理系の企業家も知っておきたいアントレファイナンス入門

前回はこちら:

 以前、事業資金と貸借対照表の概要をポストした。これは、貸借対照表の右側が事業資金を供与していただいている、いわば企業の支援者リスト(色々なタイプのファンがいるが)であることを説明した。今回は、その中の自己資本を構成する投資家*と起業家のリスクやリターンについて投資ポートフォリオ(上の過去ポストを参照)の観点を交えて説明する。社内起業家も、スピンアウトなどに備え、知っておいても損がないと考える。(前段の貸借対照表に興味がある方は下記参照)
*ここでの投資家は、VCなどのプロの投資家を想定

起業家にとって自身の会社がすべて

 多数の企業を起業し、同時期に経営されている経営者がおられることは承知しているが、圧倒的には1社を起業し、経営されている方がほとんどであろう。よって、起業する際には、資金や自身のリソースを自身の企業に投資される。換言すると、この1社の盛衰により、投資家としての起業家の投資結果が決まると言えよう。ここで、分散投資の視点を導入すると、個別リスクが分散投資で低減できない、大きなリスクを取ることとなる。それでは、投資家はどうであろうか?

投資家にとって、投資対象はone of them

 投資家は投資のプロであり、投資ポートフォリオのリスク管理を追求する。投資家は伸びそうな事業領域(換言すると市場)を設定し、そこに所属する企業へ分散投資を行う。このことにより、当該事業領域が成長すれば、個別の企業の成否に関わらず、投資ポートフォリオからリターンを得ることが可能である。よって、投資家行動は有望な事業領域を見出した後、疎漏なく当該事業領域に存在する多くの企業に分散投資することを考える。リスクの高い起業家と相対的にリスクの低い投資家のリターンは同程度であろうか?この問題意識のもと研究されてきたのがアントレプレナーファイナンスである。

両者のリスクとリターンの考え方の違い

 ファイナンスの理論的な考え方では、高いリスクには高いリターンが要求されるべきとの前提に立つため、個別リスクをとる起業家の方がその分高いリターンを得るべきである。概念的には、個別リスクを導入した企業価値評価(言い換えると個別リスクを加えた高い割引率で算出された企業価値)で起業家の株式持分を決め、残りを投資家の持分とするという考え方である。よって、起業家と投資家が同じ投資額の場合、個別リスクが高いほど、起業家の持分比率が高いことになる。

まとめ

 前回の分散投資の考え方を応用した、株主としての起業家と投資家の株式持分比率の考え方を示すアントレプレナーファイナンスを概観できたのなら幸いである。しかし、実務への応用の場合、具体的な個別リスクの割引率を導く困難は伴う。少なくとも、起業家と投資家では持分比率の考え方が異なる知識は、「大人の投資家」と向き合う理系の起業家にとって交渉の一助になると考える。

※参考図書


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Nobu Fuke
記事を書くときの素材購入の費用などにさせてもらえればと思います。