コラム)米国企業による最近の負債による株主還元
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特に理系の事業家に向けて、負債による調達について書いてきた。最近、企業(特に米国)による負債により調達した資金を配当などの株主還元に用い、その額が当期利益を超えるという。夏休みでもあり、コラムとしてこの点についての記事により、理系の事業経営者も事業運営するうえでの資金の使途について考えるきっかけになるのではと考える。
負債による株主還元の類型
ファイナンスの観点では、資金調達による負債と株式のコストが低い方を利用すれば加重平均コスト(資金調達にかかる負債と株式によるコストの加重平均:WACC:Weightted Average Cost of Capital)が低下する。よって、低金利の現在、負債で調達した資金で株式を買い取ることでWACCを低減し、企業の事業資金負担を減少させることができる。これは株主還元とはいえ、WACCの観点から理解できる施策ではあると考える。では、もう一つの株主還元である配当はどうだろうか?
負債での資金調達できる企業の信用力は株主のもの?
企業は株主のものである。しかし、企業の事業における信用の蓄積を背景に借りることができる負債からえた事業資金を、その時の株主に配当として拠出することに違和感を感じる。ファイナンスにおけるプリンシパルーエージェント問題において、株主であるプリンシパルとエージェントである経営者の利害不一致により、株主利益が守れないことがあるという。この問題の解決策のひとつとして、経営者の報酬を株価に連動させ、両社の利害を一致させるという施策がある。この比率が高すぎることが、このような事象を助長しているのではないだろうか?個人的な意見だが、過去の企業の蓄積をこの時の経営陣と株主が独占しているように映る。
株主フレンドリー企業の破錠が増加してくるのでは
これが行き過ぎると、事業経営はうまくいっているにも関わらず、債務超過になってしまったり、Covid19のような事象が起きた時に急激に手元流動性が悪化し、企業経営が困難に陥る。昨年顕在化した、ボーイングの問題は記憶に新しい。株主と経営者が企業から得られる利益を独占するような構造について解決する手段が望まれる。蛇足だが、このような株主還元が現在の米国株式市場の上昇の要因として大きい場合、失速する恐れがあると推察する。
今回は、負債について違和感があることを書いてみた。ご自身が所属されている企業はいかがであろうか?繰り返しになるが、株主と経営者が負債を利用してこれまでの蓄積から得られる利益をとりすぎる事には疑問がある。最終的には従業員などのステークホルダーがこのような企業から離れていき、企業の持続的な成長を困難にすると考えられる。そう考えると、経営に関する論文に雇われ経営者より長期的な企業の継続をより考えるオーナー企業(特に娘婿またはその逆)の経営者の方が経営成績が良いこともうなずける。