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ケース|研究開発型スタートアップの負債調達

前回はこちら:

 負債の貸し手(~銀行)は借り手に定常的な収益を有することを前提とし、負債返済の蓋然性を計算し、貸金の可否とその額を算出する。(以前の記事を参照)この定常的な収益が研究開発型のスタートアップには高いハードルとなることがある。私が関係する事例を開示しつつ、どのように対処したかを紹介する。参考になれば幸いである。

研究開発型スタートアップの収益

 近年、モノづくりにおいて研究開発と製造や販売が分離する事例が増加している。これは、大企業の能力や文化など(総称してケーパビリティ)が不確実性の高い研究開発実行の適合性が高くないことや、新技術や分野融合など深さと広さがました研究開発を大企業がカバーできないなどが原因であると推察される。特に、研究開発費が膨大な医療系や近年の技術革新が著しいAIや化学系(特にバイオなどの合成生物学関連)はその動きが顕著である。研究開発型事業の主な収入は、いくつかの受託開発のマイルストーンを達成することで得られるマイルストーン収入や研究開発成果を引き渡す技術供与収入があげられる。これらは、これまで製品やサービスの販売による継続する収益を事業収益と考えていた銀行にはどのようにうつるか?

銀行による上記収益の認識

 私の事例では、複数の銀行がこれらのマイルストーン収入やライセンス収入は一時的な収入であり、リスクが高く、一般的な製品やサービスの販売収益のような事業収益とは考えられないとのことであった。例えば、製造業が製造する機械に投資す生産量の増加やコスト低減をはかることが、研究開発スタートアップでは研究開発に必要な実験機材を購入し、知見を蓄積することに相当する。製品の購入可否のリスクと研究開発がマイルストーンを超えないリスクは個別事象であり、どちらがリスクが高いと断定できないと考える。しかし、貸し手から見ると後者がリスクが高いとの認識を示す。これらを払しょくできなければ負債による資金調達ができないため、どうすればよいか?

収益計上方法の工夫

 貸し手の懸念を払しょくさせるためには二つのことが必要である。まず、継続的な収入が発生させる必要がある。これについては、受託研究の場合のマイルストーン収入を細分化することと、一時金のマイルストーン収入と受託研究費に分割し、毎月の収入を確保すること考えられる。これらが難しい場合は、次善の策として、専門性を活かした事業領域の近いの事業会社の事業支援を実施することも一考の価値がある。研究開発型のスタートアップであれば、保有技術や知見(+ネットワーク)の希少性が高く、そのような事業支援の価値がでるため、事業支援により収益を得られる可能性がある。(FBのザッカーバーグ氏は、コードを書いて日銭を稼いでいたことは有名)次に、研究開発型事業の収益(マイルストーン収入など)を事業収益と認識されない点については、商品やサービスを提供する事業と自身の事業の共通性を対比により啓蒙する。例えば、商品やサービスは研究開発による研究成果、商品やサービスの販売は技術供与やマイルストーン収入である。加えて、研究開発成果の購入は契約で決まっているが、商品やサービスの顧客による購入は不確実なため、比較的、研究開発型の事業リスクが低いといえる。

 貸し手にとって、研究開発型のスタートアップの例が少なく、理解されない場合、本稿の知見を活かして対話を続け、良い融資による資金調達のオプションになる一助となれば幸いである。加えて、対話することは苦戦する研究開発型のスタートアップの仲間の一助となるため、貸し手の啓蒙活動の側面としても良い効果がある。これらを通じ、研究開発型のスタートアップ全体の資金調達が容易になると考える。
 今後も、事例があれば紹介していきたい。


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Nobu Fuke
記事を書くときの素材購入の費用などにさせてもらえればと思います。