選んだ道と見える景色
穏やかな秋晴れの朝、久しぶりに山登りに出かけた
8月、9月と忙しい毎日を過ごしている間に気がついたら落ち葉の舞う季節となってしまった
行き先は雨飾山
日本百名山に入っていてとても人気のある山だ
雨飾という名前も魅力的だ
近くには小谷温泉があり湯治宿が並ぶ
静かな森の中には神秘的な鎌池が横たわる
紅葉の時期になると登山口の駐車場にはツアーバスが何台も到着するほどの賑わいだ
私はと言えば生来のへそ曲がり性格なので
もう一方の大網登山口から登ることにした
曲がりくねった長い林道を走る
途中の路上には落石がゴロゴロしているのでとても緊張した
しかもマイカーの軽トラはちょうど車検に出しているところなので運転しているのは代車なのだ
大網と言えば古来日本海側の糸魚川から信州松本まで塩や海産物を運ぶ千国街道(通称塩の道)が山襞を縫うように通っていたのでこのあたりは歴史ある峠の村なのだ
ちょうど十年前の秋は小谷温泉口から登ったので今回は気分を変えてこちらから登ることにした
ちょっと遅い目の九時に登山口を出発
駐車場と言うよりちょっとぬかるんだ草むらの空き地に富山ナンバーの先客が一台あるのみ
まあそんなところだ
ここから登る人はほとんどいない
樹林帯に入る
途中渓流を渡渉していよいよ登りとなる
微妙な川幅だったので安全な渡渉点を注意深く探した
ここで足を踏み外すと一日中濡れたまま歩くことになるので少し緊張した
標高1000メートル前後からは明るいブナの森
足元にはいろんなキノコ
黄葉、紅葉も始まりだしている
Tシャツ一枚で少し汗ばむほどで歩くにはちょうど良い気温だ
誰もいない
鳥の声、枝葉が風に擦れる音が頭上から聞こえるだけ
水場があった
乾いた喉を潤す
特に岩場もなく土の山道だが落ち葉が積もっているので滑りやすい
一歩一歩慎重に登る
樹林帯から展望の開けた尾根に出た
左右は低い樹々のトンネル
ナナカマドの真紅が逆光に映える
切れ落ちた左側は谷を隔てて頚城駒ヶ岳の峰々が屛風のように連なっている
その向こうは日本海
右遠方には北アルプスの雪倉、朝日岳だろうか
雲の切れ目から霞んで見える
稜線の展望をしばらく楽しみ山頂に至る岩場に取り付いた
浮石がないか確かめながら足を進める
よいしょと岩の間から顔を出したらそこは頂上
既に大勢の登山者がいた
写真を撮ったりお湯を沸かしたりハモニカを吹いたり賑やかに談笑したりで和やかな雰囲気だ
朝から誰にも会うことなく登ってきたので突然パラレルワールドの扉を開けた気分だ
そのギャップが面白い
十年前に登った時のことはよく覚えている
御嶽山が噴火した翌日の日曜日だった
詳しい事はまだ誰も知らなかった
マンドリンを持参して弾いている人もいた
ありふれた平和な風景
その時御嶽山の山頂も同じ雰囲気だったのだろうか
噴火する直前までは
人生には選んで歩くことのできる道と受け入れるしかない運命がある
今生きている自分は奇跡の積み重ねの結果なのだろうか
それとも自ら選んで生きているようで何かに導かれるように生かされているだけなのだろうか
これまでの10年を振り返ると
自分自身の環境は大きく変化した
別れがあり
出会いもあり
大切な友を失った
遠く御嶽山の方向を眺めながらそんなことをとりとめもなく考えた
10年後再びここに立ったとしたら
どんな気持ちで自分の刻んだ道を振り返るだろうか