愛してやまないゲーム会社に一次面接でお祈りされた話
就職活動。
それは終わりの見えないトンネルの中で際限なく現実を突き付けられる、メンタルクラッシュイベントである。
事実と虚言を縫い合わせた書類を延々と作り続ける徒労感。
替えの心臓がいくらあっても足りない面接のプレッシャー。
はたまた書類と面接、双方を乗り越えてもその後届くメール一通ですべてが無に帰してしまうあっけなさ。
私自身も例に漏れずこれらすべてを経験しており、当時は非常に辛かったのだが、就職した今となってはよくある苦労話の一ページに過ぎない。
だがとある会社との出会いで我が身に降りかかった"絶望"は、未だ私の中に横たわり続けている。
これは夢と現実の境界を見失った学生が、お祈りメールという名のモーニングコールで最高に不本意な目覚めを迎える物語である。
(※すべて実話です)
1.長期インターンシップ
さて。タイトルにある通り一次面接でお祈りされた、というのは紛れもない事実なのだが。
なんと私、この会社の長期インターンシップに参加している。
それも簡単に参加できるものではなく、全国から寄せられた書類の選考を通過したごくわずかな合格者にしか権利が与えられないインターンシップに、だ。
長年一方的に想いを寄せていた相手からデートのお誘いが来た感覚とでも言えばよいのだろうか、参加のお知らせを受け取った時には嬉しすぎて思わず泣いた。
このテンションのち一次面接で落とされるってお前めちゃくちゃ態度悪かったんじゃねぇのと言われてしまいそうなので、少しばかり弁解の余地を与えてほしい。
インターンシップの内容は参加者同士でチームを組み、約2週間をかけて一般的なゲームの開発プロセスをすべて経験する、というもの。
私は何の変哲もない文系大学生で無論ゲーム開発の経験など一切なく、何もかもが手探りの毎日だった。
ゲームの企画、開発、販売資料の作成、マーケティング戦略の立案。ぺーぺーの学生にできることなど、たかが知れていた。
それでもイベントを通してでしか出会うことのなかったゲーム開発スタッフと肩を並べて手を動かす日々は本当に幸せだったし、
共にインターンシップを経験したメンバーも皆良い人ばかりで、息切れする私を幾度となく助けてくれた。
苦悩と同じだけのやりがい。気が引けるほどの手厚い指導。
充実した毎日は、あっという間に過ぎていった。
インターンシップ最終日。
私は強引にひねり出した貧相なマーケティング戦略をすべて読み上げなくてはならないという、荷の重い仕事を前にしていた。
目の前には社長や役員を含めた大勢の関係者。現地にいない社員に向けて発表の様子をリアルタイムで共有するため、撮影機材まで入っているというオマケつき。
期間ギリギリまで開発と資料作成を行っていたため発表の練習をする時間はほとんどなく、ぶっつけ本番。
未経験でド素人、ましてや学生である私が行ったプレゼンは決して褒められた出来ではなかったが、ありがたいことに物怖じせずに発表する姿勢について多くの称賛をもらった。
「あの状況で全然噛まなかったよね。すごいよ」
「発表してくれた資料の改善案について、またお話しましょう。近いうちにまた会うことになると思うので」
「〇〇部(部署名)は若手がいなくて活気がないからさ、ぜひ君に入ってほしいよ。あれだけ堂々と発表できるんだから、絶対すぐ力になれるよ」
お世話になった社員さんだけでなく、なんと役員の方々や社長までわざわざ声をかけに来てくれた。
インターンシップ合格以来の号泣。
火事場の馬鹿力とでも言うべきか、緊張することなく発表の場を乗り切った私に、寄せられる称賛の声。
憧れの空間で、憧れの人々に認められたという事実が、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
私はこの会社に入るんだ。
何の根拠もない確信に心を躍らせた私は、誰が見ても分かるほど浮足立った状態で帰路に就いた。
2.調子ライダーは止まらない
場面は変わり、数ヵ月後に開催された会社説明会。
入り口で出迎えてくれたのは、インターン参加時にお世話になった人事部の社員さん。
私の顔を見るなり名前を呼んで、笑顔で歓迎してくれた。
インターンシップ参加者は書類選考が免除されるとの説明が読み上げられたとき、いよいよ私の入社日が近づいてきたのだと口元のニヤつきが止まらなかった。
後日説明会時のお礼メールを送付した際、返信されてきたメールの末尾。なんだか意味深な一文が添えられていた。
「あなたはうちの会社よりも、もっと上を目指せると思う。
〇〇(具体的な会社名)とか」
違和感を抱いた。
本気で採用したい相手に、他社を進めるような言い回しをするだろうか?
いや、単なる考えすぎかもしれない。少なくとも、これから応募してくる学生よりかは間違いなく有利なわけだし…
大好きなゲーム会社にツテができたと信じてやまなかった私は、そう遠くない未来に迫る現実から目を背けた。
3.ご活躍をお祈りしています
人間の「勘」とは不思議なものだ。単なる偶然では済まされないほどよく当たる。
起こってほしくない、マイナスなことに限って。
一次面接後、結果通達予定期日の最終日。日が沈み辺りが暗くなった頃、満を持して届けられた1件のメール。
通販で頼んだ商品が届いたのと同じくらいの心構えで開封し、文面に目線を落とす。
「〇〇(部署名)の募集があればぜひ入ってほしかったのですが、今年度は採用の予定がなく、本当にごめんなさい」
待ち望んでいたはずの通知。
何度読み返しても目に入ってくるのは、謝罪と祈りの言葉のみ。
個人に宛てたメールの内容を無条件に公開するわけにはいかないのでこれ以上の詳細は伏せるが、
テンプレートではない、きちんと編集された文面であることは明確だった。
涙が出た。
向こうからデートに誘われて、思わせぶりな発言を何度もされて、こちらから告白したらフラれたみたいな感覚だ。
マトモに恋愛したことないけど。
脳内で怒りと悲しみがせめぎ合う。
散々褒められたのに。
説明会で再会した役員は皆、私の名前を覚えていたのに。
所属する部署の話まで持ち掛けてきたのに。
大好きなこの会社に尽くす覚悟があったのに。
どうして、
どうして。
4.絶望の正体
書いてやろうと思った。
この会社は思わせぶりな言葉で学生をその気にさせておきながら、平気な顔をして突き放す。
希望を抱いて社会の荒波に身を投じようとする学生の気持ちなんて何もわかっちゃいない。
不要なら不要だとハッキリ言ってはくれないか。
元より不要と分かっていた学生が、不要な夢を抱く前に。
カタカタと無機質な音を奏でながら、次第に量を増していく文字列。
脳内に残っていたわずかな理性が、怒りのままにキーボードを叩く手に待ったをかけた。
不採用と決めた相手に耳障りのよい言葉を羅列しておくのは、就活における企業の常套手段。
いくら私が熱のこもった恨みつらみを綴ろうと、第三者から見れば"就活のよくあるワンシーン"でしかない。
何より向こう見ずな文章をネットに流すことは、『私を採用しない』という判断を下した企業を肯定することになる。
煮えたぎる文章を削除して、就活サイトのメールボックスを確認する。
変わらず鎮座する不採用通知。縁がなかったと告げる"ありきたりではない"文章は、より自分の悲しみを煽った。
貴重な経験をさせてもらったことへの感謝と、今後も変わらず努力していく旨を綴り、返信ボタンを押した。
モニタに映る文字が歪んで見える。目元をぬぐって、パソコンの電源ボタンに手を伸ばした。
自室のベッドに横たわる。見慣れた景色を前に、ため息をひとつ。
たくさん遊んできたゲーム、長年買い集めてきたグッズ、イベントに参加して受け取った色紙。
確かに好きだった。好きだったから部屋を埋め尽くした。
だが今は違う。
ゲームで遊んでも、グッズを手に取っても、色紙を眺めても。
お祈りメールを受け取ったあの時の絶望が、鮮明によみがえってくる。
人目もはばからずわんわん泣いて、ほとぼりが冷めたころ、ようやく自分の絶望の正体に気が付いた。
長い時間をかけて書いた履歴書が無駄になることよりも、
強い重圧のかかる面接で精神をすり減らしたことよりも、
結果として不採用通知を突き付けられたことよりも。
就職活動を経験したことで好きだったものを手放しで「好き」と言えなくなる感覚。
これが私を蝕む絶望の正体だったのだ。
就職活動を終えたあと、常に黒いモヤがかかった状態で視界に入るようになってしまった"それら"。
憧れの企業への道を断たれ、別の会社の一員となった私は、思い出の詰まった"それら"を
ぜんぶ
ぜんぶ
…大切に保管している。
いやさ!今思えば完全に調子乗ってたよ!
曲がりなりにも自分の会社に興味持って踏み入ってきた学生をヨイショするのは当たり前のことだし!
インターン時から「あれ?私この仕事向いてなくね?」って薄々感じてたし!
案の定フラれたよ!?こっぴどくフラれたけどさ!
ホントに好きだったんだもん~これまでの思い出いきなり全部手放すなんて無理だよぉ~~
企業にとって私が不要な存在だったとしてもぉ!
その作品も企業も好きだった自分まで否定したくないよぉ~!!
未練タラタラのまま肩書きが学生から社会人に変わった私は、いつの間にか入社3年目となり世間の荒波に揉まれている。
結局希望する会社にも職種にも縁がなかった身だが、あれこれ文句を言いながらも余力のある状況だ。
思い出したくもない絶望を、こうして文章に残す程度には。
5.どうにでもなる
数年越しに、心の奥底に留めていた苦い経験を粛々と綴ってきたわけだが。
インターンシップに参加したことを、全くもって後悔はしていない。
結果こそ出なかったものの、単なる「好き」以上の立場で憧れの会社に向き合ったという事実は、未だに私の背中を押し続けてくれている。
そして何より、
「愛してやまないゲーム会社に一次面接でお祈りされた話」。
このフレーズに興味をそそられたあなたが、見ず知らずのド素人の書き散らしにお目通しくださっているという事実だけでも、打ちひしがれがいがあったというものだ。
"打ちひしがれがい"なんて日本語初めて使ったな。
これから就職、もしくは転職活動に挑もうとする人々に、無責任に「挑戦しろ」などと言うつもりはない。
可能性がゼロではないにせよ一瞬にして憧れが憎しみに転じる、なんてことが高確率で起こりうるのだから、最終的な判断は当人にしか下せないだろう。
あくまで私個人の認識だが、就活は「負け前提イベント多発の高難度ゲーム」程度に捉えておくのがよいと思う。
このゲームで重要なポイントは"負けても経験値が入る"ということだ。負け続けることで成長し、時には負けを笑い話にしてやるくらいの心構えがちょうどよい。
場数を踏むうちに経験値が重なって、急所に連続で当たることだってあるかもしれない。
失敗したっていくらでもコンテニューできるのだから、思うようにやればよいのだ。
私を立ち直らせたのは、皮肉にも、もう目にしたくもないと思っていたゲームからの教えだった。
~3年後~
社会人として経験を積んで、かわいい後輩もできて、少しずつ責任のある仕事も任されるようになったある日。
なんとなしにYouTubeを見ていると、お祈りされたあの会社のゲームの、新キャラクターを紹介するPVが目に留まった。
グッズこそ処分しなかったものの、祈られたトラウマは未だに癒えていないのが正直なところで、新しい情報は意図的に視界から外していたのだが。
そのキャラクター。
あまりにも"癖"だった。
気付いたらグッズポチってた。
性癖がトラウマを打ち砕いた瞬間でした。
会社への遺恨が晴れぬままグッズを買い漁る私は、
さながら人間に復讐を誓いながら人間に恋をしてしまったモンスターのようである。
拝啓、貴社。
あなた方が逃した魚が大きいか小さいかはよく分かりませんが、
癒えぬ傷と捨てきれぬ性癖を胸に抱きながら、
社会という大海を泳いでいます。
P.S.
就職先で事務担当されてる女性(かなり年上)と世間話をしていたところ、
「昔ゲーム会社でパートしてたんだよね~」という意味深なエピソードが飛び出し、
彼女の過去のパート先は私がお祈りされたあの会社であったことが判明しました。
あとインターンのメンバーのうちのひとりがこのゲーム会社の作品とは一切関係ないところで相互になったTwitterのフォロワーでした。
いくらなんでも世間狭すぎない??
怖すぎて泣いちゃった。
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