理系の事業家 | 研究開発系スタートアップの負債調達の現状
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最近の株式市場、特にグロース株の大幅な下落から、将来のキャッシュフローを基にした資金調達が難しくなってくると推察される。その中でも、ディープテック系の融資については、市場リスクに加え、技術開発リスクもあるため、さらに資金調達が難しくなる恐れがある。これまで、いくつかの理由で負債調達の選択肢の提示を行ってきたが、最近の銀行の融資担当者との意見交換から得られた現状について共有し、資金調達の参考になればと考える。
根強い銀行の担保思想
ディープテック系のスタートアップにとって、自身が研究開発により紡ぎだす知的財産(特許以外のノウハウを含む)は、「商品」であると考えられる。実際、それを企業に売却して収入を得ることからも、それら知的財産を「商品」といってよいだろう。よって、その「商品」を作るための研究開発に対する投資は、製造業における「設備投資」のようなものである。銀行にとって、製造設備への投資はその設備が他に転用できことがほぼない(または、時価に比べて極めて安価になる)にも関わらず、担保価値があるとの点で融資が実行されることがある、一方、研究開発投資が同様の観点で「モノ」としての担保がないため、融資を受けれる可能性が極めて低い。この現時点では、「モノ」に対する信仰が根強いと言わざるを得ない状況である。
融資担当者のマインド
銀行の融資担当者にとって、融資の稟議を行内で通すことを考えれば、わかりにくい(もっと言うと、自身も十分理解できていない)案件に、感情的には支援したいと考えていたとしても、融資のための行動を起こすことが難しい状況となる。さらに、もし、融資が焦げ付いた場合、これまで実績がある製造業とかであれば比較的原因も特定し、仕方がないとの視点になることもあるが、新しいことであれば、その責任追及が厳しくなる可能性が比較的高いことも、しり込みさせる原因になっているのではと推察される。
このように、銀行の文化や担当者の低い動機を潜り抜けるにはどうしたらよいのか?
実績作りの重要性
銀行はその保守的な文化であるため、始めにくくはあるが、一度始めるとそれを実績としてみてくれることがある。よって、理系の事業家としては、不要な場合でも少額の運転資金を融資してもらい、それを期日通り返済することを繰り返すことで実績を作ることが、投資資金の融資をうけれる可能性を上げることが考える。そのためには、地元への意識が強く、各種支援制度がある可能性が高い信用金庫、地銀などとの小さな取引をはじめてみることがおすすめである。大きな資金をすぐに欲しいと思う理系の事業家にはまわり道かもしれないが、融資の視点では積み上げる信用が重要であり、近道の可能性もある。
新しい潮流
最近、下記のような銀行融資と投資の隙間を埋める金融商品も出てきている。このような資金調達手法も参考になるのではなかろうか。マネーフォワードやfreeなど、その企業用会計Saasのデータを駆使して、自身の信用システムを構築し、融資を可能にしていると推察される。
まとめ
このように、負債での資金調達は難しいが、時間をかけて信用を作れば、理系の事業家のスタートアップにとって貴重な資産となるため、小さな取引を検討してみてはどうであろうか?銀行の友人から、「お預かりしたお金をきっちり回収することが基本であり、低金利ではリスクの高い融資は難しい。」とまっとうな意見をもらい、銀行家の考えについて意識を新たにした。
最後になるが、銀行融資の場合に自社の財務諸表を開示することもあるだろうから、きれいな取引や経費使用が刻み込まれた履歴が残るような企業運営も重要であろう。