「一生、鍛冶屋。」 博多包丁職人、大庭利夫さんに取材してきました!
こんにちは。飛田ゼミなんでも取材班の砂畑龍太郎です。
今回はタイトルにもありますように、博多包丁をテーマに取材をしていきたいと思います。
はじめのあいさつはこのくらいにして早速インタビュー記事スタートです!
どうやら福岡には有名な包丁があるらしい!?
皆さんは「博多包丁」、「博多一本包丁」をご存じでしょうか。福岡に長らくお住まいの方や、TVで特集を見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
大学進学とともに福岡での暮らしを始めた鹿児島出身の僕は、博多包丁のことをお恥ずかしながらつい最近まで知りませんでした。僕が博多包丁という言葉を初めて聞いたのはアルバイトをしているバーにて。お客さんの一人が、「龍太郎、博多包丁って知ってる?」と問いかけてきたのがきっかけでした。
なるほど、どうやら博多包丁は万能な包丁らしい。しかし、三徳包丁とは何が違うんだろうか。伝統的工芸品に指定されているわけではないのか。
というくらいで博多包丁を認識していたのですが、7月一本目の記事を書くにあたり「福岡独自の何か」を探しているときにもう一度博多包丁に出会いました。そこで初めて詳しく調べてみて、「どうやらこれは面白そうだ」と漠然と思った僕はそのまま鍛冶屋さんに電話をかけました。
「そうねえ。まあ話をするくらいだったらいいですよ。」
と温かみのある声で取材を了承してくださったおじいさん。
ということでこの二日後に、福岡市中央区清川にある大庭鍛冶工場に取材に行くことになりました。
やっぱり万能、博多包丁!!
清川の町並みにポツンと一軒だけ建っている大庭鍛冶工場。入り口に今回インタビューを受けてくださった大庭利夫さんが座っておられました。
取材スタート!大庭利夫さん(右)と一枚。
ご挨拶をさせていただいてさそっく取材をスタートしました。
なんと大庭さんは御年82歳。大庭鍛冶工場の3代目の職人さんのようです。大庭鍛冶工場は大正15年に清川に建設されて以来、場所を変えずに現在でも営まれているようです。
ー大庭鍛冶工場は博多包丁を作ることを中心に営業されているんですか?
大庭さん「博多包丁と土俵ぐわやね。知っとる?土俵ぐわ。」
ー土俵ぐわって大相撲のあの土俵ぐわですか?
大庭さん「そうそう。土俵の砂をサッサッとするやつ。それを作ってるのは日本で私だけなの。」
ーえ!大庭さんお一人だけですか?
大庭さん「そう、みんな九州場所とかで来たときにね、買いに来るとよ。」
土俵ぐわを買いに来ている方々のリスト。くわ一つ一つにシリアルナンバーをふっているみたいです。
ーでは、土俵ぐわに加えて博多包丁についても教えていただいてよろしいでしょうか?
大庭さん「博多包丁は博多一本包丁ともいわれとるけど、これ一本あれば何でもこなせるとよ。出刃包丁の機能だけはないんやけどね。」
ー出刃包丁の機能以外全部ですか?
博多包丁の刃の部分
大庭さん「先の斜めの部分で野菜の皮も向けるし、刃の部分で野菜も肉も魚も切れるようになってるから、これ一本あればたいていのことはこなせるってことで博多一本包丁って呼ばれると。」
ーなるほど、博多包丁は昔から福岡のお母さんたちの料理のおともだったってことですか?
大庭さん「そうそう。博多包丁無しでは料理できないっていってくれる人も多いよ。」
と話しているときにお客さんがご来店。今回はご使用されている博多包丁を研いでもらうために足を運ばれたようで。お客さんにも博多包丁について質問させていただきました。
包丁を研いでもらうために来られたお客さんと大庭さん
ーもう長い間博多包丁を使われているんですか?
お客さん「そうねえ。丈夫だし、なんでも使えるし、昔から私はこれ一本です。」
ーそれでこうやって工場に来られて大庭さんに研いでもらってるんですね?
お客さん「そうそう。私が研ぐよりもプロに研いでほしいからねえ。大切にしたいし。」
博多包丁は福岡のお母さん方から愛されている包丁であるということを実感しました。
職人さんは大庭さんだけ。あとを継ぐ方もいない!?
ー博多包丁の職人さんは大庭さんの他にどのくらいの人数いらっしゃるんですか?
大庭さん「私もここでずっとしてるだけだから正確じゃないけど、昔は30工場あったけど、今じゃ職人っていうのは私だけなんじゃないかな。」
ーえっ、じゃあ20年後30年後は博多包丁や土俵ぐわはどうなっていくんですか?
大庭さん「そうねえ。難しいんじゃないかなと思っているけどね。」
ーそうなんですか、、、。
大庭さん「何十年か前に弟子をむかえたことがあったけど、途中でやめてしまってね。そりゃそうよ。土俵ぐわと包丁だけじゃ暮らしていけないもん。土俵ぐわも今は私の作ったのがいいって皆言ってくれてるけど、人が変われば選ぶのはむこうやからね。」
ー包丁だけじゃ大変ですか?
大庭さん「そうねえ。まず技術を身に付けるのに10年はかかるとよ。わざと難しく教えてるわけでも、数をごまかして言ってるわけじゃなくてそれくらいはかかってしまうからね。」
ー10年ですか?
大庭さん「そう。私は釣りとか将棋とか趣味がなくて、ここに座って包丁を打つことが好きだからずっと勉強してやってきたけど、それでもそのくらいはかかったよ。」
ーそうなんですね。修行するのに時間がかかることが一番大変なことですか?
大庭さん「まあそうかもね。あとは町中に工場を持てないこともあるかねえ。今はどこも都会になっていきよるから、こんなうるさい職種の工場が町中にあったら、うるさいですよって言われるとよ。私もよーく言われます。」
ーそういう問題もあるんですね。そうかあ、どなたか技術を継いでいきたいという方がいらっしゃればなと思います。
大庭さん「そうは思うけどね。私も40年前だったら元気にやってたけど、今じゃ1日に2本作るのが限界ですよ。朝から夜まで作業して。だから少しでも形にして残したいなと思ってこれを作ったとよ。」
大庭さんがすべて手作業で作ったというミニマム道具。
ーすごい、本当に小さいですね。なんでミニマムにして作ろうとしたんですか?
大庭さん「元の大きさの道具をこれだけ持ってたら相当スペース取るでしょう。だから小さくしたと。」
ーなるほど。といっても小さすぎる。
1円玉よりも小さなはさみ。はさみとしての機能もしっかりと働くようです。すごい。
大庭さんが接客をされている間に奥様にもお話を伺いました。
ーやっぱり博多包丁とか、土俵ぐわの技術を継ぐ人が居ないっていうのは寂しいことですよね。
奥様「そうねえ。せっかくここで長い間してきてるわけだからどうせなら続いてほしいけど。そううまくいかないのが現実ですから。諦めてるわけじゃないんだろうけど、正直大変よね。」
ーですね。昔から博多の家庭には備えてあった包丁がなくなってしまうと考えると寂しいですね。
奥様「しっかり手入れすれば長く使えるものだから、ぜひ長く使っていただければなあって思いますね。」
ーぜひ大切にしてほしいですね。お母さんから見てお父さんはどんな方ですか?
奥様「そうねえ。本当にまじめで、一つ一つ丁寧に作る人だね。これが職人さんなんやろうねえ、って思いながら見てる。」
ー包丁をたたいてるお父さん、かっこいいですよね。職人さんの仕事姿はやっぱりかっこいいです。
技術を継いでくれる人がいないからと、せめて形だけでも残そうと小さなサイズで道具を作った大庭さん。それを支える素敵な奥様もいらっしゃって、お話の中から仕事に対する愛情や情熱をひしひしと感じました。
どこまで行っても一生鍛冶屋。
ーやっぱり大庭さんはお仕事をすることが好きですか?
大庭さん「もちろんよ。さっきも言ったけどほかに趣味はないし、こうやって包丁作ったり、お客さんの包丁を研いだりね。それが生きがいなんよ。」
といって工場の奥からあるものを持ってきてくださいました。
大庭さん「ほらこれ。博多包丁。20年使い続けた人の博多包丁。こんなに小さくなってもまだ使えるとよ。」
20年使われた博多包丁(右)。売られているサイズの博多包丁(左)
ー20年ですか。研いでるから刃が小さくなっているってことですね。
大庭さん「そうそう。これもまだまだ使えるの。悪く言うわけではないけど、今じゃ価格の安い包丁でもいろんなのがあるけど、こうやって長く使える包丁はなかなかないからね。こんな風に長く使ってくれるお客さんがいるから私もうれしいの。」
ーそうですよね。さっきいらしていたお客さんも昔から使ってるっておっしゃってましたし。
大庭さん「結構、自分で研がずに私に研いでもらいたい人も多いのよ。」
ーいろいろな世代の方が工場をたずねてくるんじゃないですか?
大庭さん「結構いるね。お客さんも多いけど、近くの小学校の子たちが社会科見学で来てくれたりとか、アメリカのカリフォルニア大学の学生さんが毎年来てくれたりとか、テレビ番組の収録で来てくれた芸能人の人がプライベートで東京から訪ねてきてくれたりとかね。」
ーカリフォルニアからですか!芸能人の方も。たくさんの方から支持されているのが、大庭さんの博多包丁や土俵ぐわなんですね。
大庭さん「私は良いものを作ろうとして毎日働いてるだけなんだけどね。」
ーそういった大庭さんの思いに感銘して来られる方が多いんじゃないかと思います。趣味の代わりの好きなこととして鍛冶屋をしているとおっしゃっていましたが、改めて、大庭さんにとって仕事ってどんなものですか?
大庭さん「自分が職人である以上は良いものをお客さんに届けたいから、待ってもらってでも頑張って作ってるよ。昔はもっとできたけど、今はもう歳だからなかなかたくさんは作れないけどね。私はあくまでも鍛冶屋ですから、仕事の手を抜こうとは思わないし、昔より作るのに時間はかかるようになってしまったけど、ぼーっとはしちゃだめだと思ってやってる。」
ーぼーっとしちゃだめ、ですか?
大庭さん「ぼーっとしてもいいとよ。いいとよ?けど、その間は何も進歩しないからね。私も親父から『お前は包丁をたたくのが下手だからもっと練習しなさい』って言われて必死になったけどなかなか上達しなくてね。だけど、上達しないからってあきらめてぼーっとしてたってなにも進まないやろ?だから自分なりに考えてこのベルトハンマーって機械を買って、良いものを届けられるように工夫したしね。」
ーそれがきっかけでこの機械が工場に設置されたんですね。
ベルトハンマーという機械
大庭さん「そうそう。やからね、若い人たちはとは言わんけど、ぼーっとしてる間に頑張ってる人は何かしとるんやから、ずっとぼーっとしてたってだめ。まずは何かしないと始まらないとよ。」
ー本当におっしゃる通りですね。僕も頑張らないとなと思いました。包丁を取材するつもりが、こんなにやる気と勇気をいただいて、貴重なお話をありがとうございました。
大庭さん「何もいいこと言えなかったけどね、無理せずあなたも頑張ってください。今日はありがとう。」
おわりに
博多包丁の取材を通して、仕事というものに対しての考え方や、これから時代を築いていくであろう若者へのエールをいただいて本当に貴重な時間となりました。
記事を読んで博多包丁で料理をしてみたいと思った方はぜひ大庭鍛冶工場へ!大庭さんの作る包丁は工場でしか購入できないようです。
「私はどうなっても鍛冶屋の職人だから、仕事で手を抜くことはしちゃいかんとよ。」と話してくださった大庭さん。
鍛冶屋にかける熱い思いと、優しくて真面目なお人柄に惹かれてばかりの取材でした。
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Written by RYUTARO
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本記事は取材班の自主的な活動として、学生のみで取材を行いました。