最も不幸せな国の人びと
皆さんはこれまでに、自分は今世界で最も惨めなところにいると思ったことはないでしょうか?それは小学生の頃かもしれないし、嫌な仕事をしている時、もしくはツキに見放された日のことだったかもしれませんが、これ以上の不幸はないという状況に置かれていると感じた瞬間は誰しも経験していると思います。ですが、皆さんがモルドバ共和国に居たのでない限り、それは科学的には立証されません。
『幸福学研究のゴッドファーザー』として知られているオランダの社会学者、ルート・フェーンホーヴェンは「世界幸福データベース」を主宰していおり、同氏が幸福度の見地からすべての国を精査したところ、最も幸せから遠い国と定義づけたのが、モルドバ共和国なのです。
モルドバ共和国は、元ソ連に属していたほとんど無名の国なのですが、では、どうしてこの国がこの疑わしくも不名誉な地位を得たのでしょうか?
その決定的な根拠は、モルドバ人は互いに人をまったく信用しないということにあります。モルドバ人の生活のほぼすべての面で信頼が欠如しています。こんな話があります。あまりに多くの学生が教師に賄賂を渡して合格するので、モルドバ国民は、35歳以下の医者にはかかろうとしないというのです。実は、医師免許も金で買われていると噂されているのです。これはひとえに国民の意識にこんな言葉が渦巻いているからといわれています。
「自分の知ったことではない」
この国で、集団の利益のために人びとを一致団結させることはとうてい不可能です。誰も、他者の利益になるようなことをしないのですから。信頼感、協調心の欠如は、この国を利己主義のブラックホールに変えてしまったのです。この現象はこの国特有のものでは決してありません。職員が利己主義なために業績を落とした会社や部署は多くあります。人びとの不品行は感染症のようなものです。瞬く間に蔓延し、じきに誰もが悪巧みをするようになります。誰かがズルをして逃げおおせるのを見ると、やがて皆がインチキをするようになります。これは皆が、ズルは社会通念として容認されたと勘違いすることからおきるのです。
これは誰しもにおこる話です。たとえば、皆さんは運転するとき、速度制限を常に守っていますか?守らないときがあるとしたら、それは何故ですか?つまり、行いには「良いこと」「悪いこと」「皆がやっていること」の3つの区分けが人間にはあるのです。誰かがズルをしても咎められないのを見れば、大丈夫なんだなと人は思い、自分だけが規則を守ることにバカバカしさを感じるようなるのです。そして、ズルをするようになると、その次は周りの人間が信頼できないと考えるようになります。ズルをし、人を信用しなくなると、今度は努力をしなくなるという下方スパイラルに入っていきます。仕事のチームにこのように考えてしまった悪い従業員を1人いれるだけで、チーム全体の業績は30~40%低下するといわれています。
たしかに、個人的なごまかしは短期的な利益を生むかもしれません。しかし、ほかの人もごまかすようになるのは時間の問題であり、その後は誰もが泣きを見る未来が待っています。もしそれが国単位で広がっていけば、モルドバ共和国のように利己主義な文化が構築され、公共の利益に貢献する人びとからもたらされるはずの価値が微塵もない状況になるのです。
このことからもわかるとおり、実は「社会の中で自分が置かれている場所より、その社会の質のほうが重要」なのです。「利己的な人は、始めは成功しそうに見える。ただし、長い目で見れば、彼らが成功するために必要とする環境そのものを破壊していってしまう」、要するにマキャベリ的(どんな手段や非道徳的な行為も、結果として国家の利益を増進させるのであれば許されるという考え方)に策略に長けて利己的になり始めれば、いずれは他者もそれに気づき、自分が権力の座に就く前に他者に報復されてしまうのです。万が一に成功しても、問題を抱えます。自分が成功への道はルールを破ることだと示してしまったので、周囲も同じことをし、いつの日か、自分と同じような捕食者(他人を利用する者)が目の前に現れることになるのです。また、善良な人は自分の下から去っていきます。波及効果が広がり、職場はあっという間に働きたくない場所へと変貌するのです。まるで、モルドバのように。
そうならないためにはどうしたら良いか。ある調査で、職場・チーム・家族など、さまざまな関係で周囲の人に最も望む特性は何かと尋ねたところ、答えは一貫していました。それは、「信頼性」です。長い目で見ると組織内で利己主義はうまくいかないのです。努力を極めて成功を成し遂げることは、じつは利己主義を超越し、周囲と信頼し合い、協力関係を築くことを意味します。愚直に行動することは、必ず自分に返ってくると信じて、生きていきましょう。
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