています。
ひとつは、品質を向上させる取り組みで、これは「品質を作る」という作業。
もうひとつは、お客様にとっての特別な意味を生み出す取り組みで、これが「価値を創る」という作業だと考えています。
この2つが揃って初めて、その商品はお客様にとって「購入する価値がある」となるのだろうと。
「品質を作る」はものづくり企業のほとんどが既にやっておられる努力です。しかも、得意分野でもあります。
しかし、「価値を創る」については必ずしもすべてのものづくり企業が取り組んでおられるわけではなく、従ってここに「自社商品が売れない」という原因の多くがあるように感じています。
A社はまさにこのケースで、「価値を創る」という作業(=心のスイッチと引力)を改めて行い、その上で「販売する仕組みづくり」を設計することがポイントだろうと考えます。
まとめ
下請けメーカーが自社商品・自社ブランドを開発・販売する場合、「売れない」というケースがよくある。
ものづくり企業の特長として、事業者目線でものごとを考えがちである。
また、「技術力」を拠り所としているので「高い技術力=高い品質=他社商品との差別化」と考えがちであるが、それは往々にしてお客様にとって魅力のない商品であり、結果「売れない」となってしまう。
それを解決するためのポイントは、ターゲットすべき「お客様の心のスイッチ」を明確にすることと、それをONにできる「引力」を創ること。心のスイッチとは、例えば、お客様のペイン(困りごろ)、感情、ありたい姿など。引力は、それを解決、あるいは満足させる要因。
もう一つのポイントは、「販売の仕組み」をつくること。
知名度がない企業が新しく自社商品・自社ブランドを販売する場合、「知名度がない」という現在地からスタートして、最終的にお客様に商品を購入していただくまでの道筋をしっかり設計しておくこと。その時、指針になるのが「カスタマージャーニー」です。
いずれも、そんなに難しくない作業なのですが、ものづくり企業にとっては「やったことがない」という場合が多く、そうしたことに気づかなかったり、やり方がわからなかったりというのが多くのケースのようです。
自社商品の販売に進出されているものづくり企業の方々の参考になれば幸いです。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。