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理系の事業家が関わる投資家の類型とその基礎情報

前回はこちら:

 二回にわたって、アントレプレナーファイナンスの概要について書いてきた。投資家と対峙するための基本的なファイナンスの知見がついたところで、交渉相手である投資家について少し知っておくことは意味があると考える。特に、私の本業に近い研究開発型ディープテック(本稿内はR&D型とよぶ)に関わる起業家について重要な投資期間の情報は参考になると考える。また、企業内CVCの担当者も投資段階で、すでに株主として存在する投資家について知っておくことも良いと考える。

あなたを信じるエンジェル投資家

 自身で事業資金を準備できる資産家やシリアルアントレプレナーは関係ないが、それ以外の起業家は、事業開始段階で事業資金が必要な時に助けてくれる存在がエンジェル投資家である。これらの投資家は事業に加えて、あなたに対して投資する意味合いが強い。実際の投資家には、自身の関係者(親族、友人を含む)やシード期を専門とする投資家が含まれる。
 この段階では、事業開始前、または事業開始後すぐなため、事業の不確実性が極めて高く、DCFの割引率が極めて高いといえる。よって、これらの投資家には少ない投資に対して、高い持ち分比率に相当する株式を割り当てる必要がある。つまり、彼らは大株主として自身の会社に大きな権限をもつ。よって、これらの投資家と十分な協議と合意のうえで投資を受けることが望まれる。特に、R&D型の場合、投資回収までの期間(一般的に長期間になる)の合意は重要である。さもなくば、今後の事業経営の自由度が大幅に低下する可能性をはらむ。
 そのような自由度低下の可能性を低減するため、先述の合意が適切に履行されるよう、自身の関係者とでも合意内容が詳述された契約書を交わす必要がある。このことは、他人行儀にうつるかもしれないが必要である。この必要性については、京セラ創業者の稲盛さんのお考えがとても心に残っている。トラブルの原因となる隙間がない契約書が、結局互いの長期的な良好な関係につながる。

「管理を厳格にすることで、社員が不正に手を染める悩みから解放することができる。」(稲盛和夫の実学を筆者が解釈)

あなたの事業の将来性を信じるPEファンド

 ある程度事業の輪郭が浮かび、事業収益や負債による投資以上に投資により成長を狙う場合に、PEファンドを頼ることが考えられる。理系の事業家が知るべきPEファンドの種類は2種類である。一方は、詳細は省くが、投資ファンドに適用される特別なスキーム(投資組合)によるもので、この場合の重要なポイントは運用期間が10年である。他方は、このような投資スキームを用いない投資家(ファンド)であり、運用期間の法的な制限はない。一般的には、税制上の優位な点から、いわゆるVCは前者の場合が多い。このファンド運用期間の開始日は組成した日であるため、組成後しばらくしてから投資を受けた場合、残期間が7–8年ということもある。特に、R&D型スタートアップの場合、このファンド期間のために、望まないタイミングで投資が引き上げられる可能性もあるため要注意である。最近では、投資ファンドを乗り換えによる長期間の投資を可能とする場合もあるため、投資を受ける際には、留意が必要である。

自社事業との相乗効果期待する企業投資家

 企業が新規事業や既存事業との相乗効果を期待して投資することがある。この投資家について注意すべき点は二点である。これらに十分留意すると、短期の業績や少々の業績変動を甘受いただけ、自社事業にも良い影響がある協業を推進し、自社にとってとても重要な投資家(パートナー)になる可能性を秘めている。
 ひとつは、投資家の投資経験を確認することである。あまり投資経験がない場合、投資先スタートアップの事業進捗や収益状況を経営企画や経理部門が投資責任部門に管理を厳しく要求する。その場合、それらのコミュニケーションコストが高くなり、投資責任部門のやる気が保てず、投資を持続できなくなる場合がある。この状況を緩和するため、スタートアップ側も次に留意する必要がある。それは、出資を受ける際に、話を盛りすぎないことである。ピボットが当たり前のスタートアップのノリで「できる」と言うと、それが高い確度の達成目標となり、その目標が達成できないと信用を失い、投資責任部門が塗炭の苦しみを味わうことになる。
 もうひとつは、事業会社の目的(期待している成果)を十分理解してコミュニケーションを実施することである。自身の経験だが、スタートアップ側が企業投資家に対して自社業績の報告が中心となり、投資目的に十分な報告をしていないことがあった。この場合、事業会社側は、所定の目標が未達のため、投資目的の達成が困難との判断となり、投資責任部門がその責任を問われることを理解しなければならない。

まとめ

 投資家の類型とその特徴の中でも、投資目的(と投資期間)やコミュニケーションについて書いた。私見では、R&D型スタートアップの場合、エンジェル投資を受けた後、小規模でのPoCや開発マイルストーン達成し、その成果の適用先である企業から事業出資を受けて、事業開発をすることが良いと推察する。加えて、自身の事業領域に定評があるPEファンドからの投資を受けて自身の企業の信用を上げる(ファイナンスの理論では「ボンディング」という。今後ポストを予定)ことも良いと考える。しかし、(繰り返しになるが)事業化までの時間が推定困難なため、PEファンドを資金調達の主軸に据えると期間の問題が難しさを増す。本ポストが、自身の事業の目的や方向性に合う投資家を見つけ、良好なコミュニケーションで事業経営のファイナンス部分の苦労を低減できることに資すれば幸いである。
 最後に、一度投資を受けたら戻ることが極めて困難なため(株式を買い取るなど)、資金は重要であるが投資家の選択はくれぐれも慎重に。

記事を書くときの素材購入の費用などにさせてもらえればと思います。