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星クズたちのバレンタイン(前編)

永谷香介。

その名前を職場のテレビで偶然見かけたナツキは一瞬かたまってしまった。
「こーちゃん…?」
年は33歳だという。あのひとで間違いないだろう。

おもわず出てしまったつぶやきを同僚の平野マリコに拾われてしまった。
「えっ、なっちゃんの知り合いなの⁉」
ギョッとするのも無理はない。
「学生時代の友だちに名前が似ていて!びっくりしたけどよく見たらさすがに違った」
「そりゃそうだよね~。
 そういえば、課長がなっちゃんのこと呼んでたよ、休み終わってからでいいって!」
「りょうかい」
「田中さぁん、ちょっといいかなぁ?」
「課長のモノマネはいいから!」
じゃあねっ、とマリコがくすくす笑いながら立ち去ったのを確認し、もう一度テレビをみる。
画面は切り替わり、スタジオでコメンテーターや芸人が談笑していた。

こーちゃんに最後に会ってからもう10年ぐらいたつだろうか。
どこで何をしているのか。
ナツキも気になってはいたが連絡しても香介からはいつしか返事が来なくなり、ナツキも香介に連絡しなくなっていた。
まさかこんな形でこーちゃんの近況を知ることになるなんて。
久しぶりに会いたいな、と思った。自分のような一般人が簡単に会えるのかはわからないが、だいたいの居場所のめどはたった。奇しくも時期は二月上旬。せっかくなのでバレンタインチョコでも持っていこうか。
「田中さん、ちょっといい?」
課長に呼ばれていたのを思い出し急いで頭を切り替える。

「じゃあそういうことで、よろしくね」
「はい、承知しました!あの、課長。別件ですみませんが、2月14日におやすみいただいてもよろしいでしょうか?安田さんと平野さんには許可いただいています」
「それならオッケー。良い休日をね」
「はい、ありがとうございます!」
デスクに戻るとマリコが意味ありげな笑顔で近づいてきた。
「よかったじゃん、楽しんでね」
「何をよ~!」
楽しい時間になるといいけど。そんな不安を悟られないようにナツキはマリコに笑顔を見せた。


そして2月14日の朝。
何を着ていけばいいかわからず黒のシャツに腕を通してみたが、なんだか喪服にみえてしまいすぐに着替える。
せっかく久しぶりにこーちゃんに会うんだし、少しおしゃれでもしようかな。
ナツキはワンピースを選んだ。色は香介が好きな紺。随所に施された金色の刺繍が星のようだ。ふんわり広がる紺のスカートは夜空である。
「まっ、紺色が好きだなんて昔の話だけどね」
ナツキはひとりつぶやいた。
まだチョコレートを買っていないのでさきにデパートに立ち寄ることにする。

デパートの特設チョコレート売り場。宝石のようなチョコレートはどれも綺麗で目移りしてしまう。その中でもひときわナツキの気を引くチョコレートがあった。

「ショコラ・エトワール」と名付けられたそのアソートは、星のチョコレートというその名の通りひとつぶ一粒が星をイメージしたデザインになっている。特に魅力的だったのが濃紺で見事なまでに真ん丸な球体に金粉がかかっているチョコレート。香介にあげるならこれしかない、とナツキは即決した。少々値は張るが、ここでケチっても仕方ないだろう。
「あの、このショコラ・エトワールっての、ください」
「おひとつでよろしかったですか?ありがとうございます。消費税込みで5500円となります」
やっぱり高いな、と内心ひるむもいまさらやめられず笑顔で支払いを済ます。

電車で移動中。電光掲示板のニュースが目に入った。
「最近このニュースばっかりだね」
「元交際相手3人連続殺人でしょ、こわすぎ」
そんな乗客の会話が耳に入ってくる。

少し疲れを感じたナツキは目を閉じて目的駅まで軽く眠ることにした。

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